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僕らはソラを謳う  作者: 千代里
幕間1の4つめ「アナと帽子屋と異国風の青年の話」
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幕間1・4-2

 ティモの町にやってきたアナは、予定通り、まずはティモの教会に向かった。

 パユヴェシ村の教会を預かる身として、近所の同業者との交流は欠かせない。疎遠になってしまって、いざという時に情報の連携が遅れるなどということがあってはならないからだ。

 そのため、アナはティモに来訪した際は、頻繁に教会にも顔を出していた。

 今日は、ただ軽い挨拶をするだけに留まらず、迎えてくれたセヴェリ司祭に招かれて、昼食も共にした。彼とは、ゲイリーとニコの一件で協力を仰いだことで、他の司祭よりも気軽に話せる相手となっていた。

 良い機会だからと、アナはゲイリーの現在の状況について彼に尋ねてみると、

「状況は、以前にお話ししたときから大きく変化はありませんよ。ゲイリーは自らの犯した罪を悔い、その全容を打ち明けてくれました」

「では、後は賠償をどうするか、という状態でしょうか?」

「ええ。荷運びの組合からと、カッリ氏からですね。盗んだ酒の分の請求や、業務の信頼を傷つけた分の補償を求められているのですが、今の彼には支払うための財産がありません。彼の縁戚にも現在連絡をとっていますので、その返事を確認した上で、最終的な処分を決めることになるでしょうね」

 無いお金を支払うことはできない。そうなると、後はゲイリーの縁戚に支払いの依頼をすることになる。それを突っぱねられた場合は、負った債務の分だけの労役を課せられる。

 ゲイリーが金を借りた者たちの悪質さを考えれば、教会の管理下での労働は幾らか安全な選択とも考えられる。それを受け入れるかどうかはゲイリー次第だ。

 処分の状況を聞けたお返しに、アナはニコの現状をかいつまんでセヴェリ司祭に伝えた。彼はニコが平穏無事に過ごせていることを、とても喜んでくれた。

「今のゲイリー氏には、自分が雇っていた子供のことなど、考える余裕もないようです。彼の縁戚が彼女を引き取ってくれるとも思えませんし、とはいえ適当な家に預けるのも危険かと思っていましたから」

「その点については、ご安心ください。私の方でも、彼女の周辺については注意しておくようにします」

 ゲイリーに酒の密売を唆した者が、ニコの存在を知って接近してくる可能性も、ゼロとは言えない。そのため、彼女の身辺に気をつけるとアナは改めて宣言した。

「そういえば、ニコが持っていたブローチはどうなりましたか?」

「あれについては、今はどのような経緯で市場の商人の手に渡ったのかを調べているところです。売っていた商人は見つけたのですが、いつのまにか荷物に紛れていたの一点張りでして」

 地域に根ざした行商は、荷物を抱えて各地を旅する。その際に誰かの荷物が紛れたり、すり替えられたり、あるいは盗まれたりということは、実によくある話だ。

 だが、粗悪とはいえ聖石の加工品ともなると、紛失した者が騒ぎそうなものだが、そのような申し出は今のところ教会には届けられていないとのことだった。

「粗悪品と分かって売り捌こうとしていたから、紛失した時も、言うに言えなくて困っている……と言ったところでしょうか」

「その可能性が高いと私も踏んでいます。本部への通達は私からしておきましたが、想像以上にあちらの方々も興味を持たれたようで」

「あら、意外ですね。そこまでの話では無いと思っていたのだけれど」

 聖石は確かに貴重な品で、教会が厳重に管理しているものだ。だが、どれだけ厳密な管理をしていても、どこかに抜け道や漏れというものはでてきてしまう。

 聖石の中にも質の良し悪しはあり、質の悪いものは時に教会の監視網をすり抜け、一般の者の手に渡ることもある。そうでなくとも、門外不出の貴重品として、国内でのみ利用を許されているはずの聖石を外の国に持ち出そうとする者も、無きにしも非ずなのが現状だ。

