第65話 Cランク冒険者レオン
夜。
リーデルの酒場——
≪赤麦亭≫は、いつも以上に賑わっていた。
笑い声。
酒の匂い。
皿のぶつかる音。
冒険者たちの喧騒。
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その中心に——
レオンがいた。
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「おい主役!」
「飲め飲め!」
「Cランクだぞ、今日は逃がさねぇ!」
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ジョッキが押し付けられる。
肉の皿が置かれる。
肩を叩かれる。
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「おめでとう!」
「やったな!」
「もうCランクかよ!」
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次々に飛んでくる声。
レオンは少しだけ困った顔をする。
「……人が多いな」
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だが。
その口元は、わずかに緩んでいた。
「何言ってんだ!」
「主役だぞ今日は!」
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どっと笑いが起きる。
その様子を、少し離れたところから見ている人物がいた。
リーナだ。
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壁にもたれ、静かに見ている。
手には軽く持ったグラス。
だが。
視線はずっとレオンに向いていた。
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(……すごい)
これが、レオンなんだ。
この街での姿。
ただの料理人じゃない。
ただのソロ冒険者でもない。
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“認められている”
それが、はっきりと分かる。
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「おい!」
一人の冒険者がリーナに声をかける。
「お前も来いよ!」
リーナが少し驚く。
「……私?」
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「そうだよ!」
「今回一緒だったんだろ?」
「なら主役の一人だ!」
周りも頷く。
「そうそう!」
「遠慮すんな!」
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リーナは一瞬迷う。
だが。
レオンと目が合った。
レオンが軽く言う。
「来いよ」
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それだけ。
だが十分だった。
リーナが歩き出す。
輪の中へ入る。
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「ほら飲め!」
「お前もだ!」
グラスが渡される。
リーナは少しだけ戸惑いながらも受け取る。
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そして。
一口。
「……このお酒強い」
思わず言う。
周りが笑う。
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「当たり前だ!」
「赤麦亭の酒だぞ!」
「酒好きのドワーフもビックリだ!」
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また笑いが起きる。
レオンが横で言う。
「無理すんな」
リーナが少し笑う。
「大丈夫」
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その空気。
温かさ。
騒がしさ。
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気づけば——
リーナも笑っていた。
誰かが言う。
「しかしよぉ」
「闇奴隷商を潰すとはな」
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別の声。
「しかも二人でだろ?」
「頭おかしい」
笑い。
レオンは肩をすくめる。
「そうでもない」
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「いやおかしいって!」
また笑い。
騒がしい。
だが——
嫌じゃない。
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レオンがふと呟いた。
「……悪くないな」
リーナが横を見る。
「なにが?」
レオンは少しだけ考えて。
答える。
「こういうバカ騒ぎが」
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短い言葉。
だが。
そこにあるのは——
満足だった。
リーナは少しだけ目を細める。
(……本当に変な人)
だが。
その表情は柔らかい。
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焚き火の代わりに。
酒場の灯りの中で。
焚火旅団の最初の夜は——
にぎやかに、更けていった。
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夜。
酒場の喧騒を抜ける。
扉が閉まる音。
その瞬間、世界が静かになる。
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外の空気はひんやりとしていた。
火照った身体を冷ますように。
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石畳の道。
人影はまばら。
遠くで笑い声が残っている。
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レオンとリーナは並んで歩いていた。
言葉はない。
だが。
気まずさはなかった。
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しばらくして。
リーナが口を開く。
「……楽しかった?」
リーナがこちらを覗き込んでくる。
レオンが少しだけ笑う。
「そうだな」
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少し間。
足音だけが響く。
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リーナが続ける。
「……ああいうの、久しぶり」
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レオンは何も聞かない。
ただ、隣を歩く。
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そして。
リーナが立ち止まる。
レオンが振り返り、リーナが言う。
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「……私、バルディアに戻る」
空気が少しだけ変わる。
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レオンがリーナを見る。
「そうか」
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「うん」
短い返事。
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「やることは終わったし」
「向こうにも今回の件で依頼がある」
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当然の流れ。
自然な言葉。
だが——
その奥に、わずかな迷いがある。
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少しの沈黙。
リーナが、ゆっくりと言った。
「……Cランクになったんだから」
レオンを見る。
「一緒に来ない?」
一瞬。
夜が止まったように感じる。
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だが。
レオンは迷わなかった。
「行くよ」
即答だった。
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リーナの目がわずかに見開かれる。
「……早い」
レオンは肩をすくめる。
「迷う理由がない」
それだけ。
余計な言葉はない。
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リーナは少しだけ黙る。
そして——
小さく笑った。
「……ありがとう」
立ち止まる。
レオンも足を止める。
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リーナが手を差し出す。
「これからもよろしく」
まっすぐな目。
レオンはその手を見る。
そして。
何も言わずに握った。
「こちらこそ」
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短い言葉。
だが。
それで十分だった。
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手を離す。
二人はまた歩き出す。
行き先は同じ。
バルディア。
新しい場所。
新しい依頼。
新しい出会い。
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そして——
焚火の旅団としての、本当の始まり。
夜は静かに過ぎていく。
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早朝。
まだ日が完全に昇りきる前。
空気は冷たく、澄んでいる。
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ギルド裏の訓練場。
すでに人影があった。
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レオンだ。
剣を握り、構えている。
その前に立つのは——
グラード。
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「来い」
短い一言。
レオンが踏み込む。
速い。
迷いはない。
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だが——
次の瞬間。
ガンッ!
