第46話 パーティーの完成形
連携確認のために森に入ってすぐ、カイルが足を止めた。
「まず確認な」
軽い口調だが、全員が自然と集まる。
地面に小枝で簡単な図を描く。
「今日は外縁寄り。中型を五体まで」
「六体なら?」
ミレアが即座に聞く。
「状況次第。足場悪けりゃ撤退」
迷いがない。
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枝で円を描く。
「基本形」
中央に印。
「ドランが受ける」
円の外に矢印。
「ミレアは視線を奪う」
「エドは足止め、優先は後衛狙い」
「セシルは常に全体見ろ。怪我より位置だ」
一拍。
「俺は穴埋め」
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全員が頷く。
説明は短い。
だが具体的だ。
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「新人は?」
ドランがレオンを見る。
「最初は外から見ろ」
カイルが笑う。
「混ざるのは後」
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歩き出す。
森の中での隊列は自然だった。
ドランが前。
カイルが半歩後ろ。
ミレアは高所を探す。
エドは詠唱準備。
セシルは中央後方。
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(完成してる)
動きが無駄なく、隙がない。
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藪が揺れる。
ドランが即座に盾を上げる。
「前方、2匹」
声が低い。
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「右から回り込む気配」
ミレアが囁く。
まだ姿は見えない。
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「エド、地面緩めとけ」
「了解」
魔力が流れる。
足場が微かに軋む。
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飛び出した。
灰色の牙獣。
二体。
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「受ける!」
ドランの盾に衝撃。
金属音が森に響く。
だが一歩も退かない。
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「右牽制!」
「任せろ!」
ミレアの矢が魔物の視線を逸らす。
片目をかすめる。
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「足止め入る!」
「土よ 泥の牢獄とかせ 泥濘せよ マッド・グランド」エドの魔法陣が地面に広がる。
魔物の足元が泥に変わる。
足が沈み、動きが鈍る。
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「左、首浅く!」
カイルが踏み込む。
斬る。
致命ではない。
だが崩れる。
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「ドラン、押し込め!」
「おう!」
盾で体勢を崩す。
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「今!」
ミレアの二射目。
喉に刺さる。
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倒れる。
ほぼ同時に、もう一体も処理。
三十秒。
完璧。
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静寂が戻る。
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「確認」
カイルの声。
切り替わる。
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「ドラン、衝撃どうだ」
「軽い。問題なし」
「ミレア、射線?」
「遮りなし」
「エド、魔力残量」
「八割」
「セシル?」
「怪我なし」
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簡潔。
だが抜けがない。
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「撤退ラインはあっち」
カイルが森の奥を指す。
「異常感じたら即引く」
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全員が自然に散開し、次の索敵に入る。
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(これが、パーティーの強さ)
一人で勝つのとは違う。
崩れない。
事故が起きない。
安全に勝つ。
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カイルが振り返る。
「どうだ?」
軽く笑う。
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言葉が出ない。
ただ頷く。
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「次は混ざれ」
その一言で空気が変わった。
索敵を再開する。
ミレアの声が落ちる。
「二体……いや、三体!」
枝葉の揺れ方が違う。
囲む動き。
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「予定外だな」
カイルの声は軽い。
だが目は鋭い。
「撤退ライン確認」
「北西、倒木の向こう」
エドが即答。
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「やれる」
レオンは一瞬で判断する。
カイルがパーティーに指示を出す。
「ドラン正面二体固定。レオン、右を抑えろ」
「了解!」
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初の連携だ。
胸が高鳴る。
踏み込む。
右の一体へ向かって。
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魔物の動きが速い。
だが捉えられる。
斬れる。
レオンが迷わず踏み込む。
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だが――深く入りすぎた。
