沈黙
「──白瀬さん、どうぞ」
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扉が閉まる。
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待合室。
静かになる。
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神谷は台本を閉じた。
もう読んでいない。
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ただ、
扉を見ている。
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どれくらい経っただろう。
五分。
十分。
もっとか。
時間の感覚が曖昧になる。
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中から声は聞こえない。
防音だからだ。
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それでも、
何かが伝わってくる気がした。
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隣に座っていた受験者が、小さく息を吐く。
「長いな……」
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普通なら、
もう終わっている時間だった。
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神谷は時計を見る。
もう十二分。
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誰も話さない。
待合室全体が、
その扉を意識していた。
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やがて。
カチャ。
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扉が開く。
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白瀬が出てくる。
表情は変わらない。
汗もかいていない。
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「お疲れさまでした」
スタッフが声をかける。
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白瀬は軽く頭を下げる。
「ありがとうございました」
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それだけ。
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神谷は思わず聞く。
「……どうだった?」
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白瀬は少し考えて、
首をかしげる。
「普通でした」
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神谷は苦笑する。
「お前の普通は信用できない」
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その瞬間。
奥の部屋の扉が少しだけ開く。
審査員の一人が顔を出した。
「次、神谷さん」
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神谷は立ち上がる。
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白瀬とすれ違う。
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そのとき。
白瀬が、小さな声で言う。
「神谷さん」
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神谷が振り返る。
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「頑張ってください」
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たった一言。
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神谷は少し笑って、
親指を立てる。
「任せろ」
――――
扉が閉まる。
――――
白瀬は待合室を出ようとする。
そのとき、
後ろから声が聞こえた。
「……君」
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振り返る。
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さっきの審査員だった。
年配の男性。
穏やかな目をしている。
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「一つだけ」
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白瀬は立ち止まる。
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審査員は少し笑って言った。
「君、自分が何をしたか分かってる?」
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白瀬は困ったように笑う。
「……すみません。分からないです」
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審査員は静かにうなずく。
「そうか」
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それだけ言って、
部屋へ戻っていく。
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白瀬は、その意味を考えながら、
静かに会場をあとにした。




