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――夢――

 ウィルハザード王国。

 大陸に名だたる、建国千年を超える大国。


 イーリスはウィルハザード王国の第一王女として生まれた……双子の姉として。

 妹の名はアスフィア。

 金髪の美しい双子の王女。


 よくある話だ。

 双子は跡継ぎ争いや替え玉など、国を乱す原因になると言って忌み嫌われる。

 しかし、王と王妃は、慣例に従って妹を殺すには忍びなく、二人を分け隔てなく愛した。


 分け隔てなくと言っても、そこは第一王女と第二王女。

 姉であるイーリスには、後継ぎとして相応しい英才教育が施された。

 逆に妹であるアスフィアには、万が一に備えた、王族として最低限の教育だけ。

 アスフィアが貴族や他国に利用されないためだ。


 イーリスは厳しい教育にも耐えた。

 代々続く王族としての基礎教育の賜物、驕りも反感も、王族としての義務の前には無いも同然。

 成績も優秀な彼女に両親は喜んだ。

 彼女は魔術や神術にも卓越した才能を発揮し、教育係の宮廷魔術師の爺やも手放しで褒めた。


 対するアスフィアは、お世辞にも天才とは呼べなかった。

 外様である母親並……貴族としては及第点なのだが、比較対象が優秀過ぎた。

 しかし、愛想が良かった。

 第二王女なので期待されなかった分、失敗しても怒られず、甘やかされて育ち、優しい子に育った。

 家族にも民にも愛された。




 ある日、イーリスは勉強の最中、歴史書や魔術書から知ってしまう。

 世界が遠からず滅びると予見されていることを。


 両親は考え過ぎだと笑った。

 爺やも、今までに何も無かったのだから、心配は要らないと言った。

 イーリスは必至に訴えたが、信じて貰えなかった。

 信じて貰えなかったことは辛かったが、それよりも世界が滅びることの方が嫌だった。

 だから彼女は対策を講じようと、勉強の合間に独学で調べ、王国に伝わる伝説の迷宮に、一人で潜ったりもした。




 そんなある日、父王が死んだ。

 母は父の死に塞ぎ込んだ。

 貴族も民も、アスフィアが次の王に相応しいと叫んだ。

 アスフィアは貴族にも民にも愛されていた。

 それに対してイーリスは、過度な魔術の実践の影響で、綺麗だった金髪は色を失って銀色となっていた。

 人は金色の輝きに心奪われる。

 高貴の象徴とされる黄金色の髪を失い、勉強や研究に感けて民の前にあまり顔を出さず、貴族との顔を合わせる機会も少なかった彼女よりも、美しい金髪の見慣れたアスフィアを選ぶことは、致し方の無いことだった。


 イーリスもそれは理解していたので、妹を恨みはしなかった。

 皆が選ぶなら仕方が無い。

 国は妹に任せて自分は世界を救おうと決意し、妹の戴冠式の後、人知れず愛する祖国に別れを告げて、迷宮に籠って研究に専念した。




 イーリスは迷宮の最奥で、異界への門を開き、異界に研究の場を移した。

 実験の影響で、愛する祖国に迷惑が掛かることを嫌ったから。


 その内、持ち込んだ食料が尽きた。

 イーリスは食料を求めて、フードで顔を隠して城下町に向かう。

 そこで彼女は驚くべき事実を知る。

 宮廷魔術師の爺やが国賊を名乗り、伝説の迷宮の最奥に陣取っていると言う。

 しかも、女王アスフィアは、その主犯としてイーリスにも賞金を懸け、世界中から集まって来た腕自慢の冒険者たちで、城下町は溢れ返っていた。


 イーリスは大量の食料を買い込んで、城下町を後にした。

 もし転移の魔術を使わなければ、怪しまれたかもしれない。

 もし転移の魔術を使わなければ、迷宮の最奥で爺やと話せたかもしれない。

 いずれにしても、それは仮定に終わった。


 彼女は失意を胸に、研究に没頭することとなった…。

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