距離の理由
スタジオ裏。
休憩時間。
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白瀬は、自販機の前にいる。
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缶コーヒーを押す。
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いつも通りの動作。
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特別なことは何もない。
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少し離れたところ。
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神谷が立っている。
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見ている。
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でも、近づかない。
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「行けばいいのに」
レオンが隣で言う。
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軽く。
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神谷は答えない。
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白瀬は気づいていない。
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缶を開ける。
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普通の音。
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普通の動き。
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「別に変なことしてないですよね」
神谷が言う。
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レオンは少し笑う。
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「うん。何もしてない」
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「でも?」
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神谷。
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レオンは肩をすくめる。
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「何もしてないのに、中心になってる」
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神谷は眉をひそめる。
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「意味わかんないです」
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レオンは即答する。
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「俺もわかんない」
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黒崎が後ろから通る。
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白瀬を見る。
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一瞬だけ。
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そして言う。
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「こいつ、たぶん普通だよ」
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神谷が振り向く。
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黒崎は続ける。
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「普通なのに、周りが勝手にズレてる」
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沈黙。
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白瀬は缶コーヒーを飲んでいる。
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何も知らない。
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ただそこにいる。
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収録開始。
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神谷が入る。
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完璧。
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でも、
さっきより少しだけ軽い。
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白瀬が入る。
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「……来たのか」
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その瞬間。
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空気が変わる。
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でも“異常”じゃない。
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ただ、
自然に流れができる。
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神谷の声が、
そこに乗る。
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「カット」
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ディレクター。
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少し考えてから言う。
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「……今の、普通にいいな」
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“普通にいい”。
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それが一番重い。
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神谷は止まる。
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「俺、さっきと何が違ったんですか」
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ディレクターは少し黙る。
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そして言う。
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「白瀬がいる時のほうが、呼吸が合う」
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それだけ。
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理屈じゃない。
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でも結果は出ている。
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神谷は白瀬を見る。
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白瀬は、缶を捨てに行くところだった。
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何も気にしていない。
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レオンが小さく言う。
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「本人が一番普通なの、厄介だね」
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神谷は何も言えない。
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距離がある理由が、
どこにも見つからない。
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でも確かにある。
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それだけが事実だった。