 どれだけ清貧を尊び欲に溺れるなかれと説いたところで、人間は金がもたらす利益から目を背けることはできないらしい。

 閑話休題。

 今回の粗悪品も、広い視野で見れば、国内で何度か起きている流出事件の一つに過ぎないとアナは思っていた。けれども、存外に教会の本部は警戒を強くしているようだ。

「そのうち、本部の関係者が視察に来るんじゃないかと、弟子たちがソワソワしているところなんですよ。もっとも、落ち着かないのは生誕祭が近いからもあるのでしょうけれど」

「その点に関しては、私の見習いたちも同じね。来週は、予定を空けて何度かこちらを訪れるつもりよ」

「ぜひ、この町の『生誕祭』を楽しんでいってください。聖都の壮大な式典には見劣りするかもしれませんが、この町ならではの楽しみがあるでしょうから」

 始祖の生誕を祝うとされている祭りではあるものの、大々的な式典を執り行うのはせいぜい教会の総本山がある聖都ぐらいだ。

『生誕祭』は豊穣祭に並んで、より大々的に春の到来を祝い、冬が終わりを告げたことを感謝する祭りである。

 始祖の生誕の日がたまたまこの時期であったため、生誕祭と名がついているだけであり、実際のところは程なく訪れる夏への期待を膨らませる場という印象が強い。

 長い冬で顔を合わせる機会が減った隣人と近況を確かめ合い、今年も夏が来るのだと喜びを共有する。そのような大昔の儀礼が、このように祭りへと変化していったという説が有力とされていた。

「そうなりますと、もしや本日はそのための準備か何かで、朝からこちらに来ていたのですか?」

 セヴェリ司祭は、目端のきく人物らしい。アナの訪問時間から、この時期に町に来た理由を速やかに結びつけたようだ。

「そのようなものです。たまには、司祭としての相応しさに囚われず、自由に色々なものへ目を向けてみようかと思いまして」

「始祖が望んだのは、隣人の安寧と幸福。そして我々もまた、始祖が愛した隣人の一人でもあるのです。ならばこそ、司祭が己の幸福を求めるのも、また当然のことだと私は思いますよ」

「ええ。まったく同じ意見です。セヴェリ司祭」

 そう応じながら、アナは使い慣れた微笑を口元へと浮かべた。

 

 教会を後にしてからも、アナはしばしば町のあちこちで足を止めていた。

 パユヴェシ村からティモにやってきた顔見知りの婦人に声をかけられれば、その立ち話に付き合う。

 村から買い物に来ている青年たちに手を振られれば、軽く礼を返す。ちょっとした雑談を振られれば、それにも応じる。

 そして、今は。

「本当にありがとうね、お嬢さん。ここまで運んできてもらって助かりましたわ」

「困っている隣人には手を差し伸べる。それは、始祖が最も大事にしていたことでもありますから」

 道の途中で、困った様子で立ち往生している年配の女性を見つけたアナは、彼女の手伝いを申し出た。

 見れば、彼女の手には壊れた買い物かごがあり、その足下には買ってきたと思しき雑貨や野菜が詰まった袋が転がってた。そこで、アナは買い物かごの代わりにそれらを抱えて、彼女の家まで運ぶ手伝いをしたのだった。

 玄関口まで荷物を運んでくれたアナに、女性は「よければお茶でも」と誘ってくれたが、流石にこの申し出は受け入れられなかった。ここでのんびりとお茶をしていたら、帽子屋を訪れる前に夕飯どきになってしまうだろう。

