主役の隣
同じ現場。
同じブース。
――――
でも、
前とは違う。
――――
空気が、
張っている。
――――
「いきます」
ディレクター。
――――
短い。
――――
収録が始まる。
――――
神谷の声。
――――
強い。
正確。
――――
迷いがない。
――――
完成されている。
――――
“主役”。
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空気を、引っ張る。
――――
「次、白瀬」
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呼ばれる。
――――
静かに入る。
――――
マイクの前。
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息を吸う。
吐く。
――――
「……了解」
――――
ズラす。
――――
ほんの少し。
――――
空気が、
引っかかる。
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神谷の流れに、
“傷”を入れる。
――――
でも——
壊さない。
――――
残す。
――――
「カット」
――――
沈黙。
――――
長い。
――――
「……いい」
ディレクター。
――――
今度は、
迷いがない。
――――
「そのままいこう」
――――
収録が進む。
――――
掛け合い。
――――
神谷。
押す。
――――
白瀬。
引く。
――――
神谷。
整える。
――――
白瀬。
ズラす。
――――
ぶつかる。
――――
でも——
崩れない。
――――
むしろ、
深くなる。
――――
「……もう一回」
ディレクター。
――――
今度は、
笑っている。
――――
「今の、もう一段いける」
――――
やり直す。
――――
神谷が、
少しだけ変える。
――――
白瀬に合わせる。
――――
でも、
崩さない。
――――
“主役のまま”。
――――
白瀬も、
変えない。
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“ズラしたまま”。
――――
――――
成立する。
――――
初めて。
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「……OK!」
ディレクター。
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はっきり。
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強く。
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現場の空気が、
一気に抜ける。
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「今の、やばいな」
スタッフ。
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「普通に良かった」
別の声。
――――
否定が、出ない。
――――
でも——
全員がわかっている。
――――
これは、
普通じゃない。
――――
収録が終わる。
――――
白瀬は、外に出る。
――――
神谷がいる。
――――
少しだけ、間。
――――
「……やりやすかった」
神谷。
――――
短い。
――――
でも——
重い。
――――
白瀬は、少しだけ頷く。
――――
「……どうも」
――――
それだけ。
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神谷は、少しだけ笑う。
――――
「ムカつくけどな」
――――
正直。
――――
でも、
嫌いじゃない。
――――
白瀬は、何も言わない。
――――
ただ、
少しだけ、
息を吐く。
――――
外。
――――
夕方。
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空が、少しだけ赤い。
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スマホが震える。
――――
黒崎。
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『見たぞ』
――――
短い。
――――
『並んだな』
――――
――――
白瀬は、空を見る。
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「……そうですか」
――――
静かに返す。
――――
『どっちが上とかじゃねえな、あれ』
――――
少しだけ、間。
――――
『違うだけだ』
――――
通話が切れる。
――――
一人。
――――
主役の隣。
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立っている。
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奪ってない。
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でも、
消えてもいない。
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その位置に、
確かにいる。
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「……まあ」
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小さく呟く。
――――
「悪くない」
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ほんの少しだけ、
笑う。
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