レオンが振るった剣が弾かれる。
体勢が崩れる。
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わずかな隙も見逃さず、グラードが追撃。
ドンッ!
地面に叩きつけられる。
そのまま地面を転がりながら起き上がる。
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「甘い」
グラードの声。
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レオンが、呼吸を整える。
再び構える。
---
「もう一回だ、来い」
レオンが再び踏み込む。
だが結果は同じだった。
剣が弾かれ、胴体に拳がめり込む。
吹き飛ぶ、レオン。
「次」
叩き伏せられる。
「次」
宙を舞う、レオン……。
何度も。
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その様子を、少し離れた場所から見ている者がいた。
リーナだ。
「はぁ~」
(……強い)
グラードの動き。
無駄がない。
圧倒的。
(……でも)
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視線がレオンへ向く。
(レオンも、食らいついてる)
何度倒れても。
立ち上がる。
また踏み込む。
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「はぁッ!!」
振るう。
届かない。
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また叩き落とされる。
それでも。
立つ。
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「……いい目だ」
グラードが小さく言う。
だが次の瞬間。
また倒される。
訓練が終わる頃には——
レオンはボロボロだった。
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「お前はいつもいつも……」
「……無茶しすぎ!」
神官が怒りながら駆け寄る。
回復魔法をかける。
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「治す方の身にもなって!」
レオンは顔をしかめる。
「悪い」
神官の動きがピタッと止まる。
「どうした?いつも謝罪なんかしないくせに、ついに頭がおかしくなったか?」
レオンがクスッと笑う。
「俺だって悪いと思ってるよ」
「悪いと思ってるなら毎日呼び出すな」
神官が釘をさす。
「最近は二日、三日に一回でしょ?」
「毎日と何も変わらんわ、ほらよ終わりだ」
神官はそのまま部屋の中に戻っていった。
二人のやりとりを見て、リーナが思わず笑う。
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(……ほんとに)
変な人だ。
だが。
どこか安心する。
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昼。
ギルドの食堂。
厨房の中。
レオンが立っている。
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「今日はレオンか!」
「当たりだ!」
「腹減ってたんだよ!」
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冒険者たちの声。
いつも以上に賑わっている。
レオンは淡々と料理を作る。
手際よく。
無駄なく。
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皿が次々と出ていく。
「うまっ……!」
「やっぱ違うな!」
笑顔が増える。
空気が柔らかくなる。
リーナは少し離れた席から、それを見ていた。
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(……すごい)
戦いだけじゃない
人を助けて。
人を支えて。
人を笑顔にする。
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そんな力。
(……いい場所)
小さく呟く。
そして。
少しだけ胸が高鳴る。
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視線は自然とレオンへ向いていた。
食事が落ち着いた後。
ギルドの裏。
少し静かな場所。
---
グラードが壁にもたれていた
「来たか」
レオンが歩み寄る。
リーナも後ろに立つ。
「Cランクになりました」
レオンが言う。
「それで」
少しだけ間を置く。
「バルディアに行きます」
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グラードは何も言わない。
ただ、レオンを見る。
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しばらくの沈黙。
そして。
「……そうか」
短い言葉。
だが。
その中に、全てがある。
レオンは続ける。
「世話になりました」
グラードは鼻で笑う。
そして。
一言。
「お前なら大丈夫だ」
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それだけだった。
レオンは小さく頷く。
リーナが横で静かに見ている。
言葉は少ない。
だが。
確かな信頼があった。
空を見上げる。
青い空。
この街での日々。
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だが。
次に進む時だ。
レオンが言う。
「よし……行くか」
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リーナが頷く。
「ええ」
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二人は歩き出す。
次の場所へ。
バルディアへ。
焚火の旅団の旅は——
ここから広がっていく。
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