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食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


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第59話 森の夜と料理人

 森の中。


 木々の隙間から差し込む光は、すでに夕方の色を帯びていた。


 レオンは周囲を見回す。


 地形。


 風の流れ。


 足跡。


 そして魔物の気配。


「……ここだな」


 少し開けた場所。


 背後に大きな木。


 視界が確保できる。


 野営にはちょうどいい。


 リーナが大きな木を背にもたれて様子を見ていた。


「ここでやるの?」


 レオンが頷く。


「見通しがいい」


「襲われにくい場所だ」


 リーナは少し意外そうな顔をした。


「ちゃんとしてるのね」


 レオンは苦笑する。


「一応、二年やってるからな」


 薪を集める。


 手際がいい。


 乾いた枝を選ぶ。


 太さを揃える。


 火を起こす。


 パチ、と小さな炎が生まれる。


 リーナはその様子をじっと見ていた。


「……一人でやってるの?」


 レオンは頷く。


「基本はな」


「パーティーはまだ組んでない」


 リーナは少し黙る。


 そして小さく言った。


「……あなたソロで中層まで来るの?」


 レオンが肩をすくめる。


「慣れればなんとかなる」


 リーナはレオンを見る。


 少しだけ考えるような目。


 だがそれ以上は何も言わなかった。



---


 レオンは立ち上がる。


「少し待っててくれ」


 リーナが首を傾げる。


「どこ行くの?」


「食材調達」


 そう言って森へ入っていく。


 リーナは焚き火の前に残された。


 少しだけ不安そうに周囲を見る。


 森は静かだ。


 だが。


 どこか気配がある。


 数分後。


 ガサッと音がした。


 リーナが弓を構える。


 だが。


「ただいま」


 レオンだった。


 手には。


 一匹の蛇。


 黒い鱗。


 長い体。


 そして鋭い牙。


 リーナの目が見開かれる。


「それ……」


「毒牙蛇ヴェノス」


 レオンがあっさり言う。


「さっき倒したやつ」


 リーナが一歩引いた。


「毒あるやつよね?」


「あるな」


 レオンは平然としている。


 ナイフ——蒼嵐刀を抜く。


 その刃が焚き火の光を反射する。


 リーナが少し驚く。


「……綺麗な刃」


 レオンは軽く笑う。


「もらい物だ」


 そして。


 蛇を捌き始める。


 迷いがない。


 毒腺を外す。


 血抜き。


 皮を剥ぐ。


 肉を切り分ける。


 すべてが正確。


 無駄がない。


 リーナは見入っていた。


「……すごい」


 思わず漏れる。


 レオンは手を止めずに言う。


「毒持ちは処理間違えると危ない」


「ちゃんと外せば食える」


 リーナは少し戸惑った。


「……食べるの?」


 レオンが頷く。


「うまいと思うぞ」


 当たり前のように言う。


 リーナはしばらく黙っていた。


 そして。


「……料理ができるのね」


 小さく呟く。


 レオンは少し笑った。


「一応、料理人もやってる」


 焚き火が揺れる。


 肉が並べられる。


 香草を刻む。


 鍋が火にかけられる。


 森の中。


 静かな夜が始まる。


 そして——


 その匂いが広がり始める。



---


 焚き火が静かに揺れていた。


 パチ、と薪が弾ける。


 夜の森は暗い。


 だがその中心だけ、温かい光があった。


 鍋が火にかかる。


 コトコトと音を立てる。


 香りが、ゆっくりと広がっていく。


 リーナはその匂いに気づいた。


「……なにこれ」


 思わず呟く。


 肉の匂い。


 だがそれだけじゃない。


 香草の香り。


 少し甘く、少し刺激的。


 森の中で嗅いだことのない匂い。


 レオンは鍋をかき混ぜながら言う。


「毒牙蛇ヴェノスのスープだ」


 リーナが固まる。


「……毒蛇よね?」


「ちゃんと処理してるから」


 当たり前のように言う。


 レオンは肉を取り出す。


 火の上で軽く炙る。


 表面を焼く。


 脂が落ちる。


 ジュッ——


 音が鳴る。


 香りが一気に強くなる。


 リーナの喉が、無意識に鳴った。


 ゴクリ。


 自分でも気づく。


 少しだけ恥ずかしくなる。


 レオンは気づいていない。


 肉をひっくり返す。


 焼きすぎない。


 中は柔らかく。


 そして。


 スープに戻す。


 軽く煮る。


 仕上げに。


 刻んだ香草。


 塩。


 そして。


 少しだけ火を弱める。


「これでいい」


 レオンが言った。


 鍋の蓋を開ける。


 湯気が立ち上る。


 その瞬間。


 匂いが爆発した。


 リーナの目が見開かれる。


「……っ!」


 強い香り。


 だが嫌な匂いじゃない。


 むしろ。


 食欲を刺激する。


 体が勝手に反応する。


 レオンが器によそう。


 スープ。


 柔らかい肉。


 湯気が立つ。


「ほら」


 差し出す。


 リーナは少し躊躇した。


 毒蛇。


 未知の料理。


 だが。


