崩れ始める現場
スタジオ。
収録中。
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空気が、ぎこちない。
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誰も声を出す前に、
一瞬だけ止まる。
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その“間”が増えている。
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「カット」
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ディレクターの声。
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少しだけ苛立ちが混ざる。
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「今の、遅い」
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「テンポが死んでる」
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神谷は、黙っている。
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白瀬は、ブースの外。
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何もしていない。
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でも——
原因はそこだと、誰もがわかっている。
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「もう一回」
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短く。
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再開。
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神谷は、合わせる。
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完璧に。
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でも——
“流れ”が生まれない。
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白瀬が入る。
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一言。
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「……来たのか」
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その瞬間。
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空気が変わる。
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良くなる。
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でも同時に、
崩れる。
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「……まただ」
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スタッフの小さな声。
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「白瀬入ると一気に変わるけど」
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「安定しない」
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ディレクターは、顔をしかめる。
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「作品としては危ない」
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神谷は、拳を握る。
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「俺が崩してるわけじゃない」
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小さく。
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でも、
誰にも届かない。
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白瀬は、何も言わない。
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ただ、
そこにいる。
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それだけ。
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「カット」
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また止まる。
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今度は、
少し長い沈黙。
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「このままだと厳しいな」
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誰かが言う。
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「白瀬の比重が高すぎる」
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「主役を食ってる」
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その言葉に、
白瀬は少しだけ目を伏せる。
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レオンが、廊下で見ている。
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動かない。
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でも、
楽しそうでもない。
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ただ、
観察している。
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「壊れ始めたね」
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小さく呟く。
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白瀬は、気づく。
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自分がいると、
作品が揺れる。
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良くも悪くも。
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それは、
もう避けられない。
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「……」
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白瀬は、息を吐く。
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少しだけ、
重い。
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“中心”は、
安定じゃない。
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揺れそのものだ。




