待合室にて
朝。
都内のスタジオ。
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受付。
番号札。
資料。
静かな廊下。
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オーディション会場。
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白瀬は受付を済ませる。
胸には番号。
名前ではない。
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「こちらでお待ちください」
スタッフが案内する。
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待合室。
椅子が並んでいる。
もう何人か座っている。
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白瀬は一番端に座る。
台本を開く。
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部屋は静かだ。
誰も話さない。
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ページをめくる音だけが響く。
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数分後。
扉が開く。
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神谷が入ってくる。
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目が合う。
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「おはよう」
「おはようございます」
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それだけ。
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いつもの挨拶。
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でも、
今日は少しだけぎこちない。
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神谷は少し離れた席に座る。
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二人とも台本を見る。
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話さない。
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その時。
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また扉が開く。
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一人の男が入ってくる。
二十代後半くらい。
落ち着いた雰囲気。
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部屋の空気が少し変わる。
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誰かが小さくつぶやく。
「……あの人も受けるのか」
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白瀬は顔を上げる。
知らない。
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神谷は知っていた。
ほんのわずかに表情が動く。
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男は静かに席へ座る。
誰とも話さない。
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白瀬が小声で聞く。
「知ってる人ですか?」
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神谷は目を離さず答える。
「知ってる」
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一拍。
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「去年、主演賞を取った人だ」
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白瀬は息をのむ。
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神谷は続ける。
「実力だけなら、たぶんこの部屋で一番だ」
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その言葉に、
待合室の静けさが少し重くなる。
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白瀬はその男を見る。
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男は台本を閉じる。
深呼吸を一つ。
それだけ。
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焦りもない。
余裕も見せない。
ただ、
積み重ねてきた人間の空気があった。
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白瀬は思う。
(この人も、同じ場所を目指してる)
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スタッフが顔を出す。
「それでは、番号順にご案内します」
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最初の番号が呼ばれる。
一人、また一人。
部屋を出ていく。
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静かな時間が続く。
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神谷がふっと笑う。
「……やっぱり緊張するな」
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白瀬も笑う。
「神谷さんでもですか」
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「当たり前だ」
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神谷は肩をすくめる。
「慣れる日は来ない」
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白瀬は小さくうなずく。
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その時。
スタッフの声が響く。
「──白瀬さん」
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部屋の空気が止まる。
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白瀬は立ち上がる。
台本を閉じる。
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神谷が一言だけ言う。
「いつも通りで」
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白瀬は振り返る。
少し笑って、
答える。
「はい」
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扉が閉まる。
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神谷は、その扉を見つめたまま動かなかった。




