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僕らはソラを謳う  作者: 千代里
幕間1の3つめ「ヘイノとニコと古書店の話」
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幕間1・3-1

「今日はヘイノさんのお力を借りられて助かりましたわ。ニコ一人を町に行かせるのはまだ不安が残りますし、かといって私が顔を見せても、あの子は恐縮してしまうでしょうから」

「ヘイノ本人も、ニコのことは気になっていたようですから、丁度いいでしょう。彼よりも、ニコの方があの町には慣れているでしょうから、今頃彼女に案内されているかもしれませんね」

「ああ、たしかにそうなるわね。ごめんなさいね、私ったら。どうしても、あの子はこの辺に来たばかりだからって考えてしまうのよね」

 シニッカは頬に手を当て、上品な笑みを浮かべつつも、しみじみと噛みしめるように言う。アナも、彼女の笑顔にあわせて、小さく頷きを返した。

 豊穣祭が無事に終わりを迎え、続く『生誕祭』の準備を一週間後に控えた春の始まりの頃。アナは、近頃何かと関係を持つ機会が多くなったシニッカの家に招かれていた。

 今日は授業がない『清めの日』だ。普段なら、一人で招待に預かるアナも、シニッカの家にいるニコのことも考え、見習いの双子たちを連れてお招きに応じることにした。

 昼食会は恙なく終わったのだが、そのときシニッカはアナにあるお願いをした。それは、ニコが行きたがっている店への付き添いをヘイノに頼みたい、というものだった。

 ヘイノは二つ返事でその依頼を引き受け、今はニコと共に町へと向かっている。丁度町に向かうところだった近所の人の馬車に相席させてもらうことになったので、さほど時間をかけずに到着できるだろう。

「でも、実際この村に来たのは最近でしょう? 豊穣祭のときに顔を見せてくれたのを、よく覚えていますもの。せっかく、今日はゆっくり顔を見られると思ったのに、入れ違いになってしまうなんて残念ね」

「ごめんなさいね、ロポネンの奥様。また次にきたときに、挨拶をさせますから」

「構いませんよ、シニッカ。それよりも、奥様なんて他人行儀はよしてくださいな。昔のように、イーナと呼んでちょうだい」

 ヘイノを送り出したアナは、ヨニを一足先に家に帰し、今はシニッカの話し相手としてその場に残っている。

 そんな折り、やってきたのがロポネン夫人ことイーナであった。シニッカと同年代の彼女は、型紙を返しにきたという建前でニコの様子を見に来たのである。

 パユヴェシ村は、さほど人の出入りが激しい村ではない。だからこそ、新しい村民は注目の的となる。特に、ゴシップ好きな者ともなれば、その傾向は顕著だ。中には、やってきた翌日には家に押しかけて質問攻めにする、などという話もある。

 イーナ・ロポネン女史はそこまで過激なゴシップ好きではないものの、古い知人が新しく子供を引き取ったともなれば、一度は顔を見に行かねばと思う程度には好奇心を持ち合わせた女性だった。

「あなたも、それに橋向こうのホロパイネンの奥様も……他は誰だったかしらねえ。とにかく、沢山の人が貸していたものを返しにきたり、色々贈り物をしにきてくださるのよ」

「それはもう、当然のことでしょうよ! 一足早く隠居のご老人のような生活をしていたあなたが子供を引き取るなんて言い出したから、誰だって気になりますもの。しかもこの村の人間ではないともなれば、ねえ」

 イーナに突如話を振られて、アナは曖昧な微笑だけを返しておいた。

 ニコが村にやってきただけで、この騒ぎようだ。ニコが元使用人として苦しい生活をしていたことや、彼女を雇っていた男が酒類密売の犯罪と関わっていた、などとイーナに話そうものなら、まるで火薬を放り込んだように村中に噂が振りまかれるだろう。

