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正しさが壊れる瞬間

スタジオ。


リハーサル。


――――


神谷は、立っている。


――――


いつも通り。


――――


呼吸。


台本。


間。


全部、正しい。


――――


なのに。


――――


さっきから、


どこかズレている。


――――


「はい、続けて」


――――


ディレクターの声。


――――


神谷は、うなずく。


――――


始める。


――――


台詞は完璧。


――――


流れもいい。


――――


問題はない。


――――


なのに——


――――


“軽い”。


――――


何かが、


足りない。


――――


――――


「カット」


――――


静かな声。


――――


ディレクターは、モニターを見たまま言う。


――――


「悪くない」


――――


いつもの評価。


――――


でも——


続く言葉が違う。


――――


「でも、残らない」


――――


――――


神谷の呼吸が止まる。


――――


残らない。


――――


それは、


今まで自分にはなかった言葉。


――――


「もう一回」


――――


短い。


――――


神谷は、うなずく。


――――


でも——


一瞬だけ、


迷う。


――――


――――


廊下。


――――


白瀬が見ている。


――――


遠くから。


――――


何も言わない。


――――


ただ、


立っている。


――――


――――


神谷は気づく。


――――


あいつがいると、


空気が変わる。


――――


集中でもない。


緊張でもない。


――――


“流れ”。


――――


――――


再開。


――――


神谷は、少しだけ変える。


――――


間を削る。


――――


音を整える。


――――


より正しく。


――――


より美しく。


――――


――――


「カット」


――――


沈黙。


――――


ディレクターは、少しだけ目を閉じる。


――――


「……違う」


――――


小さく。


――――


「さっきより“正しい”のに」


――――


――――


神谷の手が止まる。


――――


正しいのに、違う。


――――


意味がわからない。


――――


――――


「一回、白瀬入れて」


――――


その一言。


――――


神谷は、振り返る。


――――


白瀬が、呼ばれる。


――――


また。


――――


まただ。


――――


――――


白瀬は、ブースに入る。


――――


立つ。


――――


準備しない。


――――


作らない。


――――


ただ——


いる。


――――


「……来たのか」


――――


一言。


――――


その瞬間。


――――


空気が変わる。


――――


神谷は気づく。


――――


“自分の正しさ”が、


動いている。


――――


勝手に。


――――


――――


セリフが進む。


――――


でも、


神谷の声が、


さっきより遅れる。


――――


合わせようとする。


――――


でも——


追いつかない。


――――


――――


白瀬は、


何もしていない。


――――


ただいるだけ。


――――


なのに。


――――


――――


「カット」


――――


ディレクターは、静かに言う。


――――


「今の方がいい」


――――


――――


神谷は、固まる。


――――


「……どこが」


――――


思わず出る。


――――


ディレクターは、少しだけ考えて言う。


――――


「生きてる」


――――


――――


その一言。


――――


神谷の中で、


何かが切れる。


――――


正しさが、


揺れる。


――――


――――


白瀬は、何も言わない。


――――


ただ、そこにいる。


――――


それだけ。


――――


――――


神谷は、気づく。


――――


自分は、


勝っているのに。


――――


負けている。


――――


――――


「……」


――――


拳を握る。


――――


でも、


何もできない。


――――


――――


正しさが、


初めて、


壊れ始める。


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