「今日は他に用事がありますから。また後日、機会があればお誘いください。パユヴェシ村の司祭宛に手紙を送っていただければ、手紙が届きますから」

「そういえば、白い石の耳飾り……お嬢さんは司祭様だったのね。ごめんなさいね、あまり目がよくなくて。全く気が付かなかったわ」

「お気になさらず。それよりも、目が悪いのでしたら足元に気をつけてください。荷物が多いと、片付けも大変でしょう」

 その後も、別れを惜しむ女性と二、三の言葉を交わしてから、アナは再びティモの町中へと戻る。

 あちこちで道草を食っていたために、帽子屋に行くだけなのに、随分と時間がかかってしまっている。昼食はティモの教会でご馳走になったから問題ないが、双子たちが心配する前に帰れるように、これ以上の足止めは避けるべきだろう。

 少し早足で広場を通り抜けて、広場につながる大通りの一本へと足を踏み入れる。祝い事が近いからか、通りを行く人の数はいつもよりも多く感じる。ひっきりなしに馬車が行き交い、店頭の呼び込みにも熱が入っているようだ。

 誰もが、祭りへの期待を膨らませている。

 下準備のために方々を行き交う男たちは、休暇はどんなふうに過ごすかを語り合っている。祝祭のためのご馳走では腕を奮わねばと、女性たちは食べ物を扱う店の軒先に集まり、おしゃべりに花を咲かせている。

 子供たちも、大人たちの間に漂う、はち切れそうな期待が詰まった空気を敏感に感じ取っているのだろう。忙しなく通りを走る少年少女たちの足取りも、いつもよりも軽やかに見えた。

 どこを向いても、何やらそわそわとした気配が感じられる。悪いものではないのだろうが、どうにも地に足がついていないかのような、浮ついたざわめきを感じながら、アナが通りを歩いているときだった。

(あれは……)

 何気なくめぐらせた視線の先、通りの少し先に停まっている馬車に繋がれた馬が、落ち着きなく首を振っているのが目に留まる。

 馬は周りの変化を敏感に感じ取る生き物であると、図鑑にもあった。気の毒なことに、周囲のざわついた空気に充てられてしまっただろうか。

 御者台に、乗り手の姿は見られない。今は乗客を下ろしているところなのだろう。

 どこか神経質そうな馬の様子が何となく気になり、視界にその馬をおさめたまま、足だけを動かしていたときだった。

「おおい、そんなに積み上げたら崩れるぞ!」

「平気平気! 大丈夫だって、このぐらい――うわっ!?」

 近くで荷物を積み上げていた男たちの声が、不意に掻き消える。

 どう、と何かが崩れ落ちる凄まじい音。割れ物が混じっていたのか、甲高い破裂音があちこちで響く。

 さらにその混沌に、女性の悲鳴が後を追う。男たちの怒号混じりの声が轟き、ただでさえざわついていた空気に不穏な気配が一挙に混じる。

(――まずい)

 通りのどこかで、積んでいた荷物が崩れた。それ自体も悲劇だが、事件のそばの通りに停められていた馬車――そこに繋がれていた馬の様子に、アナは表情を険しくする。

 突如、近くで起きた轟音に、元々落ち着きをなくしていた馬は限界を迎えたようだ。人々の喧噪を上書きするほどの嘶きと共に、大きく棹立ちになる。

 異変に気がついた御者が慌てて手綱を引こうとしたが、彼の手が届く前に馬は馬車を引きずるようにして猛然と走り出していた。

「おおい、待て! 誰か、そいつを停めてくれ!!」

 だが、猛烈な勢いで駆け出した暴れ馬を、誰が止めようとするだろうか。通りを歩いていた人々は、悲鳴をあげて道の端に逃げ、馬の突進に巻き込まれまいとする。

 アナも彼らに倣い、通りの端に寄ろうとした時だった。

「――!」

 細い路地から通りへと、小さな影が飛び出すのが見えた。

 教室で見かける子供たちと、同い年くらいの少年。路地の中で、追いかけっこでもしていたのだろうか。

 馬からその影までの距離は、もういくらもない。それを十分に確かめる前に、アナもまた、少年へと駆け出していた。

「おい、あんた! やめろ、無茶だ!!」

 誰かが声をかけてくれたのも気にせずに、アナは通りへと飛び出していた少年へと駆け寄り、その腕を掴む。

「えっ、あんた誰――」

 少年の問いかけなど無視して、アナは彼を引きずるようにして通りの端に戻ろうとした。

 だが、

(間に合わない――)

