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朝の目覚め

 朝の予感で、瞼を開ける。目の前に映る白い天井が、軽い違和感を生じさせてきたが、一旦脇に置いておくことにする。

 昨夜の記憶を辿るが、立ったまま目を瞑った後の記憶が全くなかった。帰巣本能ってやつか。またしょうもないことを考えてしまった。

 視界は澄み、頭さえスッキリしていた。眠気も、ダルさもあまり感じず、驚きを覚える。今日は調子のいい日だ。気分は一切晴れないが。

 ああ、また自己嫌悪に陥っている。こんな人間なのだから、仕方ないだろう。

 惰性的に、現代人の相棒であるスマホを、手探りで探す。

 あれ?ない。ない。いくら手を伸ばしても、見つけることができない。広大なるネットの海に航海していくことが叶わないではないか。

 布団を捲り上げて探そうとして、ようやく違和感に気づく。

 これ・・俺の布団じゃない。いや、そんなことより、ここ俺の部屋でもない。一気に恐怖が、首を絞めてくる。事件に巻き込まれたのか。可憐な女性や、金持ちの坊ちゃんなら露知らず、こんな冴えない男を攫ったところで、何の得があるだろうか。

 考えれば考えるほど、深淵の底に落ちていく予感を感じ、戦慄する。

 だが、その暗闇に一筋の光を見出した。この既視感、懐かしさは。

 驚きのあまり、脳みそがフリーズしていた。何分そうしていたか分からないが、徐々に冷静になっていく。

それでも回りきらない頭が導き出した答えは、とりあえずこの部屋から出るだった。あまりに、短絡的なになってした。


 開けた瞬間、その先の景色で全てを思い出した。ここは、高校の時まで住んでいた家だ。

 疑問は解けたが、また別の疑問が出る。その問いを考える前に、呼びかけられた。

「あっ、おはよう。今起こしに行こうとしたところだったのに」

 母さんだった。少し肌に艶があるように見えるのは気のせいだろうか。若返ったというか。

「お、おはよう」

 まだまだ混乱していた俺は、それしか言えなかった。

「今日入学式なんだから、早めに朝ごはん食べて用意しちゃいなさい」

 入学式????

 一瞬、我が耳を疑った。

 何言ってんだろこの人は。前言撤回。ついにボケが始まってしまったのか。

「にゅ、入学式ってなに?」

「なにって今日中学の入学式でしょ」

 中学?????

 もっと意味が分からない。

 まるで、俺が中学生になったみたいに。

 鈍足な脳みそを、今ばかりは火力を上げて回転数を上げる。考えうる全ての可能性を、検証し考察する。正確性など度外視した速度で、数秒で済まそうとした。


・・・・・・・・・・・・・・

 まさか。そんなはずは。 ありえない。物理法則やら、この世の心理に反している。多分倫理にも、反していると思う。多分。

 でも、この浮かんだ疑問を放置したままにしておくことは出来ない。

「今、今ってなん、何年?」

 恐る恐る聞く。

「え?2017年でしょ」

「えーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 心の底からの叫びを解放させる。

 九年前???

「うるさい!朝っぱらからなに」

 真向いの部屋の扉から姉が出て来た。高校の頃の姉だった。懐かしい感情は一瞬に過ぎ去り、頭が真っ白になった。

 これで、確定した。俺は、何の因果か九年前にタイムスリップしたようだ。非現実的な事実に、眩暈がしてきそうだ。

 朝食の食パンを、口に放り込みながら、ついていたニュースを見ている。テレビの中で示している日付も、2017年4月11日だった。

 本当に九年前なのか確かめたくて、ほっぺたを引っ張ったが、見事に痛かった。この痛みが、誠なのだと告げられる。

 何故タイムスリップしたのか、足りない脳で考えても、分かるはずが無かった。だから、考えるのはやめた。

 でも、不思議とワクワクしていた。SFチックなこんな出来事に、興奮しない男は居ないだろう。

 何一つ特別なことが起きなかった俺の人生に、神が憐れんでやり直すチャンスをくれたのだろう。きっとそうだ。そういうことにしておこう。

 得る物が少なかったこれまでの人生で得た、唯一と言っていいほどの後先考えない楽観主義が発動して諸々を自分の中で納得させた。こんなんだから、借金するクズになる。

 何はともあれ、折角やってきたこのチャンス離すわけにはいかない。神がくれたこのチャンスを。

学校というものが、嫌いで仕方がなかったが、今日からは大好きになるとしよう。友人も恋人も必ず獲得するべしと神に誓う。神の御力に報いるために。

陰キャで根暗だった中学時代(今も大して変わらない)、親友も恋人もいない中学時代(現在進行形)、特筆した思い出がない中学時代(高校、大学と一緒)を塗り替えて、憧れの青春を謳歌する。絶対に!そうじゃないと死ぬに死にきれない。


 俺の華の中学校生活待ってろよ!!

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