 匂いがそれを否定する。


「……いただきます」


 小さく呟く。


 スプーンで一口。


 口に入れる。


 ——瞬間。


 止まる。


 思考が止まる。


 味が広がる。


 柔らかい。


 驚くほど柔らかい。


 肉がほどける。


 そして。


 スープ。


 深い。


 旨味。


 香草の香り。


 すべてが混ざる。


「……なにこれ」


 声が漏れる。


 レオンが笑う。


「うまいだろ」


 リーナは答えない。


 もう一口。


 もう一口。


 止まらない。


 夢中で食べる。


 気づけば。


 器が空になっていた。


 ハッとする。


 顔を上げる。


「……え?」


 レオンが笑っている。


「早いな」


 リーナは少しだけ赤くなった。


「……その」


 言葉が出ない。


 だが。


 はっきり分かる。


「……野営でこんなに、美味しい食事は初めて」


 小さく言った。


 レオンは少しだけ真面目な顔になる。


「野営でもちゃんと食えば気持ちが変わる」


 リーナは鍋を見る。


 まだ湯気が立っている。


 匂いが続く。


 そして。


 自分の身体に気づく。


「……あれ?」


 腕を動かす。


 軽い。


 さっきまでの疲労。


 戦闘の重さ。


 それが——


 薄れている。


「なんで……」


 レオンが言う。


「気のせいじゃないよ」


 リーナが驚く。


「これ……回復してるの?」


 レオンは少しだけ考える。


 そして。


「まあ、そんな感じかな」


 軽く言う。


 リーナは鍋を見た。


 そしてレオンを見る。


 目が変わる。


 警戒ではない。


 興味。


 驚き。


 そして——


 少しの尊敬。


「……あなた」


「本当に料理人なのね」


 レオンは笑った。


「だから言っただろ」


 焚き火が揺れる。


 夜は深くなる。


 そして。


 この出会いは。


 ただの偶然では終わらない。



---


 焚き火の火が、静かに揺れていた。


 森はもう完全に夜。


 虫の音だけが響く。


 レオンは木に背を預けて座っていた。


 隣では、リーナが鍋を見つめている。


 空になった器。


 そしてまだ残る香り。


 しばらく沈黙が続いた。


 その時。


 レオンの身体に、わずかな違和感が走る。


「……ん?」


 指先が少しだけ軽い。


 呼吸が楽だ。


 体の奥が、ほんの少しだけ整うような感覚。


 その瞬間。


 頭の中に声が響いた。



---


 《スキルが発生しました》


 《毒耐性(微)を取得しました》



---


 レオンが目を細める。


「……やっぱりか」


 小さく呟く。


 リーナが顔を上げる。


「どうしたの?」


 レオンは少し考えてから言った。


「毒耐性がついた」


 リーナが固まる。


「……え?」


「さっきの料理だな」


 当たり前のように言う。


 リーナは理解が追いつかない。


「ちょっと待って」


「毒蛇を食べて」


「耐性がつくの?」


 レオンは肩をすくめる。


「たまにある」


 リーナが首を振る。


「たまにあることじゃない」


 真剣な顔。


「そんなの聞いたことない」


 レオンは少し笑った。


「俺も詳しくは知らない」


「でも、なる」


 事実だけを言う。


 リーナは黙った。


 焚き火の光の中で、レオンを見る。


 その目はもう警戒ではない。


 完全に興味。


「……変な人」


 小さく言う。


 だが。


 その声はどこか柔らかい。


 レオンは笑う。


「よく言われる」


 少し沈黙。


 森の音。


 火の音。


 その中で。


 リーナがぽつりと言った。


「……さっき助けてくれてありがとう」


 レオンが答える。


「たまたまだ」


「違う」


 リーナは首を振る。


「私、負けてた」


 少しだけ視線を落とす。


「ソロで来るべきじゃなかった」


 レオンは何も言わず、ただ聴いている。


 そして。


 リーナが顔を上げる。


「ねぇ私とパーティー組まない?」


 リーナの表情を見て真剣なのが伝わる。


 レオンも考えながら応える。


「……俺もちょうど探してる」


 リーナは少し驚いた顔をした。


 沈黙。


 焚き火の音。


 そして。


 ゆっくりとリーナが口を開く。


「……ただ条件があるわ」


 レオンが答える。


「なんだ?」


 リーナが言った。


「その料理」


 真剣な顔。


「また食べさせて」


 一瞬。


 レオンが固まる。


 そして。


 吹き出した。


「それでいいのか?」


 リーナは頷く。


「大事」


 真剣だ。


 レオンは笑った。


「分かった」


 手を差し出す。


「よろしく」


 リーナは少しだけ迷ってから——


 その手を取った。


 夜の森。


 焚き火の光。


 新しいパーティー。


 まだ小さな始まり。


 だが確かに。


 ここから。


 レオンの新しい冒険が始まった。



---

ここまで読んでいただきありがとうございます!


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次回もお楽しみに。

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