表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第二章 聖剣の神子

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/419

第四十九話 サイラスの思惑

 見習い神官たちが神殿騎士に連行されていくのを見送りながら、セラはようやく落ち着きを取り戻していた。


「あのっ…………ありがとうございました」


「いや、すまなかったね。同じ神殿の者として謝罪しゃざいさせてほしい」


 そして助けてくれたサイラスに礼を言ったが、サイラスはかえってセラに頭を下げた。


「見ての通り、リッチ殿への反感はなかなか根が深くてね。こんなことは言いたくないが、神殿の中では一人にならない方がいい。何か用事があるなら私がそこまでエスコートしよう」


「いえ、礼拝に来ただけですので……礼拝堂の場所を教えてもらえれば一人でも戻れます」


「そうか、冒険者だから……アンデッド掃討の事前礼拝だね。あの二人、礼拝に来た君を捕まえてわざわざこんなところまで連れてきたのか」


 サイラスは呆れたように言い、見習い神官たちが姿を消した後の廊下を眺めた。


 ややあってサイラスはセラに向き直って尋ねた。


「ところで今日はさすがにリッチ殿はいないか。いつもは君に魔術を教えているそうだが、今は何をしているのかな」


「どうしてリッチさんのことを?」


 目の前の聖騎士がなぜ師匠のことを気にするのだろうと、セラが少し訝しげに聞く。


「単純にこれからいっしょに戦っていく仲間としての興味さ。ちょっとした世間話というやつ。君たちが普段どんなふうにしているか知りたくてね」


 サイラスは先ほどからの少し改まった態度とは打って変わって、ぐっと砕けて話しやすい雰囲気になった。


 それからしばらくセラは師匠と自分の話を語った。毎日の魔術の修業のことや、いつもおいしい食事を作ってくれること、色々な場所へ連れて行ってくれることなどなど。サイラスは聞き上手でセラも話しやすい。ついつい楽しくなって自分のことばかりを話して時間を過ごしてしまった。サイラスはそんなセラを見て「ほんとうにリッチ殿のことを慕っているのだな」と感心して笑った。


 そんな風に長々と立ち話をしていた二人の横からふと声がかかった。


「サイラス、打ち合わせに来ないと思ったらこんなところで何をしているんですか。そこにいるのは……不死の神子?」


 エレノアである。彼女は思わぬセラの姿に怪訝な顔を見せた。


 一方のセラはエレノアの顔を見てキッと目を吊り上げた。昨年の顔合わせで彼女が師匠をざまののしったことを、彼女はずっと忘れていない。


「私、そろそろ行きますね」


 セラはサイラスに礼拝堂への道を聞くと、エレノアには挨拶もせずにその場を立ち去った。


 そして教えられた通りに進んだつもりだったが、セラの進む先にはいつ間にかまたサイラスとエレノアの姿があった。なぜか禁域の扉の前まで戻ってきてしまったのだ。不可解な気持ちで立ち止まったセラに、ふと二人の会話が聞こえてきた。


「やはり何か間違ってます。打ち倒すべきアンデッドと神子がともにあるなど」


「エレノア」


 サイラスは咎めるようにその名を呼んだが、エレノアは不服な様子のままだ。


「サイラスが何と言おうと私は承服しょうふくできませんよ。まあ、約束通り彼女らの前ではもう蒸し返しませんが。時が来れば然るべき裁きがあのリッチにも下るでしょう」


 ひそかに聞くセラは気持ちを険しくした。エレノアは続けて言う。


「逆に聞きますが、サイラスはなぜアンデッドと歩調を合わせることを許容できるのですか。あのようなことわりに反する汚らわしい存在と」


「それが私の目的のために必要と思うからだ。リッチキングを倒すためにね。いいかい、エレノア。私たちは弱い」


「弱いだなんて……」


 エレノアは思わず否定しようとしたが、その言葉は歯切れ悪くいったん途切れた。ややあって気を取り直したように続ける。


「たしかに我々は自らを最弱と言うあのリッチにすらかないませんでした。でも、私たちはもっと強くなれます。まだリッチキングとの戦いまで何年もあるのですから。着実に成長を重ねていけば、あのような者の力を借りる必要などありません」


「そうかもしれないな。いや、今より強くなるのは当たり前だ。だがリッチキングを倒すためなら私はなんだってやる。勝ち目を増やすためならなんだってやっておきたいのだ」


「神に仕える者としての誇りを捨ててもですか」


 サイラスは少し顔を背けてどこか陰のある表情を見せた。それはセラが見たことのない顔だった。


「……もとより汚れた血族のこの身だ。誇りなどないさ」


「私が見てきたあなたには間違いなく誇る資格があります!」


 エレノアは何を馬鹿なことを言うのですかと怒った。しばしの沈黙が場を支配する。長い沈黙だった。


 やがてエレノアがまた口を開いた。


「それにしてもあんな小さな子がリッチと……アンデッドを使役する身に自らをおとしめなければならないとは、不死の神子とはあまりに哀れで過酷ではないですか」


「……だとしても彼女の選んだ道だ。それは私の選んだ道とも重なる。実を言うと私もいまだに自己矛盾と戦っているんだ。そんな私を助けると思って彼女と私の選択したことだけは認めてくれないかな。リッチ殿のことまでは無理にとは言わない」


 サイラスはいつものような爽やかな表情に戻ってニコッと笑った。エレノアはただ黙って渋い顔をしている。


 師匠と自分の話をしているようなので思わず耳をそばだててしまったが、なんだか聞いてはいけない話を聞いてしまった気がする。しかもまるで盗み聞きのような形で。


 負い目を感じたセラはそのまま黙って踵を返したが、しかし目の前に伸びる見知らぬ廊下を前に途方に暮れて立ち尽くした。


 しばらくして意を決した彼女は己をふるい立たせ、サイラスたちの前におずおずと顔を出した。


 聞いてしまった話には一切触れずに用件だけを言う。


「あの、すみません。教えられたとおりに歩いていたら、なんだかまた戻ってきてしまって……もう一度教えてください。礼拝堂へはどうやって行ったらいいんでしょうか」


 サイラスとエレノアは要領を得ない風で顔を見合わせた。


「迷うほど複雑ではないはずだが……」


 サイラスはそう言いながらも困り果てた様子のセラを礼拝堂まで案内してくれた。


 礼拝堂にはもうベルタたちはいなかった。


「いったいどこへ……」


 セラが心細い声を漏らす。


 結局のところサイラスはそこから先もセラに付き添い、最終的にトイレの前で一人待っていたベルタのところまで引率してくれたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