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食べた魔物の力を取り込む【捕食者】だった俺は、最弱の村から最強の料理人を目指す  作者: RUN


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第48話 料理人の価値

 焚き火の炎が静かに揺れている。


 カイルの真剣な視線が、レオンに向けられたまま動かない。


「正式に頼む。銀嵐の料理を、お前に任せたい」


 その言葉の重さに、レオンは一瞬言葉を失った。


「……そんな事、全然構わないですよ」


 思わず問い返していた。


「俺は、ただ料理をしただけです」


 カイルは笑わなかった。


 いつもの軽さもない。


 焚き火の向こうで、静かに口を開く。


「冒険者になって十年だ」


 ぽつり、と落とすように言う。


「野営の飯は、固いパンと干し肉が当たり前だった」


 ミレアも、ドランも、エドも黙っている。


「誰も疑わなかった」


「疑う余裕もなかった」


「これが普通だって、そう思ってた」


 カイルの視線がまっすぐにレオンを射抜く。


「だが、お前はそれを壊したんだ」


 静かな声だった。


 だが、重い。


「“当たり前”を、たった一皿で壊した」


 森の風が吹く。


 レオンの胸が、ゆっくりと締め付けられる。


「……そんな、大げさな」


「大げさじゃねぇ」


 ドランが低く言う。


「俺は今まで、野営で“飯が楽しみ”だと思ったことはない」


 一拍。


「今日が初めてだ」


 ミレアが鼻をすすりながら笑う。


「悔しいけど、認めるしかないじゃない」


 エドも頷く。


「効率も上がる。精神の安定は戦闘力だ」


 セシルが静かに言う。


「皆の顔が、違いました」


 カイルが最後に言う。


「俺たちは今、安らぎを感じた」


「ただの休息が、“お前の料理で”変わった」


 レオンは、息を吸う。


 胸の奥が熱い。


 だが、これは驕りではない。


 パーティー全体の話だ。


「……皆が望むなら」


 視線を上げる。


「俺にできることなら、やります」


 カイルの口元が、ようやく笑う。


「決まりだな」



---


「よし、陣を解くぞ」


 セシルが結界石を回収する。


 空気の膜がふっと消え、森の音が戻る。


「索敵再開。油断するな」


 だが、空気は変わっていた。


 軽い。


 呼吸が合う。


 視線が自然に交わる。


 その後の討伐は、驚くほど滑らかだった。


 小型の魔物が現れる。


「右!」


「了解!」


 ミレアの矢が誘導する。


 ドランが受け止める。


 エドの魔法が削る。


 レオンが踏み込む。


 連携に迷いがない。


 無駄がない。


 群れが噛み合っている。


 まるで、同じリズムで呼吸しているようだった。



---


 夕暮れが森を赤く染める。


「よし今日はここまでだ」


 カイルが言う。


 街へ戻る。


 森を抜けると、街道の土の匂いが変わる。


 門が見える。


 リーデルの石壁が、夕陽を反射している。


 門番が銀嵐を見て頷く。


「おかえり」


「ただいま」


 ミレアが軽く手を振る。


 門をくぐった瞬間、森の緊張がほどける。


 人の声。


 商人の呼び声。


 焼き物の匂い。


 街の空気だ。


 カイルが振り返る。


「レオン」


「今日はお前の歓迎会だ」


「は?」


「文句は言わせねぇ」


 にやりと笑う。


「銀嵐は、一度決めたら祝う」


 ドランが頷く。


「異論はない」


 ミレアが笑う。


「私が一番騒ぐ」


 エドが肩をすくめる。


「報告が先だ」


 セシルが小さく頷く。


「楽しみです」


 レオンは少し戸惑いながらも、胸の奥で何かが静かに広がるのを感じていた。


 パーティーの一員として、自分がいる。


 それが少し嬉しかった。


 銀嵐は街へと歩き出す。


 だが――


 カイルの視線だけが、どこか静かだった。


 考えている。


 何かを。



---


 ギルド前の広場に戻ると、夕刻のざわめきが広がっていた。


 依頼帰りの冒険者、荷を運ぶ商人、酒場へ流れる人の波。


 銀嵐が立ち止まる。


「よし、分担だ」


 カイルが指を鳴らす。


「ドラン、ミレア。酒場で場所取り」


「任せろ」


 ドランが即答する。


「一番奥の席、取るわよ」


 ミレアが腕を回しながら笑う。


「エド、セシルはレオンを連れてギルドへ。報告と換金だ」


「了解」


 エドが淡々と答える。


 セシルも頷く。


「では、参りましょう」


 レオンが戸惑う。


「俺も……?」


「パーティーの報告だ、黙って連れて行かれろ」


 カイルが笑う。


「それから歓迎会だ。銀嵐のな」


 ドランが歩き出す前に振り返る。


「お前はどうする?」


 カイルは軽く肩をすくめる。


「ちょっと武器屋だ。メンテ頼んでくる」


「……そうか」


「じゃあ解散だ」


 それぞれが動き出す。


 だが。


 カイルだけは、その場に一瞬残った。