 その際に、思いがけない形で噂に尾鰭がついてしまうのは、ニコとシニッカの平穏な生活においては望ましくない。故に、アナもシニッカも、引き取った経緯の詳細については口を噤んでいた。

「ニコはとても良い子ですよ。きっと、あなたもあの子を気に入るでしょう。ところで、今日はお喋りだけをしにきたの?」

「まさか。あなたとのお喋りはいつも手を動かしながら、と決まっているでしょう?」

 そう言いながら、イーナはバスケットから裁縫道具と作りかけの服を取り出す。

「あなたに予定がなければ、ここで夏の服の仕上げを済ませようと思っていたの。私の娘ったら、まるでこの冬で一メトリは伸びたんじゃないかと思うぐらい、スカートの丈が合わなくなってしまってね」

「そうだと思っていたわ。アナ司祭も、それでよいかしら。おもてなしの最中に、横でばたばたとしてしまって申し訳ないのですけれど」

「構わないわ。それとも、私はお暇した方がいいかしら」

「そんなことは言わないでくださいな、司祭さま。今日は、ジャムをたっぷり使ったパイも持ってきたんですよ。よかったら、後で一緒にお茶をしていきませんこと?」

 まるで自分の家であるかのように、堂々と言い放つイーナ。シニッカもまた、お喋りな友人にアナの相手を任せて、自分も裁縫箱を自室から運んできていた。

 イーナのように、家にやってきた者がお喋りをしながらついでに作業をするというのは、この村ではよくあることらしい、と最近アナは知った。

 雪が深かった頃は人の行き来も抑えられていたが、春になれば雪も溶けて、気軽に隣人への訪問もできる。家にこもって黙々と針を動かすしかなかった者たちは、ここぞとばかりに友人の元を訪れ、お喋りに興じながら手仕事も進めるというわけだ。

「アナ司祭がこの村に来た頃は、もう雪が深かったものですからね。あまり大層なもてなしができて、その節は悪かったなと思っていたんですよ」

「構いませんよ、イーナさん。私とて、皆さんに持て成されるために来たわけではありませんから」

「それに、双子の司祭さまのこともね。まさか、あんな若い子たちが来るなんて思っていなくて、大層驚きましたよ。彼らは、神学校の出なのですよね?」

 世間話の形をとりながら、イーナは冬に訪れた新しい訪問者についての情報収集にもしっかりと乗り出していた。

 アナたちはニコほどの新参者でもなく、司祭という確かな身分を持つ者ではあるものの、それはそれ。毎週礼拝の日には顔を合わせている関係ではあっても、司祭と来訪者の間柄では見えないものもある。

「ええ。オティラマキの……北にある町の神学校の出身と聞いています。本当は、他の司祭さまの元で修行を行う予定だったのですが、故郷の不幸があって、それで色々と手続きが滞ってしまったようで……結局、私が引き受けることになりました」

「まあ、そういうことだったのね。これも女神様のお導きかしらねえ」

「イーナさんの仰る通りですね。私も、彼らのような真面目で誠実な若者と巡り会えて大変幸運でした」

 そうは言ったものの、アナは双子との出会いは半ば必然だっただろうと感じていた。

 原因不明の火災による故郷の消失という不可解な状況。そして、彼らの両親という保護者の死により、当時、見習いとして修行に出るところだった双子たちの受け入れを拒否する者が出てきてしまっていた。

 両親の死。見知った者の死。それにより、精神的に傷を抱えている可能性。

 そのような者を弟子として引き取り、もし経歴に傷をつけるような真似でもされたら、その責任を負わされたら面倒だ――と考える司祭は少なくない。

 司祭は、人々に始祖の教えを説くもの。聖典の教えを胸に刻み、何に対しても公正であり、慈悲深くあるべし。

 そのように思われており、ヘイノなどは自らがその言葉の体現者になろうとしている節があるようだが、実情はそこまで清廉なものではない。

(女性司祭に対しても、大なり小なり距離を置きたがる者もいるものね。もっとも、そのおかげで私はあの二人を弟子にできたのだけれど)