 ようやく馬に気がつき、声を上げる少年。もし馬と接触しても、自分の体が盾になれば子供だけでも助かるかもしれない。そう思い、彼の体を抱きかかえようとしたときだった。

「ああもう! 何やってんだ、あんたは!! 死にたいのか!!」

 男の怒鳴り声と共に、不意に体がぐん、と引っ張られる。

 勢い余って倒れ込んだのだろうか。体をどこかに打ったと思しき衝撃。

 遅れて体を地面が擦る痛みと、凄まじい轟音。蹄が地を打つ高い音が、耳の端を掠めていく。

 それが、猛烈な勢いで走り抜けていった馬と馬車の音と分かったのは、周りから安堵から生まれたため息がいくつも聞こえたからだった。

「――危ないところだったな。二人とも無事か? 立てるなら、一度立ってみてくれ」

 正直なところ、アナの頭の理解はまだ自分の置かれた状況に追いついていない。

 それでも、どうやらアナと少年を間一髪で通りへと引っ張ってくれたらしい声の主の指示に従い、アナはどうにか立ち上がってみせた。

「うん、怪我はなさそうだな。なら、ひとまずはこれでよし、と。頭を打ったりしてないか? 骨に異常は?」

「多分、大丈夫だと思うわ」

 傍らで、助けられた少年も同じように答えたのが聞こえる。耳から拾う低い声が、救出者が男性であるとアナに教えてくれていた。

 どうやら、アナの無謀な救出劇を手伝ってくれたのは、このからっとした物言いの青年らしい。漸く思考が落ち着いてきたアナは、まずはお礼を言うべきだと乱れた服装は片手で軽く整え、

「命に別状がないなら――おい、そこの坊主! ろくに前も見ずに通りに飛び出すなんて、一体何を考えてるんだ!」

 突如響いた叱責の言葉に、アナは虚を突かれ、開きかけた口を中途半端に開いたままにしてしまった。

 二人の救世主である男は、無事を確かめるや否や、自分が助けた少年を叱り飛ばし始めたのだ。

「さっきみたいに周りに注意しないで勝手なことばかりしていたら、いつか馬車に轢かれて大怪我するぞ。さっきだって、危うく死ぬところだったし、この人も巻き添えにするところだったんだからな。おい、ちゃんと聞いてるのかっ」

 どうやら、彼は見知らぬ二人を助けただけでなく、事故が起こりかけた原因の一つでもある子供の飛び出しについても、当の本人に向けて注意せねばと考えたらしい。

 子供の命を守るために、危ない真似をしないように指導をしなければならない、という理屈はアナにも理解できる。

(でも、それを本当にやる人は初めて見るわね。もっとも、それを言ったら、暴れ馬に轢き殺されそうな人間を助ける、という行動をした人自体初めて見るのだけれど)

 アナの内心の呟きなどつゆ知らず、青年は懇々と説教を続けているが、残念ながら少年の顔は段々鬱陶しそうなものへと変化していっていた。

 なるほど、危険な状況を助けられたのは理解した。だが、訳もわからぬうちに楽しい遊びを中断させられた上に、見知らぬ男に頭ごなしに叱られて、それを素直に聞き入れるかはまた別問題だ。

