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前夜

 こつ、こつ、こつ。

 俺の一歩一歩が、静かな町の神経を細い針でつついている。 深夜のわが町は、寄り添ってはくれないようだ。

 缶を片手に、これまでの人生を、思い出していた。忌々しい記憶ばかりを。気を許せる友人も、愛おしく思える彼女もいない。彼女に関しては、人生において出来たことすらない。

 泣けてくる。虚しすぎる。神様、あまりにも酷すぎますぜ。俺が何をしたっていうんだ。高貴なこの人生、どこで間違ったのだろうか。

 決壊しそうな涙腺を、抑えようと上を見上げる。

 夜空に輝く星々を期待したが、憎たらしい曇天によって瞬きは届きそうになかった。

 馬鹿馬鹿しい。生きていたい理由を、探そうとしている。こんなことすら逃げようとしているのか俺は。

 

 街灯の光が放つ光は、朧気で夢のようだった、悪夢なのか吉夢なのか判断つかなそうだ。白昼夢のように。

 綺麗という言葉は思い浮かばない。しかし、無意味だとも切れ捨てられない。

 缶酎ハイを煽って、アルコールを流し込む。

 ああ、今夜の酒はまずい。マズい。非常に不味い。

 夜風が、狂い熱せられた体を冷ましてくれる。余計なことをしてくる。

 真夜中のこの町は、死んだようだった。俺は、羨ましく思った。

 ああ、死にたいな。死にたいな。

 願望を呪詛のように、何度も何度も唱え続ける。

 家からどれくらい歩いたのかさえ分からなくなっていた。二時間は過ぎ去った感覚だが、壊れかけた器官の信用度など皆無に等しく。

  

 歩く速度は、まばらに鈍くなりつつある。次第に、前へと繰り出す足までも億劫になっていき、完全に止まるまではそう時間はかからなかった。

 周囲を見渡すと、いつの間にか、母校の中学校の近くまでやってきた。楽しかった記憶など皆無だが、それでも、中学時代を思い出すと、懐かしい気持ちになる。

 あの頃、いくつもあったであろう選択肢の正解を進めば、青春を味わえたのだろうか。こんな俺でも、思い返して戻りたいと思える学生生活を送れたのかもしれない。親友も恋人も作れたのかもしれない。

 ありもしない空想の生活を思い浮かべて、悲しくてまた死にたくなる。間違いばかりを選んできた人生、何回やり直したいと思ったか。幻想めいた願いが無駄だと知っていても、愚かな俺は、時々空想していた。この刹那のように。


  答えのない問いに答えてくれる者もいるはずもなく。それでいて、答えは欲していない自分もいる。

 行くあてもなく、闇夜を彷徨う。泣きたくなるような空の下で。


 惰性にまみれて、ギャンブルにもはまり、最低な理由で作った借金。バイトを先月、衝動的にやめたせいで、今月の収入は無くなった。借金の返済がもちろんできない。督促状も来るだろう。

 その方程式の答えは、考えるまでもない。家族の顔を思い浮かべるだけで胸が苦しくなる。

 恥ずかしいより、情けなさすぎる。

 あの笑顔も、あの約束も、あの信頼も、全て裏切ってしまう恐怖で叫び出したくなる。そんな度胸も、勇気もないから、ただ上を向いて歩く。


 アルコールが、十二分に身体中を巡っていた。思考が段々、鈍化していく。このまま意識を失って、どんな理由でもいいからそのまま死にたい。

 そういえば、死ぬとか死にたいとか言いすぎだな。神か仏が聞いていたら、怒られそうだ。まぁ、神も仏もいないから大丈夫だろう。もし、いたとしたら悪人でない俺が、こんな不幸になる道理がない。

 意識を途切れそうになったので、残っていた酎ハイを飲み干す。それが決めての一撃になったのか、意識が遠のいていく。その刹那、何かが癪に障った。この世界にムカついた。

 だから、

「誰でも良いから!俺の人生やり直させてくれ!!!」

 心の底から叫んだ。運命を呪いながら、縋りながら。

 眠気に身を委ね、立ったまま目を閉じる。体が母なる大地に、抗えず倒れていきながら、朧げながら。

 運命の転機は、ある日突然やってくるらしい。

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