表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/54

選ぶ側

机の上。


スマホが、震え続けている。


――――


通知。


未読。


着信履歴。


――――


止まらない。


――――


マネージャーが、ため息をつく。


「……全部、オファー」


少しだけ笑う。


疲れているのに、


どこか嬉しそうだ。


――――


「どうする」


真面目な声に戻る。


――――


白瀬は、画面を見る。


――――


作品名。


制作会社。


役名。


――――


増えている。


――――


「……多いですね」


――――


「そりゃな」


マネージャー。


即答。


――――


「今、一番“気になる声”だからな」


――――


白瀬は、何も言わない。


――――


ただ、指を止める。


――――


一つの台本。


――――


ページを開く。


――――


読む。


――――


静かに。


――――


数秒。


――――


閉じる。


――――


「……これ」


――――


一つ、指で示す。


――――


「受けます」


――――


マネージャーが、眉を上げる。


――――


「それ?」


――――


有名じゃない。


予算も大きくない。


――――


他に、もっといい条件はある。


――――


「理由、聞いていいか」


――――


白瀬は、少しだけ考える。


――――


「……余白、あるんで」


――――


それだけ。


――――


マネージャーは、少し黙る。


――――


そして、


小さく笑う。


――――


「ほんと、変わんねえな」


――――


――――


現場。


新しい作品。


――――


規模は小さい。


人も少ない。


――――


でも——


空気が、柔らかい。


――――


「今回、参加する白瀬です」


軽く頭を下げる。


――――


ざわつく。


――――


知っている顔。


知らない顔。


――――


でも、


全員が知っている。


――――


“あの声”。


――――


「よろしくお願いします」


声が返る。


――――


でも、


少しだけ違う。


――――


前より、


重い。


――――


期待が、


混ざっている。


――――


収録が始まる。


――――


主役の声。


まだ若い。


――――


上手い。


でも、


固い。


――――


「……」


――――


止まる。


――――


流れが、


少しだけ詰まる。


――――


「……カット」


ディレクター。


少しだけ困っている。


――――


「もう一回いこう」


――――


やり直す。


――――


でも、


同じ。


――――


固い。


――――


「……」


――――


空気が、


詰まる。


――――


そのとき。


――――


「……すみません」


――――


白瀬。


――――


全員の視線が向く。


――――


初めて。


――――


白瀬が、


“止める”。


――――


「一回だけ」


短く言う。


――――


「少し、間変えてもいいですか」


――――


ディレクターが、少し驚く。


――――


でも、


頷く。


――――


「……いいよ」


――――


やり直す。


――――


主役。


――――


白瀬の後に、入る。


――――


その一瞬。


――――


白瀬が、


“置く”。


――――


ほんの少し、


遅らせる。


――――


空気が、


開く。


――――


主役が、


入る。


――――


今度は——


流れる。


――――


自然に。


――――


「……カット」


――――


沈黙。


――――


ディレクターが、


小さく頷く。


――――


「……それだ」


――――


主役が、


少しだけ息を吐く。


――――


「……やりやすいです」


――――


素直な声。


――――


白瀬は、何も言わない。


――――


ただ、戻る。


――――


“選んだ”。


――――


作品を。


――――


そして、


空気も。


――――


――――


帰り道。


――――


マネージャーが隣にいる。


――――


「さっきのさ」


――――


少しだけ笑う。


――――


「完全に、選ぶ側だったな」


――――


白瀬は、少しだけ空を見る。


――――


「……別に」


――――


静かに言う。


――――


「いつも通りです」


――――


マネージャーは、肩をすくめる。


――――


「それが、変わったんだよ」


――――


――――


白瀬は、何も言わない。


――――


でも——


わかっている。


――――


選ばれるだけじゃない。


――――


“選んでいる”。


――――


その事実が、


静かに、


形になっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