 徐々に少年の目には反抗的な気配が宿り、不貞腐れた態度を隠そうともしなくなっていく。

「そんなの、馬が暴れる方が悪いんじゃんか。っつーか、もういいだろ」

「あのなあ、お前……っ!」

 男の説教を鬱陶しそうに一蹴する少年に、ついつい男の声にも熱が帯びる。思った以上に大きく響いた声に、周囲にいた人たちにも安堵から一転、不穏な気配が漂い始めていた。

 無遠慮な視線が、あちらこちらから二人へと向けられる。それを察したアナは、男よりも先に少年に近づき、

「馬が暴れたのは、近くで荷物が崩れたからよ。大きな音に驚いてしまったのね。それを知らないあなただけを責めるのは、確かに公平とは言えないかもしれない。ただ、そこにいる人があなたを危ない場面から助けてくれたことは、私のそばにいたのだから、あなたも分かっているでしょう?」

 膝を折り、アナは少年と目線を合わせる。先ほどまで頭ごなしに叱られていた分、アナの静かな物言いは少年の勢いを挫く効果があったようだ。

「彼が私とあなたを引っ張ってくれなかったら、私もあなたも馬に蹴られて、今頃大けがをしていたでしょうね。もしくは、死んでいたかもしれない」

「死んで……って、それは、俺が?」

「ええ。馬に蹴られて亡くなった人の話は、聞いたことぐらいはあるでしょう」

 このくらいの年頃ならば、下手に死を隠すよりは敢えて突きつけた方が理解しやすいだろう、と判断したのは正解だったようだ。これまで十分に飲み込めていなかった恐怖が、今になってじわじわと少年を蝕み始めたようだった。

「今回は、たまたま暴れ馬が原因だったけれど、馬車の事故はそこまで珍しい話ではないわ。そして、事故の犠牲者は、通りの様子を見ずに飛び出す子供が多い。彼が、どうしてあんなに必死になってあなたを叱るか、少しは分かったかしら」

 ここまで説明すれば、さすがに自分が危ういところを助かったのだと認めざるを得なかったのか、少年は一度小さく頷いてくれた。それでも、素直に受け入れるのは癪なのか、彼は不服そうに唇を尖らせている。

「……わかったよ。通りに出るときは気をつける。これでいいんだろっ」

 これ以上、厄介な大人に付き纏われては面倒と思ったのか、ぶっきらぼうにそれだけ言い残すと、少年は踵を返して二人から離れていった。

 子供にとって、安全を訴える大人の説教ほど鬱陶しいものはないのだろう。今はただ、彼の心に今日のことが少しだけでも刻まれていればいいと思うしかない。

「何だか悪かったな。面倒な役を押し付けたみたいで」

 小さくなっていく少年の背中を見送っていた男が、アナへと振り返り、苦笑いを見せた。

「大したことじゃないわ。むしろ、あなたの方が立派よ。子供の安全をあそこまで本気に考えている方は、残念ながら、そこまで多くないものだから」

「それこそ、大したことじゃないさ。向こう見ずなチビを見てると、昔の自分を思い出して恥ずかしくなるんだよ。そんな風に褒められるようなもんじゃない」

 先ほどまでの叱りぶりはどこへやら。彼のからりとした物言いは、不思議と人を安心させるものがある。そんな男に対して、アナもまた薄い微笑を返す。

「ところで、一つ頼んでもいいかしら。実は、先ほどの事故で足を挫いてしまったみたいなの。帽子もどこかに飛んでしまったようで……とりあえず、道路の端まで連れていってもらえないかしら」

 倒れ込んだ弾みで、半ば解けかけていた髪を、片手で耳の裏へと掻き上げる。空いた片手は、エスコートを求めるかのように男へと差し出した。

 男は軽く目を見開き、その視線が揺れる。彼の視線がどこへ向けられたかは、アナにもすぐ分かった。彼もまた、アナと同じ答えを導き出したようだ。

 先ほどまでとは異なる、さながら少年が興味を惹かれる何かを見つけたかのような、軽やかな微笑を交えながら、男はアナの手をとり、こう言った。

「――喜んで、司祭様」

 アナの指先に触れた男の肌は、この辺りでは珍しい濃い色のものだった。

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