 笑顔が消える。


 わずかに、目が鋭くなる。


 そして、静かに歩き出した。



---


 ギルドの裏手。


 食堂の厨房。


 すでに片付けは終わっている。


 だが、奥に一つだけ灯りが残っていた。


 椅子に座る大きな影。


 隻脚の男。


「……どうしたんすか、グラードさん」


 カイルが扉を押して入る。


「もう仕事終わってるでしょ」


 グラードは顔を上げない。


「お前が来ると思っていた」


 静かな声。


 カイルが笑う。


「やっぱり、知ってましたか」


「確証はなかった」


 グラードがゆっくり顔を上げる。


「だがな……やはりスキルだろ」


 カイルの笑みが少しだけ薄れる。


「ですね……野営で料理とスキルはやばいです。」


「だから俺らに預けたんですか?」


 カイルがグラードの所まで歩いてくる。


「預けた、か」


 グラードが鼻で笑う。


「あいつは“パーティー”でこそ生きる」


「一人で抱えさせたら潰れる」


 カイルが椅子を引き、向かいに座る。


「自分の価値がこれっぽっちも分かってませんよ」


「そうだろうな」


 グラードの口元がわずかに緩む。


「ミレアなんか野営で泣いてましたよ」


「……面白ぇだろ」


「面白い通り越してやばいですよ、あいつは」


 沈黙。


 厨房は静かだ。


 遠くから酒場の喧騒が聞こえる。


 グラードが、少しだけ真顔になる。


「いずれバレる」


 低い声。


「だからお前等に渡した」


 カイルの視線が鋭くなる。


「……責任重大だな」


「だからこそ、お前等だ」


 短い言葉。


 だが重い。


「分かりました」


 カイルは立ち上がる。


「今度めし奢ってくださいよ、失礼します」


 厨房を出る。


 扉が閉まる。


 静寂。


 グラードが一人、椅子にもたれた。


 ゆっくりと笑みを浮かべる。


「面白い拾い物をしたな……」


 炎が、かすかに揺れた。



---


 酒場《赤麦亭》は、夜の熱気に包まれていた。


 笑い声、ジョッキのぶつかる音、肉を焼く匂い。


 奥の席で、ドランとミレアがすでに陣取っている。


「遅い!」


 ミレアが手を振る。


「主役が最後ってどうなのよ!」


 エドが肩をすくめる。


「報告が先だ」


 セシルが微笑む。


「お疲れさまでした、レオンさん」


 レオンは少しだけ気後れしながら席についた。


 周囲の冒険者たちがちらりと見る。


 銀嵐の席だと分かっているのだ。


 そこへ、カイルが戻ってくる。


「全員揃ったな」


 ジョッキを持ち上げる。


「今日は――」


 一拍。


「銀嵐の料理担当、レオンの歓迎会だ!」


 周囲の数人が振り向く。


「料理担当?」


「何それ」


 ミレアが机を叩く。


「野営でね!革命が起きたのよ!」


 ドランが静かに酒を飲む。


「また作れ」


 短い言葉。


 だが視線は真っ直ぐだ。


 レオンが思わず笑う。


「材料があれば」


「あるだろ、街だぞ」


 カイルが笑う。


「森より条件はいい」


 料理が運ばれる。


 焼き肉、煮込み、黒パン。


 レオンは無意識に匂いを嗅いでいた。


 火の入り方。


 脂の乗り。


 塩加減。


「もう職業病だな」


 カイルが横目で見る。


「……つい」


 ミレアがにやりとする。


「じゃあ今度ここで腕振るいなさいよ」


「おい勝手に話を進めるな」


 エドが止める。


 だがその顔はどこか柔らかい。


 セシルがジョッキを持ち上げる。


「乾杯いたしましょう」


 カイルが立ち上がる。


「銀嵐はまた強くなる」


 真剣な声。


「剣で、魔法で、そして――飯でだ」


 笑いが起きる。


「レオン」


 カイルが目を見る。


「これからも頼む」


 レオンはジョッキを持ち上げた。


「……はい」


 ぶつかる音。


「乾杯!」


 酒場に声が響く。


 ミレアがすぐに飲み干す。


「うっま!」


 ドランは静かに飲む。


 エドは計算するように飲む。


 セシルは少しだけ赤くなる。


 カイルは笑っている。


 その輪の中に、レオンがいる。


 森で戦い。


 料理を作り。


 認められ。


 必要とされた。


 群れの一員として。


 レオンはまだ知らない。


 あの一皿が、街を揺らすかもしれないことを。


 そして。


 それが、やがてもっと大きな波紋になることを。


 だが今は。


 笑い声の中で、ただ一つだけ確かなことがある。


 ここが、自分の居場所だということ。


ここまで読んでいただきありがとうございます!


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次回もお楽しみに。

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今度めしおごりですよ、失礼します 「めしおごりますよ、」かな?それとも「めしおごってくださいよ」の意味かな?
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