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「待て!」
慌てるカイルの声。
だがもう半歩出ている。
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ドランの盾がわずかにずれる。
本来固定するはずの一体が、軸を外す。
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「射線通らない!」
ミレアの声が鋭く飛ぶ。
矢が撃てない。
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魔物がセシルへ向く。
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「セシル下がれ!」
間に合わない。
反射でカイルが踏み込む。
一撃で斬り落とす。
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レオンも一体を討ち取った。
だが――
左の一体がドランへ体当たり。
鈍い衝撃音。
盾が軋む。
一歩、下がる。
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「ドラン!」
セシルのヒールが走る。
エドが慌てて足止めを重ねる。
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カイルが滑り込む。
一閃。
終わる。
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静寂。
だが空気は重い。
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「今の、危なかったぞ」
カイルの声は低い。
軽さは消えている。
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「倒した」
反射で言う。
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「そうだな」
一拍。
「でもそれは、パーティーの勝ち方じゃねぇ」
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ドランが息を整える。
「盾の軸、ズレた」
事実だけを言う。
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エドが肩をすくめる。
「この二人はいつも詠唱の邪魔ばかりするからな」
カイルとドランを見る。
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「最近はしてねぇよ」
ドランが低く返す。
ミレアが吹き出す。
小さな笑いが起きる。
空気が少し緩む。
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セシルが柔らかく言う。
「パーティーは、呼吸です」
「一人が深く吸えば、誰かが苦しくなる」
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カイルがレオンの前に立つ。
目が変わる。
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「よく聞け」
声は低く、はっきりしている。
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「味方の位置を見ろ」
「自分の位置を見ろ」
「全体の位置を見ろ」
「退路を頭に入れろ」
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一歩、距離を詰める。
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「盾役の受ける位置」
「陽動の弓の射線」
「魔法使いの詠唱位置と射線」
「剣士同士の踏み込みの幅」
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指で地面を指す。
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「全部が一枚の絵だ」
「その中で自分がどこにいるか分かってねぇと、強さは毒になる」
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息が詰まる。
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「単独なら正解だ」
「だが今はパーティーだ」
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視線が刺さる。
怒鳴らない。
だが重い。
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「考えて動くな」
一瞬、意外な言葉。
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「感じろ」
「肌で感じて動け」
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森の匂い。
仲間の足音。
盾が軋む音。
詠唱のリズム。
矢が弦を鳴らす音。
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「それが合えば、勝ちは転がる」
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カイルが一歩下がる。
軽く笑う。
「もう一回やるぞ」
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ミレアが弓を回す。
「今度は邪魔しないでよ?」
ドランが鼻を鳴らす。
「落ち着け」
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セシルが微笑む。
「今度は、呼吸を合わせましょう」
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胸の奥が熱い。
悔しさ。
だが、それ以上に――
分かりたい。
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カイルが剣を構える。
「次で覚えろ」
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空気が、張り詰める。
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(どうすればいい?)
