――プロローグ――
私の名前はイーリス。
イーリス・ヴェルガ・エクサ・ウィルハザード。
ウィルハザード王国の元第一王女にして、現女王の姉。
私は世界の滅びを予見したけれど、誰にも信じて貰えず、仕方なく一人で国が誇る由緒正しい伝説の迷宮に篭って研究をしていたら、何時の間にかお尋ね者になっていた……なんで?
「お前が欲しい」
そして何故か刺客の男に告白されている。
「どういうこと?」
考えられるのは王位を継いだ妹の罠、もしくは刺客本人が考えた罠。
どっちにしても信じられるはずが無い。
「告白をしている」
「知ってる」
目の前の男は中世的な整った顔立ちで、男にしては背がやや低くて私と大差無い。
私は魔術師なので性別を間違えるはずがなく、実は女ということは無いけど…。
「返答は如何に?」
「否定以外あると思う?」
「何故肯定しない?」
話が通じない。
初めて私の元まで辿り着いた刺客だから話してみたけど無駄だった。
面倒なので片付けよう。
私は暇では無い。
やらなければならないことがある。
私は殺人鬼では無いが、如何に友好的に見えても、迷宮の奥底の、更に異次元の果てまで単身で乗り込んで来る相手を看過するほど、甘くも無警戒でも無い。
「魔…火…円…球…塊……《火炎球》!」
力ある言葉を紡ぐと、空中に火の粉が舞い踊り、手の平の上で螺旋を描くように集まって球状となったそれは、男に向かって飛んで行った。
男は避けようとしたが、炎の球はそれ以上に加速して男に当たると、足元から天井までを貫く炎の柱となって男を焼き尽くした……はずだった。
「お前の情熱的な返事、確かに受け取った」
「きゃっ?!」
男は今尚燃え続けている炎の柱の中で、平然としている。
炎か魔術を“無効化”した訳では無い。
その証拠に、男の来ている服はいい感じに焼け落ちて、既に真っ裸だった。
「おっと失礼」
男が手を払うと、今度こそ炎の柱は消え去り、何時の間にか元と同じ服を着ていた。
(…不味い)
もっと強力な魔術なら男に効くかもしれないが、強力と言うことは余波も大きいと言うこと。
こいつを倒せる魔術なんて使ったら私が死ぬ。
広い場所へ逃げるにしても、転移の魔術を最後まで唱えさせてもらえるか分からない。
分の悪い賭けは嫌いだ。
「良い剣だな」
男は私が抜いた剣を見て褒めるが身構えない。
(油断し過ぎ)
男に突っ込んで切りかかる。
簡単に避けられたが、そのまま足を止めず壁に突っ込んで、
ザンッ!
壁を斬って、空いた穴に飛び込む。
「魔…空…換…位……」
直ぐに転移の魔術を詠唱し始めた。
斬り掛かったのは、詠唱の時間を稼ぐための演技だ。
「良い作戦だが…」
男が私に駆け寄る。
「…遅過ぎる」
詠唱が完成するより早く、追い付かれた。
「―――っ!」
ぐしゃっ!
男の拳が、私の見た最期の光景だった…。




