もう、合わせない
スタジオ。
収録前。
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いつも通りの準備。
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マイク。
台本。
立ち位置。
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全部、整っている。
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「白瀬、ここで」
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スタッフの声。
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もう自然な流れ。
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センター。
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白瀬は頷く。
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「はい」
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普通に立つ。
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神谷は少し離れた位置。
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何も言われない。
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それも“普通”。
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台本を開く。
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目で追う。
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わかっている。
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この流れなら、
白瀬が中心で成立する。
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自分は、
そこに“乗る側”。
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……それでいいのか。
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一瞬だけ、迷う。
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でも、
すぐに消える。
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「……やめるか」
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小さく。
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誰にも聞こえない。
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収録開始。
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「いきます」
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ディレクター。
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白瀬が入る。
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「……来たのか」
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空気が整う。
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いつも通り。
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その“流れ”に、
神谷は乗らない。
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間を変える。
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ほんの少し。
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「遅かったな」
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セリフをずらす。
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台本通り。
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でも、タイミングを外す。
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空気が揺れる。
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白瀬が一瞬だけ見る。
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初めての反応。
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でも、
止まらない。
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「……来ると思ってた」
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神谷。
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押す。
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流れが変わる。
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白瀬中心じゃない。
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別の軸。
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「カット」
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ディレクター。
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少し早い。
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沈黙。
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「……今の」
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誰もすぐ言葉にしない。
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レオンが笑う。
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「やっとやったね」
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黒崎が言う。
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「壊したな」
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神谷は息を吐く。
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「……すいません」
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ディレクターは首を振る。
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「いや」
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一拍。
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「もう一回やろう」
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否定じゃない。
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再開。
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今度は、
さらに明確にズラす。
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白瀬が入る。
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「……来たのか」
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神谷は、
その流れを“受けない”。
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「遅い」
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短く。
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空気が変わる。
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別の温度になる。
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白瀬が、ほんの少しだけ迷う。
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その“迷い”に、
神谷が乗る。
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初めて、
同じタイミングに乗る。
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でも方向が違う。
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「カット」
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ディレクター。
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今度は間が長い。
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「……面白いな」
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それだけ。
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肯定でも否定でもない。
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でも、
可能性がある。
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白瀬が神谷を見る。
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「今の、違いますね」
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素直に言う。
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神谷は笑う。
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「うん。違う」
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一拍。
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「もう合わせないから」
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白瀬は少し考える。
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「……そっちの方がやりにくいです」
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正直に。
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神谷は頷く。
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「だろうな」
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でも、
やめない。
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ここがスタート。




