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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第七章 小さな魔王の国

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第二百五十八話 穏やかな冬の日

 気がつけばあっという間に今年最後の月となった。


 北方に位置するザマルの冬はひときわ寒く、海に面した周辺の平野部でも常に雪景色が見られる。十二月の上旬には街中でもすっかり根雪となり、周辺の山中ともなれば家が埋もれるほどに深く雪が積もっている。


 セラが生まれ育った南方大陸でも真冬ともなれば雪は降るし、山深い寺院では建物が埋もれるほどだった。が、平地まで真っ白に染まるのは滅多に見たことがない。厳しい冬の訪れに、改めて遠く離れた異郷の土地まで来たのだという実感があった。


 さらにその実感を強めたのは、今やザマルの海をすっかりと覆う流氷である。海岸からおよそ数百メートルが定着した流氷によりまるで陸地さながらとなり、雪が積もって白い雪原を成している。


 冬の静かな太陽が燦燦と輝いて、どこもかしこもをきらきらと白く輝かせていた。天候の崩れる日も多いが、ここしばらくは雲ひとつない好天が続いている。


 最近は休日となると、セラはいつもバルドと連れ立って、必ずその氷の上を歩いていた。この地方の冬には誰もがそうするように、厚い防寒着に身を固め、足には雪靴を履いている。


 その日、二人を呼びに来たルドルフが城壁の上から見ると、セラが走り回っては踊るように振り返るのを、バルドが大股で歩いて追いかけていた。いつもよく飽きないものだとルドルフは呆れるが、氷の端までは近づかないようにと注意だけして好きなようにさせている。


 流氷の海は落ちれば命を奪うほどの冷たさだ。もし乗った氷が割れでもすればただでは済まない。とはいえ岸辺近くには、ほかに遊んでいる親子らの姿もある。この地で生まれ育った彼らには冬の風物詩といった具合なのだろう。


 ルドルフの隣にいるコボルトの兵隊にとっても、それらはもはや珍しくもない景色のようで、相変わらず時折あくびをしながら北の水平線をじっと眺めていた。この厳寒の中でも彼らの冬毛はビクともしない。


「おーい」


 とルドルフがセラたちに向けて大きな声をかけると、遠く小さく見える二人はこちらに気がついて手を振った。それから二人でうなずきあうと、雪原を西に回り込んで港の方へと歩き始める。


 それを見届けたルドルフは、ひと足先に今日の予定の場所へと向かった。


 この日はヴァルター家でちょっとした集まりが企画されている。


「お前、いつの間にか妙に男振りが上がってないか? 髑髏頭のくせに」


 戸口で顔を合わせるなり、ヴァルターはあまり聞かない言葉でルドルフを評した。眷属になった影響で魔物たちの見る目が変わっているのは実感していたが、男振り向上とはなかなか新鮮な評価だ。


「たしかに。リッチ殿もセラ様という主のもとで忠勤に励んでいる。そのひたむきな心根が顔に表れるのでしょう」


 そんなことを言うのはダドリーである。その発言内容についてはもはや何を指摘する気も起きない。だいたい骸骨の顔つきが変わるものかね。


 今日はダドリー一家もやってきていた。ともにガディレルムを支える将軍同士、家族ぐるみでの付き合いというわけだ。


「わー、ルドルフだ!」


「ガイコツだー!」


「かっけー!」


 ふっくらと太ったヴァルターの息子たちとずんぐりしたダドリーの息子が、玄関口に現れた巨大な骸骨の周りにまとわりついてきた。ほっそりしたダドリーの娘は少し離れたところからお澄ましさんで見守っている。


 ルドルフが長い腕を伸ばして「捕まえて食ってしまうぞう」と脅かしてやると、三人は「キャー」と楽しそうな悲鳴をあげてそれぞれの父親の影に隠れた。その体はしがみつく父らの両足からだいぶはみ出ている。


「お前、意外と子供の扱いに慣れてるよな」


「フ、近年久々に甥っ子や姪っ子に会ってな。子供のあしらい方を思い出したのだ。ところでこの子ら人間なんだよな?」


 ルドルフはヴァルターの息子たちがまたいよいよ懐いてきたような気がしたのを不思議に思って聞いた。魔物に好かれるという魔王の力の一端でそうなったのではないかと疑ったのだ。


