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食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


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第50話 中層野営

 《プロテクション・サークル》の淡い光が、森の空気をわずかに押し返している。


 だが中層は上層とは違う。


 湿気が重い。


 匂いが濃い。


 血と土と獣の気配が混ざっている。


「長居はできねぇな」


 カイルが低く言う。


「一時間以内に撤収だ」


 だがその間に、できることはやる。


 グランザの巨体が横たわる。


 力の塊。


 中層の象徴。


 レオンがナイフを抜く。


「ドラン、解体手伝ってくれますか」


「任せろ」


 ドランは即答する。


 盾を置き、腰の短刀を抜く。


 レオンが切り口を示す。


「筋はここ。繊維を断ち切る」


「なるほど」


 ドランは無駄がない。


 力任せではなく、レオンの動きを見て真似る。


 厚い皮を剥ぐ。


 筋肉を露出させる。


 骨格の構造を確認する。


 戦闘とは違う集中。


 ミレアが横から覗く。


「へぇ、そんな風に分けるんだ」


「適当に切ると筋が硬くて噛み切れなくなりますよ」


「了解、適当禁止ね」


 エドが魔力で小さな光を灯す。


 手元を照らす。


「中層は光量が足りないからな」


「助かります」


 切り出した肉を板にのせる。


 セシルが清めの水を少量振りかける。


「血臭を少し和らげます」


 肉の表面を拭く。


 その手つきは丁寧だ。


「セシル、香草刻めますか」


「はい」


 彼女はナイフを受け取る。


 最初はぎこちない。


 だがレオンが隣で言う。


「指を丸めて。刃は押さずに引く」


「こう、ですか?」


「そう。いいです」


 刻まれる香草。


 細かく、均一に。


 ドランが肉を持ち上げる。


「この塊はどうする」


「それは薄く切ります」


「珍しい切り方だな」


「焼きながら食べれるので時間短縮にもなります」


 レオンは首を振り。


「今日は“全員で作りましょう”」


 カイルが目を細める。


「ほう」


 焚き火を整える。


 エドが火力を安定させる。


 セシルが風を抑える。


 ミレアが乾いた枝を補充する。


 ドランが網を固定する。


 レオンは指示を出す。


「強火じゃなく、遠火で」


「焦げる前に離す」


「肉は休ませる」


 銀嵐は、自然に動いていた。


 誰か一人の作業ではない。


 パーティーで作る料理だ。


 薄く切った肉を網の上で火にかける。


 表面を固める。


 中をじわじわ温める。


 途中で一度下ろす。


 「皆で焼いていきましょうか」


「こうか」


「こんな感じ?」


ドランとミレアが焼き始める


「いいですよ」


 焼けた肉にセシルが刻んだ香草を混ぜる。


 塩を振る。


 肉と香草と絡める。


 その動きが少しずつ自然になる。


 レオンは気づく。


 セシルの手は、覚えようとしている。


 作業を、技術を。


「次は、セシルが焼いてみますか」


「わ、私がですか?」


「火から目を離さなければ大丈夫です」


 彼女が網の前に立つ。


 緊張している。


 だが真剣だ。


「焦らなくていいですよ」


 レオンが静かに言う。


「肉は、逃げないわよ」


 ミレアが笑う。


「ミレアは焦がした」


 ドランが真顔で言う。


 小さな笑いが起こる。


 森のど真ん中。


 中層の危険地帯。


 だがこの円の中だけは、温かい。


 肉が焼ける。


 香草が弾ける。


 脂が落ちる。


 煙が細く立ち上る。


 セシルが慎重に裏返す。


「……いい色です」


「上出来です」


 レオンが頷く。


 これはもう、レオン一人の料理ではない。


 銀嵐の料理だ。


 いずれ、レオンがいなくても。


 このパーティーは、料理が作れる。


 それが今、静かに形になっていた。





 網の上で、薄く切られたグランザの肉が音を立てる。


 じゅう、と。


 脂が落ち、炎が小さく揺れる。


「まだかな……これ早いかな?」


 ミレアが戸惑っている。


 ドランが肉をひっくり返す。


 少し焦げている。


「……焦げたな」


「ちょっとだけ!」


 ミレアが抗議する。


 セシルがくすりと笑う。


 その横で、自分の番を待つ。


「焦げても食べれるもん!」


 ドランが淡々と言う。


「だが今日は、焦がさない方がいい」


 レオンが笑う。


「焦げも味ですけどね」


 網から外された肉に、セシルが刻んだ香草を絡める。


 塩をひとつまみ。


 指先で揉み込む。


 その動きは、もうぎこちなくない。


 火の前に立つセシル。


 慎重に肉を置く。


 炎の揺れを見る。


 色の変化を見る。


 匂いを嗅ぐ。


「……いい香りです」


 声が少し弾む。


 レオンは何も言わない。


 ただ見守る。


 ドランが焼いた肉。


 ミレアが焦がした肉。


 セシルが丁寧に焼いた肉。


 エドが火力を微調整した肉。


 それぞれ少しずつ違う。


 だが、それがいい。


「よし」


 カイルが手を伸ばす。


 自分で焼いた一枚を取る。


 噛む。


 少し焦げの香ばしさ。


 中はまだ熱い。


 肉汁が広がる。


 目を閉じる。


「……悪くねぇ」


 ドランも自分の焼いた肉を食べる。


 ゆっくり咀嚼する。


「……うまいな」


 短い言葉だが、確信がある。


 ミレアがかぶりつく。


「んっ……!」


 言葉が出ない。


 慌てて飲み込む。


「さっきより美味しい気がする!」


「自分で焼いたからだろ」


 エドが淡々と言うが、口元は緩んでいる。


 セシルが自分の焼いた一枚を口にする。


 そっと噛む。


 瞳が少し潤む。


「……温かいです」


 ただの肉。


 ただの香草。


 だが違う。


 自分たちで解体し、焼き、味を整えた。


 命を奪い、命を繋いだ。


 中層という危険な場所で。


 レオンは、自分の分を食べる。


 同じ肉。


 同じ火。


 だが味が違う。


(……ああ)


 これは、完成だ。


 一人の技ではない。


 群れの技だ。


 カイルが静かに言う。


「なあ」


「なんですか?」


 焚き火がぱちりと弾ける。


「最っ高の飯だ」


 一瞬、空気が止まる。


 その言葉が、胸に落ちる。


 ミレアが笑う。


「いいじゃない」


 ドランが頷く。


「覚えれば作れる」


 セシルが小さく言う。


「……覚えます」


 エドが分析をやめる。


「効率も悪くない」


 レオンは、火を見つめる。


 自分がいなくても。


 このパーティーは、食べて、強くなれる。


 それが嬉しかった。


 中層の森はまだ暗い。


 だが焚き火の周りだけは、確かな光がある。


 そして銀嵐は、もう一段上へ進む準備ができていた。



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次回もお楽しみに。

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