彼=京
「よし、と。始まったようだな。
皆、志水には近寄るなー」
志水涼太。これが彼の名前だ。
先生は皆にしっとりと"近寄るな"と促した。
彼は目を見開き、皆を見つめた。
どうして落ち着いている?
彼の考えならすぐ理解できる。
そりゃ普通なら血を吐く人間に対し、
このような対応はしないであろう。
―――先生は何を…何を言って?
頭がぼうっとし働かない。
彼は脳が溶けていくような感覚に溺れた。
バチィイイ―――ッ…!!!!
脳内から放たれる信号。
彼の身体を傷付け、
体力を奪う。
今度は手の痺れが襲う。
「な…ぁッ…何だよ…これッ…」
――残り20:00...19:59...
――胎内から脱出して下さい。
「た…胎内?…脱出って何だよッ…おい、」
誰に言われているかも解らない。
自分自身誰に問いかけているかも解らない。
すると一人の女の子が口を開く。
しかし口の中がどす黒い煙に覆われ、
闇のようであった。
「志水君…お腹に何か感じない?」
お腹?…
彼はお腹を意識した。
すると突然餓えたように肚が膨らむ
…ぅぐッ…ぁッ…
腹が…動いてる?…熱い…
気持ち悪い…ぅ吐く…
「それは胎内の蟲なの。それが志水君。早く殺さないと貴方と一緒に溶けちゃうよ?」
意味が解らない。蟲?身体の中に…?
この女の子は何か知っているのか?
そもそもこんな子クラスにいたっけ?
―――あぁそうか、これは夢か。
しかしここまでリアルな夢が見れるなんて
面白いじゃないか。
面白い、面白い…はは。
彼は目を閉じれば全て夢だと思い、目を閉じた。
―――さぁ…
―――ようこそ、
脳内戦争の始まりだよッ♪
彼の目の前には、楽しそうに彼が微笑んでいた。
つまり彼が二人いる。
まわりはネトッとした粘膜のようなもので覆われ、
暗くお互いの顔だけ浮いて見えるようだった。
「肚の中の蟲は俺だよ。って言ってもお前でもあるけどね?」
はぁ…夢の続きか?
もういい。…いや…でももう少しだけ、
いい話のネタになるんではないか?
こんな夢二度と見れないかもしれない。
「見ててね?この空間はお前の胎内なんだ。
そこに、これでー」
パァアァンッ
――バチィイイ―――ッ…!!!!
もう一人の彼は拳銃らしき武器で
粘膜状の壁に発砲した。
すると彼はお腹から喉へと激痛が走った。
この痛みはこいつのせいだったのだ。
彼は喉元を手で抑えつけ痛みを和らげようとした。
「――ぅああッ…ぐ…」
彼はもう一人の彼を睨み付けた。
「悔しいなら俺と戦って此処からでないと!
ほーらよっ♪」
ライフルを投げつけ、
もう一人の彼は笑みを見せた。
彼は身体を引き摺りつつもそれを手に取った。
身体を起こし、喉から唾を吐き捨てた。
これは殺るしかないのか。
「俺の仮名、京。」
「は?…仮名?そんなの不必要だろ、同じ志水だろうが…」
ふふっと笑いながら京は彼に近づき
「だって、敵って思えないでしょ?
…さぁ早く殺さないとー
どんどん志水の身体壊しちゃうよ?
…残り10分♪」
10:00...9:59...
そう言いながらもう一人の彼は
胎内を駆けていった。
「残り10分?何が…だ…、」
彼は理解のないまま、ただ追いかけた。
追いかけてあいつを殺すことで、
これが終わるなら、と。




