残るもの
スタジオ。
ブースの中。
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静か。
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白瀬は、マイクの前に立っている。
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さっきのテイク。
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「What was that?」
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ディレクターの声。
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まだ、残っている。
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評価じゃない。
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観測。
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白瀬は、何も言わない。
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わからない。
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でも——
怖くはない。
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「もう一回」
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短い。
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白瀬は、頷く。
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ブースに戻る。
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マイクの前。
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目を閉じる。
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深く息を吸う。
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吐く。
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壊した。
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全部。
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正しさも。
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ズレも。
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選び方も。
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でも——
消えなかった。
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何かが。
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「……」
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浮かぶ。
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レオンの言葉。
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『消えたくないって思ったもの』
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黒崎の声。
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『消えねえだけだろ』
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違う。
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どっちでもない。
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「……来たのか」
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声。
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でも今回は、
作っていない。
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出てきた。
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自然に。
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沈黙。
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空気が、変わる。
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ディレクターが、少しだけ身を乗り出す。
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「……」
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何も言わない。
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でも——
見ている。
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レオンが、奥で立っている。
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腕を組んでいる。
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動かない。
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でも目が、変わっている。
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白瀬は、気づかない。
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ただ、
続ける。
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もう一度。
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今度は、
少し違う。
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“残す”ことを、
意識していない。
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でも——
残る。
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沈黙。
――――
長い。
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そして——
ディレクター。
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「…That’s it」
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小さく。
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でも、はっきり。
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「That’s what we were missing」
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白瀬は、息を吐く。
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わからない。
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でも——
届いた。
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確かに。
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外。
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廊下。
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レオンがいる。
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白瀬は、近づく。
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「……何が違うんですか」
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聞く。
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レオンは、少しだけ笑う。
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「全部捨てたからだよ」
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即答。
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「でもね」
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一拍。
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「まだ作ってない」
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白瀬は、少しだけ目を細める。
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「作ってない?」
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レオンは頷く。
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「うん」
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「“出たもの”だけ」
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――――
沈黙。
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白瀬は、少しだけ息を吐く。
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「……それって」
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言いかける。
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でも止まる。
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レオンが続ける。
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「怖いでしょ」
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軽く。
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でも、
核心。
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白瀬は、少しだけ笑う。
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「……はい」
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正直。
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レオンも笑う。
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「でも」
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一歩近づく。
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「一番残る」
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白瀬は、黙る。
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わかる。
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理解じゃない。
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感覚。
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黒崎の言葉でもない。
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レオンの理屈でもない。
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“自分の奥から出たもの”。
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それだけ。
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――――
「……」
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白瀬は、空を見る。
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少しだけ、
遠い。
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でも——
前より、
怖くない。
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「……めんどくさいな」
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小さく笑う。
――――
レオンも笑う。
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「うん」
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少しだけ、
静かになる。
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でも——
確かに、
進んでいる。




