熱
ステージ袖。
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歓声が揺れている。
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壁まで震えるくらい。
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スタッフの声も、
イヤモニの確認音も、
少し遠い。
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白瀬は、袖から客席を見る。
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光。
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人。
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ペンライト。
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想像より、ずっと多い。
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「……無理かも」
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小さく漏れる。
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隣で神谷が笑う。
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「今さら逃げる?」
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白瀬は真顔。
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「普通に怖いです」
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神谷は少し驚いて、
でもすぐ笑う。
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「よかった」
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白瀬。
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「何がですか」
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神谷は前を見る。
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歓声。
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光。
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「お前もちゃんと怖がるんだなって」
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白瀬は眉をひそめる。
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「だからずっと人間ですって」
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黒崎が後ろから入ってくる。
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「その返し、最近多いな」
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レオンも来る。
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スマホを見ながら。
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「配信の待機、やばいよ」
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白瀬、固まる。
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「言わないでください今」
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神谷が吹き出す。
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空気が少し軽くなる。
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スタッフ。
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「30秒前!」
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緊張が戻る。
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白瀬は深呼吸する。
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うまくできない。
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浅い。
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神谷がそれを見る。
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少しだけ迷って、
言う。
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「……最初、俺が喋るから」
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白瀬が顔を上げる。
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「お前は、いつも通りでいい」
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静か。
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白瀬は少しだけ目を丸くする。
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今までは逆だった。
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神谷が合わせていた。
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でも今は違う。
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神谷が“前に立つ”。
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その意味が、
白瀬にも少しだけ分かる。
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「……お願いします」
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小さく。
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神谷は笑う。
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「珍しく素直だな」
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「今それ言います?」
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白瀬。
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その瞬間。
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「本番です!」
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扉が開く。
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歓声。
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一気に熱が流れ込む。
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神谷が先に出る。
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歓声が跳ねる。
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「こんばんはー!」
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声が通る。
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空気を掴む。
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白瀬は一歩遅れて出る。
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その瞬間。
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歓声の種類が変わる。
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大きさじゃない。
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熱。
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神谷は気づく。
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白瀬も気づく。
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“待たれていた”。
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白瀬は少しだけ息を止める。
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でも。
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今回は逃げない。
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マイクを持つ。
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少し震える手。
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「……こんばんは」
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歓声。
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さらに大きくなる。
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白瀬、少しだけ笑う。
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自然に。
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神谷が横を見る。
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「……それ、反則だろ」
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小さく呟く。
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でも、
悔しそうじゃない。
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楽しそうだった。




