否定できない敵
大きい現場。
空気が違う。
張り詰めている。
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名前。
実績。
数字。
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全部が揃っている場所。
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「今回のゲスト、白瀬です」
紹介される。
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一瞬。
静かになる。
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知っている。
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でも——
歓迎ではない。
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視線が集まる。
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測るような目。
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その中に、一人。
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「……へえ」
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低い声。
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視線が合う。
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相手は逸らさない。
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名前。
神谷。
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主役。
売れている。
結果を出している。
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“正解側”。
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「よろしくお願いします」
白瀬は、頭を下げる。
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神谷は、少しだけ笑う。
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「噂は聞いてる」
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短い。
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でも——
軽くない。
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「……どうも」
白瀬は、それだけ。
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それ以上、何も言わない。
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収録が始まる。
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神谷の声。
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強い。
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揺れない。
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完成されている。
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誰もが納得する。
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「……」
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白瀬は、聞く。
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否定できない。
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“正しい”。
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「次、白瀬」
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呼ばれる。
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ブースに入る。
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マイクの前。
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息を吸う。
吐く。
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「……了解」
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ズラす。
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いつも通り。
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「カット」
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一瞬。
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神谷が、目を細める。
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何も言わない。
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でも——
見ている。
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収録が進む。
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神谷のシーン。
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完璧。
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でも——
ほんの少しだけ、
止まる。
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「……もう一回」
神谷。
自分で言う。
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やり直す。
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今度は、
さらに正確。
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でも——
また止まる。
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「……」
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神谷が、黙る。
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初めて。
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迷う。
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ディレクターが、言う。
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「さっきの白瀬の後、少し間取ってみて」
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神谷が、頷く。
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やり直す。
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今度は——
流れる。
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完璧なまま、
“残る”。
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「……いいね」
ディレクター。
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神谷は、何も言わない。
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でも、
理解している。
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収録が終わる。
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「白瀬」
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呼ばれる。
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神谷。
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二人きり。
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少しだけ、間。
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「……お前さ」
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まっすぐ来る。
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「ズラしてるよな」
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否定でも、肯定でもない。
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確認。
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「……はい」
白瀬は、隠さない。
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神谷は、少しだけ笑う。
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「やりにくい」
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はっきり言う。
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でも——
続く。
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「でも」
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少しだけ、間。
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「無視できない」
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白瀬は、何も言わない。
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神谷は、視線を外す。
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「俺はさ」
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静かに言う。
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「作品を壊したくない」
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正しい。
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誰も否定できない。
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「お前のは」
少しだけ、強くなる。
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「壊れる可能性がある」
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事実。
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「でも」
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止まる。
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「ハマると、強い」
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認める。
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完全じゃない。
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でも、
否定もしない。
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「……選ぶなよ、簡単に」
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それだけ言って、
去る。
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一人、残る。
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静かな廊下。
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白瀬は、少しだけ考える。
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正しい。
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全部。
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神谷の言葉も。
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自分のやり方も。
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どっちも、
間違っていない。
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「……めんどくさいな」
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小さく笑う。
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でも——
足は止まらない。
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敵ができた。
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でも、
嫌いじゃない。
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否定できない相手。
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だからこそ、
進める。




