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リッチは少女を弟子にした  作者: 川村五円
第七章 小さな魔王の国

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第二百四十二話 魔王のカリスマ

 半島遠征から獣人たちを救うためにセラの魔王の力を貸して欲しい。


 ルドルフがそう頼むとセラは思いのほか、というよりむしろ頼んだ側が戸惑うほどに乗り気となった。前のめりにいつから行くのかと確認し、早速旅の荷物をまとめに行こうとした。


「師匠から頼みごとをされるのは初めてなので!」


 引き留めて張り切る理由を聞くと、セラはパッと笑顔になりうれしそうにそう答えた。そうであったかな、とルドルフは首をひねる。たしかにこういう大きなものはそうであったかもしれない。


 その元気な様子を見るに、セラの体調はもうすっかり心配ないようだ。


 ルドルフが「だがその前に」と報酬について打診すると、セラはキョトンとした表情となった。


 師匠から報酬をもらうという頭はまったくなかったらしい。「すぐには浮かばないので、考えておくと言うことでいいですか」ということで報酬についてはひとまず保留となった。本来ならば双方ともここできちんと詰めておきたいところなのだが、ルドルフも急ぎ行動に入りたいのでそれを了承した。


 セラが再び荷物をまとめに行こうとする。ルドルフはまたしても引き留めた。


 とりあえず行くとしても自分とセラだけなので、転移魔術を駆使すれば旅の荷物は必要はない。


 さらにルドルフにはもうひとつ、自分だけで行って来るという腹案もあった。


「眷属?」


「そうだ。眷属にしてもらえれば、俺だけで仕事して帰って来られる。もちろんそれでも報酬はきちんと払うぞ」


 ルドルフは不思議そうな顔をするセラに魔王の眷属について説明した。


 魔王は配下の魔物に加護を与え眷属とすることで、その者に魔王の能力を分け与えることができる。


 魔物に好かれやすくなり一目置かれるようになるカリスマ。そしてどんな言語もすぐに覚えられるというでたらめな言語能力。魔術の詠唱を一度聞いただけで魔術を習得できるというのもその言語能力の副産物だ。それと主である魔王の力に応じた基礎的な能力の向上もある。


 どこでそんなことを知ったのか、という質問にルドルフは「とある書物で読んだ」と嘘を返した。過去に行っていた件は秘中の秘なので、とある魔王に実際に眷属にしてもらっていたとは言えない。


 セラはその嘘にあっさり納得したが、また要領を得ない顔で尋ねた。


「……どうやれば眷属にできるんでしょう?」


 眷属については理解できたが、眷属にするやり方がわからないらしい。


 ルドルフはたまたま遊びに来ていたフォルエラを見つめた。フォルエラはにっこりと笑ったが、たぶんなぜルドルフが彼女を見たのかは理解していない。


 元の時代に戻って来るとフォルエラに極北の魔王リリーノイアとしての記憶はまったくなくなっていた。ついでに当たり前のように魔王としての力もなく、眷属云々についても知るところではない。過去世界におけるルドルフの眷属状態はもちろんなかったことになっている。


 なお、極北の魔王がフォルエラの前世で、フォルエラは極北の魔王の転生した姿、ということはルドルフのほかペレディルスとアリアナ以外に知るものはない。当の本人も覚えていないし、言いふらすような話でもないからだ。


 ともあれ、眷属になれないのなら、やはりセラもいっしょに行くほかはなさそうである。


 ルドルフとセラが獣人集落まで出かけてくると言うと、それを聞いたバルドは顔を曇らせた。彼はずっと部屋の前で待機するのはやめたが、何かにつけてさりげなくセラの側にいる。「セラはまだ病み上がりですし、念のため俺もついて行きたいので、馬で行きませんか」とまで言った。


 それを「すぐに戻って来るから」となんとか説き伏せて、ルドルフとセラは転移魔術を使う。バルドと並んで依頼者のヌイとペレディルス、おまけのフォルエラもそれを見送った。


 やがて師匠と弟子はかつて訪ねた獣人集落の入り口へ相次いで姿を現した。


 セラは久しぶりに見る草原の景色に目を細め、初夏の心地良いそよ風を深く吸い込んだ。さわさわと草のなびく音が耳を撫でる。


 ルドルフはなるべく獣人たちを驚かさないように一応認識阻害の面をかぶり、セラと並んで獣人の村の中へと入っていった。


 獣人と言っても普段は完全に人間の姿をしているので、言われなければここが獣人の村だとはわからない。そこには草原の村の牧歌的な風景が広がっていた。


 村人たちはセラのことを覚えていたらしく、すぐに集まって親しげに話しかけて来る。セラが村長のダドリーに会うために来た、と言うとしかし、ダドリーはもうここにはいない、という予期せぬ答えが返ってきた。


