広がり方
スタジオ。
朝。
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ざわついている。
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いつもより、少しだけ。
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理由ははっきりしている。
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モニター。
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昨日の収録データが流れている。
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テスト用の映像。
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音付き。
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「これ、もう回ってるらしいですよ」
スタッフの声。
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「え?」
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別のスタッフ。
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「関係者に回しただけのやつが、別の現場に」
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神谷が顔を上げる。
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「なんで」
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「わかんないです」
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再生。
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神谷の声。
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綺麗。
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ちゃんと届く。
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白瀬の一言。
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「……来たのか」
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空気が変わる。
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ざわつく。
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今度は、収録じゃない場所で。
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「この子、誰?」
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モニターの前。
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誰かが言う。
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名前じゃない。
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“この子”。
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神谷は何も言えない。
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「新人?」
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「いや、前からいるよな?」
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「でも、こんなだったっけ」
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評価がズレている。
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現場と外で。
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レオンが後ろで笑う。
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「ほら、始まった」
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神谷が見る。
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「何がですか」
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レオンは軽く言う。
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「人気ってさ、理由いらないから」
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黒崎がモニターを見ながら言う。
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「気づいたら“いい”ってなってるやつな」
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白瀬が入ってくる。
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遅れて。
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「おはようございます」
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普通に。
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誰もすぐ返さない。
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一拍遅れて、
「おはよう」と返る。
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白瀬は気づかない。
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いつも通り。
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「これ、昨日のやつですか?」
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モニターを見る。
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自分の声が流れている。
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「……なんか変じゃないですか」
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ぽつり。
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神谷が反応する。
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「どこが」
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白瀬は少し考える。
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「いや、なんか……普通っすね」
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沈黙。
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普通。
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一番、ズレている感想。
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レオンが笑う。
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「それ言えるの強いね」
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白瀬は首を傾げる。
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「そうですか?」
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神谷はモニターを見る。
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もう一度、再生。
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同じ音。
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でも、
さっきより遠い。
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気づく。
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評価が動き始めている。
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自分の外で。
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収録開始。
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白瀬が入る。
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「……来たのか」
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空気が整う。
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でも今回は、
それを“全員が知っている”。
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ディレクター。
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「……いいな、やっぱり」
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迷いがない。
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神谷は、息を吐く。
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中で負けて、
外でも広がる。
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逃げ場がない。
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でも。
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白瀬は変わらない。
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それだけが、
唯一の救いだった。