 嫌われ者同士、というとあまりに明け透けな表現になってしまうが、結論としてはそういうことだ。

 始祖が女性であったがために、女性司祭もいないわけではない。だが、数は多くない。

 そして、これまた余計な噂が立つのを嫌がり、若い女性司祭のもとで修行をするのを嫌がる男性司祭は少なくない。アナとて、その気持ちは分からないでもないので、今まで見習い探しには苦労していた。

 おおむね、どの教会の司祭も見習いを育てて本当の一人前、と見做されるために、アナの扱いはこれまで半人前ではないが一人前でもない、という微妙なものだった。だが、今はこうして、その中途半端な立場からも脱却できている。

「村に教会ができて、本当によかったですわ。前々から、作るために手配はしていたのに、ずっと延ばし延ばしになってしまっていたでしょう?」

「寄付金を集めたのは、いつ頃だったかしらねえ。大工さんや聖石の技師さんの手配が上手くいかなくて、とティモの司祭さまが言っていましたね」

「本当の所はどうかしらね。自分の教会の修復はさっさと準備していたようじゃないの」

「まあまあ、こちらの方が港からも遠いし、大きな川もないから、準備に時間がかかるのは仕方ありませんよ」

 ティモの教会の対応に思う所があるらしいイーナに対して、シニッカはやんわりと友人を宥めていた。

「ともあれ、いらっしゃったのが、あなたのような上品で博識な方であったのは幸いでしたよ。新しい人が来ると聞いて、どうしても身構えてしまいましたけれども、ねえ?」

 分かるでしょう、と言わんばかりの物言いは、既にアナが村の一員として受け入れられているからこそだろう。イーナの言葉に、アナは「恐縮です」と軽く頭を下げる。

「ヘイノ司祭もヨニ司祭も、良識のある若者で、村の者は皆とてもほっとしてるのよ。ところで、アナ司祭は、今おいくつだったかしら」

「二十八です」

「そうなのね。女性の司祭は少し珍しく思うのですけれど、あなたと同じくらいの年頃の方は多いのかしら」

「そういう方もおりますし、そうではない方もおります。他の司祭様と結ばれて、夫婦で教会を管理されている方もいますよ」

「そうなると、司祭夫妻の子供はまた司祭になるのかしら」

「その場合もありますね。もちろん、そうでないことも同じくらい多いです」

 実際、ヘイノとヨニはそのような司祭夫妻の家の子供だとアナは知っている。ただ、彼らがどのような意図で今の職を選んだのかまでは、アナは知らないし、無理に聞きだそうとも思っていなかった。

「まあ、それは素敵なことね。それなら、ティモの町の司祭で、丁度あなたと同い年ぐらいの男の方がいらっしゃいましたよ」

「あら、そうでしたか。セヴェリ司祭には挨拶をしましたが、見習いの方はまだだったかもしれませんね」

 イーナの話がどこに辿り着くのかを察したのか、心配そうにシニッカがこちらを見やるのに気がついた。だが、アナは静かに目配せだけを送る。

「今はまず、パユヴェシ村の皆様と親睦を深めたいと思っております。冬の頃は、礼拝でしか顔を合わせる機会がありませんでしたが、春になればもう少し気兼ねなく皆様の家をお伺いできます。ちょうど、本日のように」

「そうね。私も、近いうちに招待状を送らせていただくわ」

 話の矛先を上手くずらしたのを察して、シニッカが小さく頷くのが見えた。

 イーナにとって、既にアナは信頼できる人物の一人として数えられているのだろう。だからこそ、なるべくなら村にずっと留まってほしいと思っての発言だということは、アナも読み取っていた。

