名前が変わる
イベント後。
控室。
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空気がまだ熱い。
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ドアの外では、スタッフが片付けをしている音。
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遠くに、まだ残っている歓声。
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白瀬は椅子に座っている。
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ペットボトルを持ったまま。
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少しだけ、ぼーっとしている。
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神谷は立っている。
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壁にもたれている。
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スマホを見ている。
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「……やばいな」
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ぽつり。
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白瀬が顔を上げる。
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「何がですか」
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神谷は画面を見せる。
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SNS。
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トレンド。
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“神谷くん”
“白瀬くん”
“神白”
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白瀬が固まる。
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「……なんですかこれ」
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神谷は少し笑う。
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「知らない」
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レオンが後ろから覗く。
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「カップリングできてるね」
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白瀬。
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「カップリングって何ですか」
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黒崎が即答する。
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「並べられること」
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「勝手にな」
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沈黙。
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白瀬はスマホを見せられる。
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文字。
画像。
切り抜き。
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“神谷が前で白瀬が後ろ”
“白瀬が来ると空気変わる”
“でも神谷いないと締まらない”
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神谷が言う。
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「もうキャラ扱いされてるな」
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白瀬は困る。
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「いや、普通にやってるだけなんですけど」
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レオンが笑う。
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「それが一番強いんだって」
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黒崎も頷く。
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「自覚ないやつほど残る」
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神谷は少しだけ黙る。
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「……俺ら、名前変わってきてない?」
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白瀬が見る。
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神谷は続ける。
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「作品の中じゃなくて、外で」
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白瀬はスマホを見る。
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自分の名前。
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知らない呼ばれ方。
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少しだけ怖い。
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でも、
どこかで納得している自分もいる。
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「……なんか、すごいですね」
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白瀬。
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素直に。
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神谷は笑う。
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「他人事かよ」
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白瀬も少し笑う。
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「だって、そうじゃないですか」
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その瞬間。
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少しだけ静かになる。
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神谷はスマホを閉じる。
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「まぁ、悪くはないけどな」
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レオンが言う。
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「名前がついたら、もう戻れないよ」
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黒崎。
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「戻る必要もないけどな」
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白瀬はその言葉を聞きながら、
ペットボトルを見ている。
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実感はまだない。
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でも、
外側だけは、確実に変わっている。
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神谷が立ち上がる。
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「帰るか」
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白瀬も立つ。
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「はい」
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扉の向こうは、
もう日常じゃない気がした。




