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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第二章 聖剣の神子

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第六十八話 リッチの本領

 先頭を進むルインが罠を発見しては鮮やかな手並みで解除していく。ルドルフとしてはエレノアの顔色をうかがう情けない姿しか印象に残っていないが、こうして見るとなかなか腕のいい盗賊だ。盗賊の腕が悪くてはさすがに第十二層まで来られないか。


 そんなことを考えていると、そのルインが通路の柱の陰に宝箱を発見した。が、それと同時に浮かない顔で言った。


「うーん、ミミックかぁ。残念」


「見ただけでわかるのかい?」


 ルインの少し後ろを進んでいるベルタが興味深そうに聞く。


「まあね」


「メア、あんたわかるかい?」


「んー、わからない。いったいどうやって見分けてるの?」


 話を振られたメアがルインに聞く。ミミックの見分けができるなど聞いたこともない。


「どうって……なんとなく?」


「えぇー」


 頼りない答えを返すルインにメアは疑いのまなざしを向けた。


「それじゃ、賭けをしよう。あの箱がミミックかミミックじゃないか。仮にミミックでもこの面子なら余裕で殴り倒せるだろう?」


 宝箱を前に話しているところ、ザイオンが前に出てきてニコニコしながら提案した。


「おっさんはどっちに賭けるんだい」


 ベルタが聞く。


「もちろんルインに賭けるさぁ。信頼で結ばれた仲間だからね」


「はいはい、それで答えがわかったよ」


 ベルタは興醒きょうざめした表情を見せる。ザイオンが負ける勝負をしない男だと知っているのだ。


「それはそうと、本当にミミックか試してみたい」


 対照的にメアは興味津々の様子だ。その提案通りに宝箱を開けてみると、それは果たしてミミックであった。哀れなミミックは四方八方から袋叩きにされてたちまち動かなくなった。


 意外な能力の持ち主が近くにいたものだなとルドルフは感心する。


 その日はそれから合計で十戦余りの戦闘を順調にこなした。トロール・ウォリアーのほかに、双頭から火を吐く黒犬オルトロスや、美しい女性の顔に下半身が蛇という半身半蛇のラミアなどが出現したが、いずれの戦いでも崩れることなく余力を残して対処できている。このアライアンスには十分に第十二層を探索する実力があるといっていいだろう。


 なお一応戦いの数に数えてはいるが、アンデッドが出現した時は戦いにすらならなかった。サイラスがさっと軽く聖剣を振るだけで、宙を飛び交うスペクターの群れが一瞬で霧散むさんして消滅する。実体を持たない霊体であろうとも関係ない。聖剣がわずかに接しただけでもアンデッドには致命傷だ。あとには無数の魔石だけが落ちている。


「いやぁ、ずっとこれでいきたいわ。楽だ楽だ」


 飄々とザイオンが言う。


「もうアンデッドだけが出るダンジョンに行けばいいのではないか?」


 あまりにもあっけない戦果を目の当たりにして、ルドルフは思わずそう口にしてしまった。実際、大陸東部には古代墳墓と呼ばれるアンデッドだけが出現するダンジョンがある。そこに行けば荒稼ぎは間違いない。


「いやぁ、それだと俺とかリズがやることなさすぎるし。楽ばかりして腕が上がらないのは困るしねぇ」


 なるほど、そう言われてみるともっともである。彼らにとって冒険者とは手段であって目的ではないのだ。


 探索のお供として携帯していた太陽石がいくらか明かりを弱め、夕方が近づいていることを示した。今日の探索はここまでと、一行はキャンプ地を定めて宿泊の準備をする。


 傍観者に徹していたルドルフが仕事を求められる場面がやってきた。この探索で唯一その本領を発揮するところといっても過言ではない。


 聖剣旅団が男女別れて二張り、刹那の色彩と子供たちで一張りの合計三張のテントがこじんまりとした部屋の中央に立てられる。おそらく魔物がやってこない安全地帯だろうと見当を付けた部屋だ。


 ルドルフはそれぞれのテントに首を突っ込み空間拡張の魔術を施していく。アリアナから流れた情報でルドルフがこうした便利魔術を使えることはここにいる全員に知られていた。


「感謝する。ダンジョンの中でも思い切り足を伸ばして寝られるのはありがたいよ」


 拡張された自分のテントを覗き込んだサイラスが言った。外から見れば男三人がなんとか寝られるだけの大きさしかないテントだが、中身は宿屋の四人部屋ほどの広さとなっている。さすがに彼らの分のベッドまではないが、快適に過ごせることは間違いない。


「いいねぇ、この魔術。教えてもらったりすることは……できないかな?」


 感心しきりのザイオンがダメ元で口にする。


「払える代価があるならいつでも? 交換条件次第だ」


「だよねぇ」


 差し出せるような品物も情報もないとザイオンは大人しく引き下がった。


 最後にエレノアとリズが寝るテントに魔術をかけようとしたところ、しかしエレノアがそれに待ったをかけた。


「このテントはけっこうです。私はリッチの世話になどなりたくありませんから」


 転移門を使いながら武器までもらっておいて、今さら何を言っているんだ? とルドルフは内心呆れたが、まあ本人がそう言うなら別に強要することでもない。ルドルフはそのままその場を立ち去ろうとした。


「わかった。私は広いところで寝たいからあっちのテントで寝るね」


 それに合わせてリズもエレノアの意見を尊重しつつ、自分の荷物を持って男連のテントに向かおうとしている。


「何を言っているんですか。そんなふしだらなことはダメです!」


 エレノアが慌ててそれを引き留めた。


「ふしだらなことを考えてるのはエレノアだけ。さすがにダンジョンの中でそんないかがわしいことなんてしない」


 リズが眉も動かさずに反論する。


「いかがわ……何がい、いかがわしいんですか! とにかくいけません!」


 エレノアが顔を真っ赤にした。


「もう文句ばっかり。私はエレノアの意地につきあってしんどい思いをしたくないの。どっちか選んでよ。私たちのテントも広くしてもらうか、私が広いテントに行くか」


「うぬぅ……」


 しばらくののち、エレノアはしぶしぶながらルドルフが自分のテントに空間拡張の魔術をかけるのを認めた。


「仕方ありません。これもパーティの風紀を守るためです」


 実はこの人けっこう面白い人なのかな、とルドルフがエレノアをしばし見つめる。


「……これで勝ったと思わないでくださいね!」


 視線に気づいた彼女はいっそう顔を赤くして捨て台詞を吐くと、ぷりぷりしながら向こうの方に行ってしまった。


「俺は勝った……のか……?」


 ルドルフが思わずそうつぶやくと、となりにいたリズは何かツボに入ったようで、口を押さえてそっぽを向き、肩を震わせていた。


 食事の時間は同じようなひと悶着もんちゃくを避けるため、ルドルフは食材等を次元収納から取り出すだけで調理はしない。


 その日の晩はバーベキューを全員で焼きながら楽しんだ。事前に誰が下ごしらえをしていたかは公然の秘密とされた。

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