 アナと同年代の女性なら、もしかすると不快に感じたかもしれない。しかし、アナはイーナのやや直接的な物言いにも、とりたてて感情は揺らしていなかった。

(だから、『何を考えているのか分からない』などと言われてしまうのかもしれないけれど)

 かつての同僚の言葉を思い出しながら、アナは笑顔で二人の年長者のやり取りを見守っていた。

「近頃は、私たちが若い頃に比べれば、随分と多くの人が行き来するようになりましたからねえ。アナ司祭は、列車というものを見たことがあります?」

「はい。それを使ってティモの近くまで来たのですから」

「あれのせいで、ティモにも随分と見知らぬ顔が増えましたね。私は、前より町が物騒になったのではないかと心配ですけれども」

 イーナは不満げに言うが、列車が齎すのは人間ばかりではない。村では入手が難しい細々とした雑貨や細工物を筆頭に、ティモの町――ひいてはパユヴェシ村を豊かにしたことと、列車の開通は深く関わっているだろう。

『清めの日』に開かれるティモの市場も、列車が通ったことで以前より活気が出たという話も小耳に挟んでいる。今ごろ、ヘイノたちは外出ついでに市場の散策もしているかもしれない。

 だが、シニッカよりも保守的な考えのイーナに、それを言ったところで角が立つだけだ。隣人に苛立ちを与えるのはアナの望むところではないので、軽く頷くに留めておいた。

「私は、新しい人や物が来るのは、そう悪いことではないと思っていますよ。うちの人は、いつも私の知らない世界を沢山教えてくれましたもの」

「ええ、そうね。たしかに、そういう面もありますけれどね」

 流石に、船乗りであったシニッカの亡夫を悪く言うような真似はできないのだろう。イーナは不承不承といった調子で、スカートの淵にざくざくと刺繍を縫い込んでいた。

「そういえば、シニッカ。もう聞いたかしら。今度の『生誕祭』では、クルマラ氏が巡回劇団を招いたそうですよ。なんでも、聖都でも講演したことがある、名のある劇団だとか」

「まあ、素敵! ティモの町で本格的な劇団が来るなんて、いつ以来かしら! きっと、ニコも喜ぶわ」

 シニッカが声を弾ませるのを聞いて、自分が劇団の一人でもないのに、イーナは満足そうに頷いていた。彼女は、自分がもたらした最新情報が人を驚かせる瞬間を見るのがいっとう好きであるらしい。

「クルマラ氏、というとティモの町の方でしたよね?」

 念のための確認と、話したがりのイーナに会話の主導権を譲るために、アナは確認の質問を投げかける。

「ええ、そうですよ。アナ司祭はまだお会いになってはいないかしら。クルマラ氏は、ティモの町の更に向こうにある、ヴァルコマキという町で事業を成功させた、いわばこの辺りの名士といえる方なんですよ」

「ただ、ヴァルコマキは列車の駅ができてから、随分と栄えて騒がしくなったそうで、冬から春にかけてはティモのお屋敷で過ごされているのだとか。ほら、町に大きなお屋敷があるでしょう?」

 イーナの説明と、シニッカの補足に、アナは「ああ、あの」と小さく首肯を返す。

 ティモの町を見下ろすようにある高台に、聳え立つようにして大きな屋敷があるのはアナも見たことがあった。町の名士であるクルマラ氏は、そこのお屋敷の主人というわけだ。

「ヘイノもヨニも、この町で『生誕祭』を過ごすのは初めてでしょうから、観劇に行かせてもよいでしょう。彼らも、時には息抜きもさせてあげませんとね」

「ええ、それがいいわ。アナ司祭も、ぜひ行ってみるといいですよ。『生誕祭』は、村の若い者たちも揃ってティモに行きますから、良い出会いもあるでしょう。劇団が来るのなら、音楽も例年よりも素晴らしいものになるでしょうし!」

