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距離の理由

スタジオ裏。


休憩時間。


――――


白瀬は、自販機の前にいる。


――――


缶コーヒーを押す。


――――


いつも通りの動作。


――――


特別なことは何もない。


――――


――――


少し離れたところ。


――――


神谷が立っている。


――――


見ている。


――――


でも、近づかない。


――――


――――


「行けばいいのに」


レオンが隣で言う。


――――


軽く。


――――


――――


神谷は答えない。


――――


――――


白瀬は気づいていない。


――――


缶を開ける。


――――


普通の音。


――――


普通の動き。


――――


――――


「別に変なことしてないですよね」


神谷が言う。


――――


――――


レオンは少し笑う。


――――


「うん。何もしてない」


――――


――――


「でも?」


――――


神谷。


――――


――――


レオンは肩をすくめる。


――――


「何もしてないのに、中心になってる」


――――


――――


神谷は眉をひそめる。


――――


「意味わかんないです」


――――


――――


レオンは即答する。


――――


「俺もわかんない」


――――


――――


黒崎が後ろから通る。


――――


白瀬を見る。


――――


一瞬だけ。


――――


そして言う。


――――


「こいつ、たぶん普通だよ」


――――


――――


神谷が振り向く。


――――


――――


黒崎は続ける。


――――


「普通なのに、周りが勝手にズレてる」


――――


――――


沈黙。


――――


――――


白瀬は缶コーヒーを飲んでいる。


――――


何も知らない。


――――


ただそこにいる。


――――


――――


――――


収録開始。


――――


――――


神谷が入る。


――――


完璧。


――――


でも、


さっきより少しだけ軽い。


――――


――――


白瀬が入る。


――――


「……来たのか」


――――


――――


その瞬間。


――――


空気が変わる。


――――


でも“異常”じゃない。


――――


――――


ただ、


自然に流れができる。


――――


――――


神谷の声が、


そこに乗る。


――――


――――


「カット」


――――


ディレクター。


――――


少し考えてから言う。


――――


「……今の、普通にいいな」


――――


――――


“普通にいい”。


――――


それが一番重い。


――――


――――


神谷は止まる。


――――


――――


「俺、さっきと何が違ったんですか」


――――


――――


ディレクターは少し黙る。


――――


そして言う。


――――


「白瀬がいる時のほうが、呼吸が合う」


――――


――――


それだけ。


――――


――――


理屈じゃない。


――――


でも結果は出ている。


――――


――――


神谷は白瀬を見る。


――――


――――


白瀬は、缶を捨てに行くところだった。


――――


――――


何も気にしていない。


――――


――――


レオンが小さく言う。


――――


「本人が一番普通なの、厄介だね」


――――


――――


神谷は何も言えない。


――――


――――


距離がある理由が、


どこにも見つからない。


――――


――――


でも確かにある。


――――


――――


それだけが事実だった。

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