嫌われる才能
現場。
少し空気が違う。
静かじゃない。
でも、
落ち着いてもいない。
ざわつきが、
奥にある。
――――
「最近さ」
小さな声。
スタッフ同士。
「なんかいるよな」
名前は出ない。
でも、
指している。
――――
「白瀬ってやつ」
別の声。
今度は、はっきり。
「……ああ」
短い返事。
認識は、されている。
――――
「正直、どう思う?」
少しだけ、間。
――――
「……わかんない」
曖昧。
でも、続く。
「なんか、邪魔じゃない?」
――――
否定。
はっきりとした。
――――
「邪魔っていうかさ」
言葉を探す。
「流れ、ズレるじゃん」
――――
正しい指摘。
否定できない。
――――
「作品としてはさ」
少し強くなる。
「安定してる方がいいだろ」
――――
正論。
誰も反論しない。
――――
「でも」
別の声。
小さい。
――――
「なんか、残るんだよな」
――――
沈黙。
短い。
でも、
割れる。
――――
「それ、作品に必要?」
最初の声。
少しだけ、鋭い。
――――
「……どうだろ」
答えは出ない。
――――
結論は出ないまま、
話は終わる。
――――
「次、白瀬」
呼ばれる。
――――
ブースに入る。
マイクの前。
空気が、
少しだけ違う。
さっきの会話。
聞こえていた。
全部。
――――
でも——
関係ない。
――――
息を吸う。
吐く。
――――
「……了解」
短い。
それだけ。
――――
ほんの少し、
“ズラす”。
――――
わざとじゃない。
でも、
やめない。
――――
「カット」
すぐ。
――――
「……今のさ」
ディレクター。
珍しく、止める。
――――
「ちょっと……浮くな」
――――
初めての、明確な否定。
――――
「もう一回いこう」
――――
やり直し。
――――
「……了解」
今度は、
少しだけ抑える。
揺れを、小さくする。
――――
「カット」
――――
「……うん」
ディレクターが頷く。
――――
「さっきよりいい」
――――
でも——
続く。
――――
「でも、さっきのも……」
止まる。
言葉を探す。
――――
「……残るな」
――――
評価が、
割れる。
――――
収録は進む。
誰も何も言わない。
でも、
空気が、変わっている。
――――
終わる。
「お疲れ様でした」
――――
帰ろうとする。
そのとき。
「白瀬」
呼ばれる。
振り返る。
スタッフ。
さっき話していた一人。
――――
「さっきのさ」
少しだけ、迷う。
――――
「正直に言うけど」
――――
まっすぐ来る。
――――
「俺は、あんま好きじゃない」
――――
否定。
はっきりと。
――――
でも、
逃げない。
――――
「作品としては」
続ける。
「安定してた方がいいと思う」
――――
正しい。
――――
白瀬は、少しだけ間を置く。
――――
「……そうですか」
短く返す。
――――
それだけ。
言い返さない。
――――
スタッフは、少し驚く。
でも、
それ以上は何も言わない。
――――
去っていく。
――――
外。
夜。
――――
空気が、冷たい。
――――
スマホが震える。
黒崎。
――――
『聞いたぞ』
――――
短い。
――――
『嫌われ始めてるな』
――――
白瀬は、少しだけ笑う。
――――
「……そうですね」
――――
『どうする?』
――――
少しだけ、間。
――――
「別に」
――――
空を見上げる。
――――
「消えなきゃ、いいんで」
――――
静かに言う。
――――
黒崎は、少し黙る。
――――
『……強いな』
――――
通話が切れる。
――――
一人。
静かな道。
――――
好かれる声。
嫌われる声。
――――
どっちも、
残るなら、
同じだ。
――――
「……なら」
――――
足を止めない。
――――
「このままでいい」
――――
答えは、
もう出ている。




