番外編1 正しい声
夜。
静か。
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再生。
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例の作品。
最終話。
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神谷は、一人で見ている。
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自分の声。
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問題ない。
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正確。
安定。
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“主役”。
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物語を支えている。
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視線は、動かない。
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でも——
来る。
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白瀬の声。
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短い。
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それだけ。
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なのに、
止まる。
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神谷の指が、
わずかに止まる。
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巻き戻す。
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もう一回。
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同じ。
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また、止まる。
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「……なんだよ」
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小さく呟く。
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わかっている。
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上手くはない。
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少なくとも、
“正しく”はない。
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でも——
残る。
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消えない。
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「……」
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再生を止める。
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天井を見る。
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思い出す。
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オーディション。
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あのときの声。
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自分の声。
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完璧だった。
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間違ってない。
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でも——
選ばれなかった。
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理由は、わかっている。
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認めたくないだけだ。
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「……ズラしてるだけだろ」
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吐き捨てる。
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でも、
軽くない。
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“だけ”で済まない。
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ズレているのに、
成立している。
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そこが、
厄介。
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「……」
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スマホを取る。
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検索。
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白瀬。
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名前。
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出てくる。
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記事。
評価。
賛否。
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全部、読まない。
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必要ない。
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もう、
知っている。
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「……ムカつくな」
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正直に、呟く。
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でも——
続かない。
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否定が、
続かない。
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「……」
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目を閉じる。
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自分の声を思い出す。
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正しい。
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でも、
“残るか”と言われると、
少しだけ、
間ができる。
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「……」
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初めて。
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迷う。
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正しさに。
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「……ふざけんなよ」
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小さく笑う。
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でも——
逃げない。
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「……もう一回やるか」
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立ち上がる。
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台本を取る。
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開く。
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読む。
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声に出す。
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いつも通り。
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でも——
止まる。
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ほんの一瞬。
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考える。
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“ズラすか”。
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「……いや」
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首を振る。
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「違うな」
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静かに言う。
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ズラすんじゃない。
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“深くする”。
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正しさを、
もう一段。
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逃げない。
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変えない。
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でも、
上げる。
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「……やってやるよ」
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低く、呟く。
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白瀬に向けてじゃない。
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自分に。
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再生。
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もう一度、
あの声。
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止まる。
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でも、
今度は違う。
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「……次は」
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小さく言う。
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「止めさせねえ」




