中心の自覚
スタジオ。
収録は終わっている。
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機材のランプだけが点いている。
空気だけが残っている。
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白瀬は、ブースの外に立っている。
誰かと話しているわけでもない。
ただ、そこにいる。
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誰もすぐには帰らない。
帰れない、ではなく。
帰る理由が少しだけ曖昧になっている。
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「……今日のテイク」
スタッフの誰かが言いかけて、止める。
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言葉が見つからない。
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“良かった”ではない。
“悪い”でもない。
“問題なし”でもない。
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どれでもない。
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白瀬は壁にもたれている。
自分の中に、引っかかりだけが残っている。
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(何かが違った)
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でも、それを説明できない。
自分の中にあるのに、自分の言葉にできない。
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足音。
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レオン。
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いつもの距離で止まる。
近づきすぎない。
遠すぎない。
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「見てたよ」
軽く言う。
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白瀬は少しだけ頷く。
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「どうでしたか」
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レオンはすぐには答えない。
視線を一度だけ落としてから言う。
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「中心だった」
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白瀬は、眉をわずかに動かす。
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「……主役じゃなくて?」
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レオンは即答する。
「違う」
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一拍。
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「主役は、与えられるもの」
「中心は、勝手にできるもの」
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沈黙。
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白瀬はその言葉を反芻する。
勝手にできるもの。
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「……それ、いいことなんですか」
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正直な疑問。
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レオンは肩をすくめる。
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「知らない」
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即答。
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「でも、もうそうなってる」
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白瀬は目を伏せる。
怖さが少しだけ遅れて来る。
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(自分が?)
(何をした?)
(何もしてないのに?)
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廊下の奥。
神谷が立っている。
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見ている。
白瀬を。
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でも、動かない。
近づかない。
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いや、近づけない。
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白瀬はその視線に気づく。
けれど振り返らない。
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「気づいてる?」
レオンが言う。
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白瀬は小さく頷く。
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「……はい」
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レオンは少しだけ笑う。
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「もう戻れないね」
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その言葉は、説明じゃない。
宣告でもない。
ただの確認。
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白瀬は黙る。
否定できない。
肯定もできない。
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ただ、“わかってしまっている”。
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■遠くの声
「次の構成どうする?」
「白瀬、入れた方がいい」
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制作側が、自然に言っている。
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“判断”ではなく。
“前提”として。
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白瀬はそれを聞いてしまう。
自分の意思とは関係なく。
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立ち上がる。
歩き出す。
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誰かの中心ではない。
でも、どこにいても中心になる。
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それを、
まだ完全には理解していないまま。
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ただ一つだけ分かっている。
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「自分がいると、何かが変わる」
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それだけ。
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そして、
その“変化”はもう止まらない。