「ダドリーは生まれ育った故郷の土地に戻ったよ。しばらくはここから通いで家を作ったりしてたが、今はもう落ち着いて、ずっとあっちで暮らしてる」


 それを聞いたルドルフとセラは再び転移魔術を使い、なだらかな草原へと瞬時に移動した。


 そこはダドリーと初めて会った場所の近くで、かつては荒涼とした瘴気の大地だった場所だ。振り向けば十軒余りの小さな家々が肩を寄せ合うように並んで立っていて、わずかばかりの畑も耕されている。その小さな集落の中で働く人々の中にダドリーの姿もあった。


 すぐ隣にいる男がこちらに気がつき、ダドリーにも知らせると、彼は仕事を放り出して、いそいそとセラの前までやって来た。


 熊の様にずんぐりとした大男がうれしそうに小走りしてくる様にはどこか愛嬌がある。


「やや、これはセラ様。このような場所にいったい何用でしょうか」


「こんにちは、ダドリーさん。故郷の土地に戻ってたんですね」


「ええ、お陰様で。聞きましたぞ。リッチキングを倒してくださったのはセラ様だと。さすがは我が主。その節はまことにありがとうございました。このダドリー、どれだけ感謝しても感謝しきれませぬ」


 ダドリーはセラのことを下にも置かない扱いだ。まるきり貴人を迎えるような態度で感極まった。そこには自覚的な主従関係があるらしい。


 しかしこの流れで土地を捨てろというのはなかなか荷が重かった。セラが戸惑って言いだせないのを見て、ルドルフは認識阻害の面を外した。


「おお、妙なにおいの者が隣にいると思いきや、リッチ殿でしたか。あなたも大層ご活躍したと聞きましたぞ」


 リッチキング討伐のおおまかな顛末は知っているが、ルドルフが聖剣で貫かれて消滅したといった細かい話は知らないようだ。


 さておき親しげに語り掛けてくるダドリーに対して、ルドルフは話を切って単刀直入に用件を述べた。この場所に危険が迫っているという話である。間もなく人間たちの征西が始まる。自分はお前たちを逃がすために来たと。


 ダドリーは笑みを消し、神妙な顔でその話を聞いた。話が詳しく進むにつれ、その目には抵抗の気概がみなぎっていく。


「この土地を捨てて私たちの用意する場所について来てくれませんか? これはヌイちゃんの願いでもあるんです」


 しかしセラが話の流れに乗ってそう口添えすると、ダドリーの態度は一気に軟化した。


「セラ様、それにヌイ様までがそうおっしゃるのならば、どうしてこのダドリーに従わないという選択がありましょうや」


 悔しげに目に涙を浮かべつつも快諾の返事をし、早速自分の妻子を含めた集落の人々を集めて話を通した。ほかの獣人たちもセラの言うことならばと異議はない。ルドルフは思う。いつものことながらセラやヌイのこの魔物を魅了する力は、まったく空恐ろしい。


 ともあれそのセラの能力のおかげで話は簡単に済んだ。あとは転移門を作って彼らをヴァルターの村まで送り届ければ、ヌイとペレディルスからの頼みは果たされたことになる。


 ただ、その前に獣人たちの方からもひとつ条件があった。


 それは他の集落にいる親類や友人知人を見捨てられない、連れてきてかまわないかということであった。ルドルフとセラは顔を見合わせて、その条件を承諾した。転移門を作るにもいくらか時間はかかる。その間に集まるのならちょうどいい。


 ダドリーも知り合いに声をかけてくると言って出かけていったが、その出がけに気になることを言った。


「実はつい最近、こそこそとこの集落を探る人間を捕えましてな。押さえつけた拍子に首を折って殺してしまったのですが、何事かあるのではないかと警戒はしていたのですよ」


 おいおい。まあ向こうも殺す気で来ているので、あえて殺すなとは言わないが、せっかく捕らえたというのに、情報を聞き出す前にうっかり殺すのは駄目だろう。俺たちが来たからよかったものの。


 しかし、なるほど。それは間違いなく斥候だ。どこで見られているかわからないということか。


 その可能性に気づいたルドルフは「念のためこれを貸しておく」と言って、セラにひとつの面を手渡した。


 それはルドルフが使っているのとそっくりそのままのもの。認識阻害の面である。過去世界で何度か回収したことにより、今使っているのと、次元収納の中のとで合わせて三つの同じ面が手元にある。


 セラはその出自を問うこともなく、師匠とお揃いの面で顔を半分隠す。


「これで私も正体を隠して暗躍できますね」


 そう冗談ぽく言って、小さく舌を出した。

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