ふたつ
スタジオ。
収録前。
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空気が、いつもと違う。
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静か。
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でも、張っている。
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台本が配られる。
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全員が目を通す。
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「……あれ?」
誰かが小さく言う。
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神谷のセリフが増えている。
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白瀬のセリフも、少し変わっている。
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バランスが違う。
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明らかに。
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ディレクターが言う。
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「ちょっと試す」
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それだけ。
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白瀬は何も言わない。
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神谷も何も言わない。
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わかっている。
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試されているのは、
どっちかじゃない。
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“どっちが残るか”。
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収録。
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「いきます」
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白瀬が入る。
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「……来たのか」
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空気が整う。
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自然に。
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神谷が入る。
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「遅い」
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ぶつかる。
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流れが二つに割れる。
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白瀬の“自然な流れ”。
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神谷の“押し出す流れ”。
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どっちも成立している。
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でも、
一緒にはならない。
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「……なんで来た」
白瀬。
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「呼ばれたからだ」
神谷。
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間が合わない。
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でも、
どっちも正しい。
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空気が迷う。
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どっちに乗るか。
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スタッフが息を止めている。
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レオンが小さく笑う。
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「割れたね」
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黒崎は黙っている。
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目だけが、真剣。
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「カット」
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ディレクター。
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今回は遅い。
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最後まで見てから止めた。
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沈黙。
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誰も何も言わない。
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ディレクターが言う。
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「……どっちもいいな」
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一番困る答え。
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「でも、一つにしないといけない」
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現実。
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白瀬は台本を見る。
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神谷は、前を向く。
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逃げない。
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レオンが言う。
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「混ぜるのは?」
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ディレクターは首を振る。
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「薄くなる」
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黒崎が口を開く。
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「尖ってる方が残る」
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沈黙。
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白瀬が言う。
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「……もう一回いいですか」
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初めて、自分から。
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神谷が少しだけ見る。
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「いいよ」
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短く。
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再開。
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今度は——
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白瀬が変える。
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ほんの少し。
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神谷の流れを“受ける”。
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でも、
完全には乗らない。
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新しい形。
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ズレたまま、噛み合う。
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「カット」
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ディレクター。
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長い沈黙。
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「……これだな」
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決まる。
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でも、
どっちでもない。
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二つがぶつかって、
残った形。
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神谷は息を吐く。
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白瀬は何も言わない。
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ただ、
少しだけ目が合う。




