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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第二章 聖剣の神子

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第六十六話 第十二層のアライアンス

 十二月の年の瀬というにはまだ早いある日。


 なんでまたこの面子なんだ。


 周りにただよう浮き立った空気とは裏腹にルドルフは憂鬱だった。また居心地最悪な聖剣の側で過ごさなければならないのか。ひとまず三日、我慢である。


 第十二層の最初の部屋は十名以上の人間が集まってにぎやかになっている。その内訳はといえば聖剣旅団五名、刹那の色彩三名、お子様三名。そしてお目付け役のルドルフである。新しい層での初めての本格的な探索に高揚している者が多かった。


 聖剣旅団と刹那の色彩はそれぞれパーティ単独での第十二層到達は割と前に達成している。ただ第十二層を探索するにはまだ実力不足と判断して先には進まず、第十一層での探索を長く続けてきた。そして最近になってようやく第十一層でも十分な余裕が出てきたので、まずはアライアンスを組んで第十二層に慣れて行こうという流れになったのである。


 第十二層に挑むこのアライアンスのメンバーに子供たちが三人もいるのは、はたから見れば何かの冗談のように思われるが、彼らも遊びで同行しているわけではない。十分戦力になると実力を認められ参加している。とはいえ、念のためお守り的な役割でルドルフがセットとなっている。やはり子供というのは予測不可能なことをしばしばしでかすからだ。特にラエルとかラエルがだ。


 いつものパーティ単位とは違った配置や役割分担となるので、入念な前打ち合わせが行われている。音頭おんどを取るアライアンスリーダーはサイラスである。参謀役のザイオンと刹那の色彩のリーダーであるベルタ、それに相談役としてルドルフが無言で傍らに立ち、編成が行われた。すでに顔見知りで互いの実力もわかっているので、話し合いはスムーズに進んだ。


 まず斥候として盗賊であるルインが先頭を進む。耳が良く勘働きの優れたメアは最後尾で背後の警戒をする。


 斥候に続く前衛がサイラス、リズ、ベルタ。魔物と遭遇したらまずサイラスが盾役として敵の動きを阻み、リズとベルタが攻撃役を務める。


 中衛にエレノア。エレノア自身の戦闘力も実はなかなかのものだが、傷を回復することのできる神官は継続戦闘の要であるため、積極的に魔物と殴りあうことはしない。一方で敵が回り込んでパーティの側面や背面を突くような時には、後衛を守るためにそれを迎え撃つ役割を担っている。バルドもまずは同じ中衛のポジションにつくことになった。戦いの最中はルインとメアも中衛に移動してそこから飛び道具で前衛をサポートする。


 そして後衛にザイオン、セラ、ラエル、シャーロット。ザイオンとセラはそれぞれ自分の担当する前衛に支援魔術をかけつつ、敵が多数の時や前衛の攻撃だけでは埒が明かない時には攻撃魔術を使う。魔術による攻撃は強力だが撃てる回数に限りがあるため、長時間の探索ではむやみやたらと使わないのが鉄則だ。特に今回は精霊使いの二人もいる。精霊使いの二人は基本的に妨害役や攻撃役だが、ラエルはくれぐれもシャーロットの言うことを聞くようにと言い含められている。


 ルドルフはおまけのように後衛にくっついていくが、戦いでは基本的にはいない者として扱われる。第十二層ならばルドルフが本気を出せばまだソロで進めてしまうからだ。それでは他のメンバーが引率されているだけになってしまい、第十二層に慣れていくためという今回のアライアンスの趣旨しゅしからは逸脱いつだつしてしまう。


「これでいいかな?」


「いいと思うね。とりあえずこれで進んでみようじゃないか」


 最後にサイラスが確認し、ベルタがうなずいた。ザイオンとルドルフにも特に異存はない。


 今回の探索ではひとまず三日をかけて第十三層を目指すのが目標となっている。第十三層の最初の部屋には第一層まで戻れる転移門がある。ので、そこまでの道を知っておけば、後々それぞれのパーティで第十二層を探索するにおいても、いざという時の撤退路が増えることになる。


