切るか、残すか
会議室。
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空気が重い。
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机の上に資料。
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白瀬の収録データ。
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何度も再生された形跡。
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「で、結論なんだけど」
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ディレクターの声。
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静か。
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でも逃げ道はない。
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「白瀬をどうするか」
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沈黙。
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神谷は、下を向いている。
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レオンは、壁にもたれている。
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黒崎は、何も言わない。
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白瀬は、呼ばれていない。
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でも、そこにいる前提で話が進んでいる。
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「外すと、安定する」
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誰かが言う。
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「でも弱くなる」
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すぐに返る。
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「入れると?」
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「崩れる」
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また沈黙。
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選択肢が、どちらも正しくない。
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神谷が、口を開く。
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「俺は」
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一拍。
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「正しい方がいいと思う」
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静か。
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でも、その言葉は軽い。
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自分でもわかっている。
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“正しさ”では決められないことを。
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レオンが、初めて口を開く。
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「どっちでもいいよ」
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一同が見る。
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レオンは続ける。
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「でも、もう一つある」
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「“残ってしまう”って選択」
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空気が止まる。
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「作品が勝手に選んでる」
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「それを切るか、受け入れるか」
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白瀬の名前は出ていない。
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でも、全員がわかっている。
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「……責任取れないよ」
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誰かが言う。
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「制御できない」
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黒崎が、初めて口を開く。
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「制御できるものだけで作るなら」
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一拍。
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「つまらないよ」
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静か。
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でも鋭い。
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神谷は、拳を握る。
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「でも、壊れるのは困る」
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正しい。
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全部正しい。
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だから決められない。
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そのとき。
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扉が開く。
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白瀬。
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呼ばれていないのに。
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「……すみません」
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短い。
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全員が見る。
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ディレクターが眉をひそめる。
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「今は会議中だ」
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白瀬は止まらない。
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「外すなら、それでいいです」
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静か。
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「別に困んないです」
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淡々と。
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その言葉で、
空気が一瞬変わる。
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困らない。
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それが一番重い。
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レオンが、少しだけ目を細める。
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神谷は、視線を落とす。
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黒崎は、笑わない。
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ディレクターが言う。
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「……逆に聞くけど」
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「お前がいなくなっても、作品は成立すると思うか?」
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白瀬は、少しだけ考える。
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そして言う。
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「わかんねえです」
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沈黙。
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「でも」
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一拍。
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「今は、俺がいると変わるんですよね」
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それだけ。
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事実。
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ディレクターは、目を閉じる。
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長い沈黙。
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そして言う。
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「……保留」
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それが結論。
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決めないという決定。
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会議は終わる。
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誰も動かない。
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白瀬は、外に出る。
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廊下。
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静か。
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レオンが後ろから来る。
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「よかったね」
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軽く。
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白瀬は、少しだけ首を傾げる。
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「どこがですか」
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レオンは笑う。
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「“残っていい側”になった」
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白瀬は、少しだけ黙る。
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そして言う。
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「めんどくさいですね」
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レオンは即答する。
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「だね」
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廊下の奥。
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神谷が立っている。
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何も言わない。
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でも顔だけが、
少しだけ崩れている。
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白瀬は気づかない。
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でも、
空気だけが変わっている。
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“切れなかった存在”。
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それが、
確定する。




