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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第七章 小さな魔王の国

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第二百四十四話 戦意

「それはむしろ望むところですな」


 そうダドリーは言った。


 ルドルフはダドリーをはじめとする魔物たちの長を集め、土地の問題でトロールと争いになりそうだ、という話を直截に告げた。すると意外なことに各々の反応は悪くはなかった。ただ逃げるよりも、敵を撃破して新天地を切り開くことに、むしろ意気が上がったようだ。


 戦いにつきものの死の危険に対しても当たり前のように受け入れている。犠牲を厭わず死霊国に突撃して結果的に供物をささげていた彼らだ。良くも悪くも、そういった思考が身に染みついているのだろう。


「まあ、この勢いで集まれば人間どもとて何するものぞという気もしますが」


 もの言いたげな目でダドリーがチラリとルドルフを見た。


 危ない。連れてきたのがセラではなくヌイだったら、こいつはまた変な方向に行きかねなかった。ヌイは従えているはずの魔物の要望に流されてしまう、主体性なしの魔王なのだ。


 ともあれ移住者たちの意向を確認できたことで、ルドルフは内々でヴァルターに話を進めると伝え、自らはそのための準備を忙しく始めた。


 五日ほどが経って、いったんセラとバルドが戻って来た。ここから西の海岸沿いまで行き、反時計回りにぐるりと回って、その間にあるすべての集落を回ってきたのだ。


 けっこうハードな道行きだったはずだが、二人に疲れた様子はない。説得自体はセラが一声かければいずれもすぐだったとのことで、まるで箒で掃くように魔物たちを漏れなく集めてきた。


 足が遅くまだ遅れてやって来る者も多いが、目下の移民キャンプはすでにかなりの規模になっており、その数は女子供も含めてゆうに万を越えている。もはやこっそりどころではない。この降ってわいたような魔物の集団の形成は、斥候を通じて人間たちにも伝わっているだろう。まず確実に。


 ルドルフらは今後の行動のために必要な情報をすべて共有した。


 これからすることとしては、まずここに集まった者たちはいったん先に連れて行く。そして中央大陸北端の港町をトロールたちから奪い、彼らの住む場所を確保するための戦いを始める。


 ルドルフがそれをするのと並行して、セラとバルドは引き続きこの半島の魔物たちに移住を勧めて歩く。ただこの場所には戻らず、集まった魔物たちを引き連れてそのまま南進し、二週間ほど後にいつか休暇を過ごした浜辺で落ち合おうと約束した。今いる魔物たちがすべて転移し終わったところで、このキャンプは跡形もなく引き払う方針である。


 セラにもバルドにも異存はなかった。


 その晩はともにキャンプで過ごし、明日からの行動のために英気を養った。魔物たちとは少し離れた場所にルドルフがテントを張る。空間拡張の魔術により中はゆったりと広く、ローテーブルにソファまで置かれていてのんびりくつろげる。


「だいぶ話が大きくなってしまったな」


 食後の穏やかなひと時にルドルフがふと漏らした。遠い目をしている。


「アリアナさん、なんて言いますかね」


「言わないでくれ。考えたくない……いや、ある意味、魔物の脅威を一掃するのだから大丈夫なはずだ。征西の手間を省いてやるだけだ。何も問題はない」


 かぶりを振って己に言い聞かせるルドルフの横で、セラは楽しそうに笑っている。バルドも微笑しつつ談笑に加わった。


 夜が明けて朝になり、ゆっくりと朝食を取る。次にこのようなゆったりとした時間が過ごせるのはまたしばらくの後だ。それから三人は面をかぶってテントの外に出た。


 ルドルフは馬上のセラに向き合い、言った。


「では道中気をつけてな」


「はい。師匠も気をつけて」


 気負った様子もない自然体の返事だった。心配することは特になさそうだ。


 次にルドルフは後ろで手綱を握るバルドに声をかけた。


「セラを頼むぞ」


「はい」


 こちらも毅然としたいい返事だ。バルドが側にいればたいがいのことは大丈夫だろう。


 そうしてセラとバルドは南へと馬を向け、やがて案内の供回り数名ととも丘の向こうへと姿を消した。


「さて、こちらはこちらで仕事をするかな」


 旅立ちを見届けたルドルフは、早速ダドリーら幾人かの指導者とともに転移門でワレドナ村へと移動した。たどり着いた先はヴァルターの家の前の広場。そこにはいくつかの顔が首をそろえて待っていた。


 獣人のヴァルター、コボルトのガディ、赤竜グレアズ。ガディは子犬のような顔でトレードマークの小さな王冠をかぶっており、グレアズはルーズに前をはだけた服を着た人間の姿をしている。


「おお、本当に何もないところから現れた! すごいぞ!」


「だろう?」


「ルドルフのアニキ、おはようございますっ!」


 ピコピコと耳を動かし尻尾を振ってはしゃぐガディと、己の手柄のように得意げなヴァルター。その横でグレアズは服装とは裏腹にしゃんと背筋を伸ばしていた。


 双方は互いに名を名乗って挨拶をすると、手短にこれからの段取りについて擦り合わせを行う。ある程度のことはすでにルドルフがそれぞれに共有済みである。


 その段取りについて端的に言うと、まずは移住者の中から戦える男たちだけがやって来る。そして村を素通りし、そのままザマルの港を攻め落とす、というものだ。それが数万以上にもおよぶ魔物たちの移住の第一歩となる。


 また重要な点として、それはできるだけ迅速になされる必要があった。ダドリーの獣人集落を中心に作ったキャンプもずっと安全というわけではないからだ。昨日今日でどうこうはないが、あまりモタモタしていると征西の討伐部隊が来てしまう。


 ルドルフはすでにこの村の外れに新しく建てた掘っ立て小屋と、下界の洞窟を相互に結ぶ転移門を作成している。それにより、本来は険しい山道で一週間はかかる距離を、瞬時に移動できるようになっていた。その転移門を使い、ザマル攻略作戦は明日にも開始される。


 速やかに話がまとまったところで、ルドルフは転移魔術で獣人集落のキャンプへと戻り、戦いの装備で身を固めたゴブリン、オーク、オーガなど様々な種族の男たちを転移門へと誘導する。


 この転移門は一方通行だ。いったん進めばもはや戻ることはできない。その覚悟を胸にワレドナ村へと移動した男たちは、そのまま村を縦断して村はずれの転移門へと進み、そこからまた下界へと消えていった。


 村人たちは続々と現れてはどこかへ消えていく来訪者たちを物珍しげに見ている。


 転移門は一度に一人か二人ずつしか通れないので、一時間に移動できるのはせいぜい千人ほどだ。村を横切る魔物たちの列は夕方まで続いた。


「しかしまあ、この転移門てやつは便利なもんだな。落ち着いたらダンジョンの入り口とうちの村の間にも作ってくれないか」


 その様子を見ていたヴァルターが感心しつつ、どさくさ紛れにそんなことを言ってきた。


「そう易々と作れるものではない。今回は非常事態につき特別だ」


 ルドルフはそれだけ言ってその頼みを受け流した。成り行き上、自分が転移門を作れるということは知られてしまったが、あまりほいほい作れると思われてしまっても困る。


 ただでさえもう仕事しすぎなのだ。移住に関わる以外のことをしている暇はない。

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