 ダドリーの子供らはともに獣人なので不審はないが、人間の中にはリッチであるルドルフの姿を怖がる者は普通にいる。大人でもそうなのだから、子供ならばなおさらである。


「そのはずだが」


「ふむ。であれば、なかなか肝の太い男に育つかもな」


「そうあって欲しいもんだ」


 ヴァルターが息子らの頭を撫でながら、父親の顔で笑った。


「それよか甥っ子姪っ子って……いくつなんだ? 兄弟の子供だよな? いくつ離れた兄弟がいるんだよ」


 ヴァルターのそんな言葉と同時に奥から子供らと同じ丸さのおかみさんが出て来て「あらあらまあまあ」とルドルフに挨拶する。続いて出てきたダドリーのほっそりした妻とは好対照だ。ふたりはともに台所に立っていたらしい。


 ルドルフはおかみさんに手土産を渡して玄関から家の中へとお邪魔した。「たまにはうちに遊びに来い」と言う伝言をスウェン経由で受け取り、今日はここに顔を出したのだった。


 食卓には二人の主婦が腕によりをかけた料理の数々が並んでいた。彼女らがもとから得意とする肉料理も多いが、ザマルに移住してから作る機会の多くなった魚料理も同じくらい多い。主婦は主婦で環境の変化に応じたスキルアップを図っているようだ。


 それからすぐにセラとバルドもやってきて、食卓を囲む輪の中に加わった。


「私がこうして家族と年末をともに過ごせるのもセラ様とリッチ殿のおかげです」


 会食が始まってすぐ、ダドリーが尊崇の目でセラを見ながらそんなことを言った。その妻も口をそろえて礼を言う。温暖な故郷の地を離れてこの北の地にやってきたのはそれなりに大変なはずだが、そんなことはおくびにも出さない。


 その結果として一家の命が助かったというのもあるだろうが、大きいのはそれが魔王の力を持つセラの指示だったがゆえだろう。


 続けてダドリーはもうひとつ礼を言った。


「我が王に仕える栄誉を得たのもまたお二人のおかげ。このダドリー、感謝の言葉もありませぬ」


 セラが少し照れて「もとはヌイちゃんの頼みですから」と言うと、ダドリーは「おお、ヌイ様! ヌイ様にもいつかお会いして礼を言いたいものです」と感涙にむせんだ。


 一応こいつはヌイの眷属なんだよな。


 セラが連れてきたすべての魔物に対して「今後はガディに従うように」と告げたため、ダドリーを含めすべての魔物たちはガディを王と仰いでいる。セラがガディを叩きのめして支配権を取り返そうとでもしない限り、その上下関係は揺るがないだろう。


 だが仮に加護を与えたヌイとガディが対立した時、ダドリーがどちらに付くのかはちょっと興味深い。いや、そんな面倒な羽目にはなってほしくないが。単純に法則として気になる。


 恩人として持ち上げられるセラは子供たちにも人気で、ダドリー家の二人のみならず、ヴァルター家の二人からもよく懐かれている。力持ちのバルドも同様に一目置かれていて、子供らを持ち上げて遊んでやったりしていた。


 暖炉では炎が燃え盛り、外の厳しい寒さが嘘のようだ。広間に明るい笑い声が響いた。


 ここガディレルムでは平穏な冬の日々が続いている。


 アリアナから聞くには、西の魔王の連れていた竜は残る四体のうち三体までが早くも倒され、北アストル王国の反転攻勢は勢いを増しているそうだ。奪われた土地を次々と取り戻している。


 ルドルフとしては素直にめでたいことに思えるが、一方で戦いが人間側の勝利で終わり、西の魔王の軍勢がいなくなった後、このガディレルムと王国との間に生ずる摩擦について思うと複雑な気持ちでもあった。


 せめて今のような穏やかな時間がなるだけ長く続けばいいのだが。


 セラやバルドと遊ぶ子供たち、そしてそれを見守る二組の夫婦を見ながら、ルドルフはそんなことを思った。

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