大前提
スタジオ。
収録前。
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準備が、やけに早い。
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マイク位置。
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台本の並び。
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立ち位置。
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全部が整っている。
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「白瀬、ここで」
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スタッフが自然に言う。
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指差した場所。
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センター。
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白瀬は少しだけ止まる。
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「……ここですか?」
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「うん、その方がやりやすいから」
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理由はそれだけ。
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神谷は、そのやり取りを見ている。
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何も言わない。
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言えない。
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自分が主役のはずだった位置。
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でも今は、
誰もそこを疑っていない。
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「準備いい?」
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ディレクター。
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全員が頷く。
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白瀬も頷く。
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普通に。
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収録開始。
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神谷が入る。
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完璧。
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でも、
少しだけ“合わせに行っている”。
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白瀬が入る。
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「……来たのか」
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その一言で、
全体が“正しい位置”に収まる。
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ディレクターが言う。
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「いいね、そのまま」
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止めない。
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修正しない。
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流れが完成している。
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最初から。
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レオンが、小さく呟く。
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「もう決まってるね」
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黒崎が返す。
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「決めた覚えはないけどな」
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休憩。
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白瀬は台本を閉じる。
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「今日、やりやすいっすね」
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ぽつり。
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ディレクターが頷く。
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「流れがいい」
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それだけ。
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神谷は、少しだけ笑う。
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「……そりゃそうですよね」
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小さく。
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誰も拾わない。
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白瀬は水を飲む。
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いつも通り。
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レオンが神谷の横に来る。
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「慣れた?」
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神谷は答えない。
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少しして、
言う。
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「……前からこうでしたっけ」
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レオンは首を振る。
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「違うよ」
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一拍。
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「でも、今はこれが普通」
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神谷は、スタジオを見る。
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白瀬が中心にいる。
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誰も違和感を持っていない。
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それが一番の違和感だった。