 どうやら、イーナは未だにアナの縁結びを諦めていないらしい。とはいえ、実際のところ、教会を閉じて祭りに顔を出せるのは、半日が限界だろうとアナは思っていた。

「あまり遅くならないようでしたら、私も久々にティモの『生誕祭』を楽しもうかしらねえ。ニコのために、とっておきの晴れ着を用意してあげないと」

「あらまあ、シニッカが『生誕祭』に行くと言い出すなんて、何年ぶりかしら! 今のうちに、子供とのお出かけを楽しんでおくのですよ。私の娘ったら、もう母親同伴は嫌だというのですよ」

「ニコは優しい子ですからね。きっと、大きくなっても私と一緒に行くと言ってくれますよ」

 このささやかなシニッカの反論を、イーナは母親の先輩として否定するべきと判断したらしい。子供の成長と反抗について猛然と語り出したが、シニッカはそれに一つ一つ頷くだけだった。

 お喋りでお節介焼きのイーナと、おっとりとして簡単には動じないシニッカ。彼女たちが少女時代にどんな友情を築いたのか、アナには何となく分かるような気がした。

「ああ、そうだ。アナ司祭、ちょっと客間に来る前に目に入ってしまったのですけれどね。玄関にあったコートと帽子は、あなたのものかしら?」

「そうですよ、イーナさん。まだ寒いものですから、コートが手放せないんです」

「それはそうですけれど、あの帽子はちょっといただけないわね。せっかくお祭りに行くのなら、もっと春に相応しい帽子じゃなくっちゃ! エスコートをする若いお二人にも失礼というものですよ。司祭様は、私服にも何か決まりがあるんです?」

「いいえ、そういうわけではありません」

「それなら、ティモの町に良い帽子屋があるから、紹介させてちょうだい。広場はご存じかしら。黄色い建物のある通りを真っ直ぐ行くと、私の娘が行きつけにしている帽子屋があるのだけれど――」

 お節介の矛先が自分に向いたな、と思いながらアナは静かに彼女の言葉に耳を傾けていた。

 実際のところ、司祭としての制服以外のアナの持ち物は、簡素の一言に尽きる。自分の装いで何か言われようと、さしてアナは気にしない。だが、そのせいでヘイノやヨニが恥をかくのだとしたら、そこは改めるべきなのだろう。

「近頃は、私たちが若い頃に比べると、流行も随分と変わったものねえ」

 一通り、イーナのおすすめの仕立屋と帽子屋の話を聞き終えたころ、シニッカが救いの手を差し伸べてくれた。

「お花でできた布の飾りですとか、袖を丸く膨らませてみたりとか。リボン飾りも流行っているんでしたっけ?」

「私の娘も、刺繍だけでは物足りないと言うのよね。スカートにはフリルをつけてほしいだとか、スリットの下から更に違う布を見せるだとか、色々と仕立屋に注文をつけているそうよ」

「それなら、今度本屋で最新流行の服の雑誌を探そうかしら。型紙も新しいものを用意しないと。ふふ、久しぶりに腕が鳴るわねえ」

 奥様がたの会話に耳を傾けながら、アナは自分のスカートに視線を落とす。灰色のスカートには、申し訳程度の装飾として濃色のリボンが縫い込まれている。だが、装飾としてはそれだけだ。

(この服も、改めるべきなのかしら。ただ、あまり派手な装いは司祭として相応しくないと思われるかもしれないわね)

 アナにとって、どんな衣服を身につけるかの基準は、その場に相応しいかどうかという一点に尽きる。そこに、自分の趣味嗜好という意思は介在しない。

「私には、そんなにもごてごてと飾り付ける良さというものが分かりませんけれどね」

「まあまあ、私たちのときも沢山の刺繍を入れたスカートで出かけると、それだけでなんだか楽しい気分になったものじゃないの。アナ司祭も、そう思いません?」

「――ええ、そう思います」

 同意を返しながら、アナは思う。そんな風に何かを楽しいと感じることは、果たして自分にはできるのだろうかと。

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