 ルドルフも第十二層は知らない場所の方が多いが、つい先だってアリアナに連れられて第十三層に転移門を設置しに行ったのでそこまでの道はわかっている。一行はルドルフの指示する道順で進んだ。それぞれのパーティがマッピングしながら進んでいくので移動速度はいくらかのんびりである。


 しばらく進んでいくと早速六体のトロール・ウォリアーが闇の中から現れた。鎖鎧をまとった頑健で強靭なトロールたち。一度に現れる魔物としてはだいぶ数が多くいきなりの正念場だ。


「魔術と精霊で攻撃を頼む! 足止めしつつ敵の力を削いでくれ」


 サイラスの指示が飛ぶ。


「ここはまず我々が~。私が転ばせるので、ラエルは攻撃をお願いします~」


 シャーロットが前方に手をかざして地の精霊に呼びかける。すると地面が波打ちトロールたちの足元に無数の穴ぼこや岩のでっぱりが出現した。それに足を取られたトロールたちは次々と転んだり体勢を崩して動きを止める。


「いっくぞー。地の精霊たち! やって!」


 ラエルの声とともに極太の岩の槍が激しい勢いで林立し、トロールたちのまとう鎧ごと体を貫き粉々に引き裂いた。あとに動くものはない。こうして第十二層での初戦闘はあっさりと終焉を迎えた。


 あまりの破壊の跡に唖然あぜんとする一同。ラエルだけが得意げにしている。


「だから少しは威力を加減しろって……」


「すみません~、ここまで地下だと地の精霊の力はとても強いので~」


 メアが呆れてつぶやくとなぜかシャーロットが謝った。ちなみにシャーロットも優れた精霊使いだが、ここまで無法に精霊の力を引き出すことはできない。


 ラエルの再度の呼びかけで岩の槍が引っ込むと原型をとどめないトロール・ウォリアーたちの残骸が転がっている。戦利品として魔石はなんとか回収できたが、装備品などはのきなみダメになってしまった。


「倒すだけならいいんだけどねー」


「いや、まあ今回は戦利品も二の次でかまわないんだが……」


 あまりの惨状を前にメアとサイラスが歯切れの悪い感想を述べる。


 魔術と違って精霊使いの技は術者の魔力を使うことがない。精霊の力が尽きるまで、あるいは精霊がへそを曲げるまで無限に使うことができる。そしてこの地下深くでは地の精霊の力が尽きることはほぼあり得ないし、ラエルの呼びかけで精霊がへそを曲げることもあり得ない。要するにラエルは無限に今と同じことができるのだった。


 つまりこの調子だとラエル少年の力だけですべての戦いが終わってしまう。それが問題だった。


 というわけで、ラエルは速やかにルドルフと同じ枠に移動となった。


 期待していた称賛の言葉がなく、自分が何かをやらかしてしまったかのような空気が広がったことに、精霊でなくラエルがちょっとへそを曲げてしまった。


「やることないならもう歩きたくない」


「それじゃ、今日はもう帰るか?」


 ルドルフが声をかけた。まださほど進んでないので最初の部屋まで送っていくことは可能だ。


「ううん、師匠に運んでもらう。師匠も僕と一緒で仲間外れだもんね」


 仲間外れ仲間がいると気がついたラエルはいつぞやのようにルドルフの肩に乗り、ご機嫌なラエルとなった。セラがそれを少し嫉妬しっとの目で見ているが、今日はセラも肩の上に乗るというわけにはいかない。アライアンスメンバーとしての仕事があるからだ。


「強すぎて戦力外通告が二人目かぁ~。ちょっと茶番感でてきたねぇ」


 ザイオンがあごをさすって笑いながらそんなことを口にした。リズがそれを無言でポカっと殴る。


「茶番でもかまわないさ。今日はもともと試しのようなものだからね。いざという時のバックアップがあることをありがたいと思おうじゃないか」


「ほいほいっと。せめて緊張感は切らさないように行きますかね」


 サイラスが屈託なく言うと、ザイオンは帽子をしっかりと被り直した。

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