森の空気が重い。
さっきの失敗が頭に残っている。
焦り。
悔しさ。
胸の奥がざわつく。
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その時――
別の音が混じった。
鉄板の焼ける音。
包丁がまな板を叩く音。
火のはぜる音。
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怒鳴り声が、鮮明に響く。
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「俺等はチームだ!」
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森の音が遠のく。
料理場の熱気が蘇る。
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「全員で一つの皿を描く!」
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フライパンを振る音。
隣の鍋の煮立つ音。
盛り付けの手元。
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「俺がいなくてもダメだ!」
「こいつがいなくてもダメだ!」
「もちろんお前がいなくてもダメだ!」
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鼓動が強くなる。
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「チームを見ろ!」
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その瞬間。
森の音が一気に戻る。
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葉擦れ。
土を踏む音。
盾が軋む重さ。
弓弦が張る高い音。
詠唱の低い震え。
仲間の呼吸。
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「呼吸を合わせろ!」
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匂い。
血。
土。
汗。
風。
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「魂を感じろ!」
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視線が見える。
ドランの構え。
ミレアの狙い。
エドの詠唱のタイミング。
セシルの立ち位置。
カイルの足運び。
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全てが一枚の皿のように重なって見える。
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「皿の上の料理を描け!」
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心臓が一度、強く鳴る。
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(見える)
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自分がどこに立てばいいか。
半歩前か、半歩後ろか。
どの瞬間に踏み込めば、誰の動きが生きるか。
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藪から、中型の魔物が四体が飛び出してくる。
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「茂みから四体!」
ミレアの声。
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カイルは一瞬、退く判断がよぎる。
だが。
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レオンを横目で見た。
さっきまでと雰囲気が何処となく違う事に気づく。
あんなに出てた焦りが消えている。
立ち位置が自然だ。
ドランの軸を塞いでいない。
ミレアの射線を空けている。
エドの詠唱ラインを踏んでいない。
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カイルの口元がわずかに上がる。
(おもしれえ)
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「やるぞ!」
カイルの声が走る。
軽さはない。
鋭い。
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ドランが盾を構える。
金属が擦れる音。
地面を踏み込む重さ。
その振動が足裏に伝わる。
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(盾の軸、ここ)
自然と半歩外れる。
ドランの動線を空ける。
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「ドラン、二体固定!左押し!」
「任せろ!」
衝撃音。
魔物の爪が盾を叩く。
土が跳ねる。
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風が動く。
ミレアの弦が鳴る。
矢が空気を裂く高い音。
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(射線、通る)
体が自然に右へ流れる。
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「右削る!レオン半歩前!」
カイルの指示。
反応する。
踏み込みすぎない。
深く入らない。
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魔物の息。
獣臭。
血の匂い。
熱。
---
エドの詠唱が背後で低く震える。
魔力が空気を震わせる。
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「エド、中央止めろ!」
「凍れ、フリーズグラウンド!」
地面が凍る。
魔物の足が滑る。
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(今)
ドランの盾が押す。
その反動。
ミレアの矢が刺さる瞬間。
カイルの足音が右から迫る。
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「レオン、斜めから!」
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踏み込む。
真正面ではない。
斜め。
魔物の視界の外。
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斬る。
骨を断つ感触。
手応え。
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一体崩れる。
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「左空くぞ!」
ドランの声。
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音で分かる。
盾が深く食い込んだ。
軸が崩れかけている。
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「ミレア、牽制やめろ!撃ち抜け!」
「任せな!」
矢が喉を貫く。
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血の匂いが強まる。
だが視界は冷静だ。
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エドの魔法が爆ぜる。
熱風。
焦げた匂い。
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カイルの声が近い。
「レオン、下がれ。俺が落とす」
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即座に退く。
迷わない。
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一閃。
カイルの剣が魔物の首を裂く。
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残り一体。
暴れる。
ドランの盾に激突。
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(重い)
音で分かる。
だが崩れない。
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「セシル!」
「ヒール!」
淡い光。
ドランの呼吸が安定する。
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「レオン、今だ!」
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踏み込む。
だが一人ではない。
横にカイル。
反対側にドラン。
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三方向。
刃が同時に入る。
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静寂。
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四体。
全て倒れた。
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森の音が戻る。
風。
葉擦れ。
鳥の羽音。
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誰も倒れていない。
誰も崩れていない。
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カイルが息を吐く。
そして笑う。
「今の、見えただろ?」
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頷く。
胸が熱い。
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「頭で考えるなって言ったろ」
軽く肩を叩く。
「感じたな?」
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ドランが低く笑う。
「背中、軽かった」
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ミレアが弓を肩に掛ける。
「射線邪魔しなくなったわね」
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エドが淡々と。
「詠唱も、途切れなかった」
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セシルが微笑む。
「呼吸、合っていました」
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カイルが剣を担ぐ。
「これがパーティーだ」
一拍。
「一人で勝つより、気持ちいいだろ?」
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森の奥はまだ荒れている。
だが今。
全身で分かる。
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自分はパーティーの一部になった。
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