壊し方
スタジオ。
ブースの外。
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誰もいない。
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白瀬は、台本を持っている。
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開いている。
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でも、
見ていない。
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「壊す」
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レオンの言葉。
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それが、
残っている。
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壊すって、
なんだ。
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ズラすことじゃない。
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選ぶことでもない。
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じゃあ——
何を?
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「……」
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白瀬は、目を閉じる。
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思い返す。
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今まで。
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ズラしてきた。
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残してきた。
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選んだ。
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でも——
全部、
“守っていた”。
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何かを。
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崩さないように。
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「……」
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気づく。
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怖かった。
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壊すことが。
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失うことが。
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足音。
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レオン。
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いつもの距離。
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「考えてる顔」
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軽い。
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でも、
見抜いている。
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白瀬は、顔を上げる。
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「……壊すって、何ですか」
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静かに聞く。
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レオンは、少しだけ笑う。
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「全部だよ」
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即答。
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「正しさも」
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一歩。
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「ズレも」
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もう一歩。
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「選ぶことも」
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距離が近い。
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「一回、全部捨てる」
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白瀬は、息を止める。
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「……それ、意味あるんですか」
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レオンは、少しだけ首を傾ける。
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「あるよ」
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即答。
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「残るものだけが、見える」
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沈黙。
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白瀬は、少しだけ目を細める。
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「……残るって、なんですか」
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レオンは、少しだけ笑う。
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「君が怖いと思うもの」
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一瞬。
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意味が、遅れる。
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「消えたくないって思ったもの」
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続ける。
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「それが残る」
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白瀬は、何も言えない。
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今までと違う。
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理屈じゃない。
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感覚。
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「……」
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レオンは、少しだけ後ろに下がる。
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距離を戻す。
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でも——
言葉は残したまま。
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「次のテイク」
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軽く指す。
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「全部捨ててやってみな」
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白瀬は、ゆっくり息を吐く。
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「……怖いですね」
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小さく言う。
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レオンは、笑う。
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「うん」
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即答。
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「だからいい」
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ブースの前。
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名前が呼ばれる。
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「白瀬」
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白瀬は、立つ。
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歩く。
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マイクの前。
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台本を見る。
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でも——
一度、閉じる。
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深く息を吸う。
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吐く。
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「……」
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全部、
一回捨てる。
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正しさも。
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ズレも。
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選び方も。
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残るかどうか、
知らない。
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でも——
今は。
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「……来たのか」
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声。
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今までより、
少しだけ違う。
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理由はない。
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作っていない。
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ただ、
出た。
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沈黙。
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長い。
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そして——
ディレクター。
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「……」
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息を吐く。
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「What was that?」
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白瀬は、何も言わない。
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わからない。
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でも——
少しだけ、
怖くない。
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レオンが、遠くで笑う。
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「それ」
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小さく。
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「それだよ」




