主役じゃないまま、主役になる
放送日。
例の回。
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夜。
部屋は静か。
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再生。
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映像が流れる。
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神谷の声。
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強い。
迷いがない。
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“主役”。
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物語を引っ張る。
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画面が動く。
ストーリーが進む。
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正しい。
完璧。
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でも——
そこに、
入る。
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白瀬の声。
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短い。
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ほんの一言。
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それだけ。
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なのに——
止まる。
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視線が、
耳が、
ほんの一瞬、
そっちに持っていかれる。
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戻る。
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でも、
残る。
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物語は進んでいるのに、
感情だけが、
少し遅れる。
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引っかかる。
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その違和感が、
消えない。
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シーンが終わる。
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でも、
余韻が残る。
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主役の台詞より、
長く。
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翌日。
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反応。
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「今回、神回じゃない?」
「なんか、空気やばかった」
「演技すごかった」
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全体が、褒められる。
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でも——
その中に、
混ざる。
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「あの脇の人、誰?」
「白瀬ってやつ?」
「名前、初めてちゃんと見た」
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主役の話の中に、
自然に入ってくる。
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切り離されない。
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一部になる。
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でも、
中心でもある。
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矛盾。
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でも——
成立している。
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現場。
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空気が違う。
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軽い。
でも、
浅くない。
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「見た?」
「昨日の」
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名前が出る。
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普通に。
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「白瀬さ」
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誰も否定しない。
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「やっぱ、あれだな」
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言葉を探す。
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でも——
出ない。
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説明できない。
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でも、
全員がわかっている。
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“必要”。
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「次、白瀬」
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呼ばれる。
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今度は、
違う。
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ただの脇じゃない。
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期待がある。
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でも——
重くない。
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自然に、
そこにある。
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ブースに入る。
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マイクの前。
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息を吸う。
吐く。
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「……了解」
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ズラす。
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変わらない。
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でも——
変わった。
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周りが。
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受け取る側が。
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「カット」
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沈黙。
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でも、
今回は短い。
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「……いい」
ディレクター。
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即答。
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迷いがない。
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「それでいこう」
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誰も異論を言わない。
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当たり前みたいに、
通る。
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外。
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白瀬は歩く。
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変わらない。
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でも——
変わった。
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主役じゃない。
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でも、
中心にいる。
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奪ってない。
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でも、
消えてない。
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その状態が、
成立している。
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スマホが震える。
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黒崎。
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『やったな』
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短い。
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白瀬は、少しだけ空を見る。
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「……別に」
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静かに言う。
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「いつも通りです」
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黒崎が笑う。
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『それがやばいんだよ』
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通話が切れる。
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一人。
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主役じゃない。
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でも——
主役だった。
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一瞬だけ、
確かに。
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「……まあ」
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小さく呟く。
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「悪くない」




