それでも選ばれる
会議室。
長机。
資料が並んでいる。
モニターには、
候補者の名前。
その中に、
白瀬。
――――
「今回の配役ですが」
プロデューサーの声。
淡々としている。
「メインは固まりました」
頷きがいくつか。
順当な名前。
誰も異論はない。
――――
「問題は、ここです」
一枚、資料がめくられる。
サブキャラ。
出番は多くない。
でも——
重要なポジション。
――――
「白瀬、上がってます」
――――
一瞬、空気が止まる。
――――
「……ああ」
誰かが小さく反応する。
――――
「最近、よく聞く」
別の声。
――――
「でも」
すぐに続く。
「賛否、分かれてるだろ」
――――
正しい。
誰も否定しない。
――――
「作品としては」
別の人間。
冷静に言う。
「安定取るなら、別の候補だ」
――――
資料にある名前。
実績もある。
安心できる。
――――
「……そうですね」
頷きが広がる。
――――
正しい流れ。
崩れる理由はない。
――――
「でも」
一人。
止める。
ディレクター。
――――
「一回、聞いてほしい」
――――
再生される。
音声。
――――
白瀬の声。
短い台詞。
それだけ。
――――
でも——
会議室の空気が、
わずかに、変わる。
――――
誰も何も言わない。
でも、
聞いている。
――――
再生が終わる。
沈黙。
――――
「……浮いてるな」
最初の声。
はっきり言う。
――――
「うん」
否定しない。
――――
「でも」
ディレクター。
少しだけ、前に出る。
――――
「残る」
――――
短い。
でも、
強い。
――――
「この作品さ」
続ける。
「綺麗すぎるんだよ」
――――
資料を指で叩く。
――――
「全部、正しい」
――――
少しだけ、間。
――――
「だから、引っかからない」
――――
誰も、否定しない。
――――
「白瀬は」
モニターを見る。
――――
「引っかかる」
――――
沈黙。
――――
「それ、必要?」
最初の声。
もう一度。
――――
ディレクターは、迷わない。
――――
「必要」
――――
短い。
決める声。
――――
「じゃあ」
プロデューサー。
少しだけ考える。
――――
「リスクは?」
――――
「ある」
即答。
――――
「でも」
続ける。
――――
「残る」
――――
同じ言葉。
でも、
今度は重い。
――――
沈黙。
――――
数秒。
――――
「……いいだろう」
プロデューサー。
小さく頷く。
――――
「その代わり」
視線が上がる。
――――
「ハマらなかったら、切る」
――――
条件。
厳しい。
――――
「それでいいです」
ディレクターは、即答。
――――
決まる。
――――
白瀬の名前が、
一つ、選ばれる。
――――
その頃。
外。
――――
白瀬は、歩いている。
いつも通り。
何も知らない。
――――
スマホが震える。
マネージャー。
――――
「はい」
――――
『決まった』
短い。
――――
白瀬は、少し止まる。
――――
「……何がですか」
――――
『仕事』
――――
少しだけ、間。
――――
『選ばれた』
――――
静かに、落ちる。
――――
白瀬は、空を見る。
――――
「……そうですか」
――――
それだけ。
――――
『嬉しくないのかよ』
少しだけ笑う声。
――――
「いや」
――――
少し考える。
――――
「……まだ、わからないです」
――――
正直な言葉。
――――
通話が切れる。
――――
一人。
――――
選ばれた。
――――
でも——
それは、
評価じゃない。
――――
“試されている”。
――――
「……まあ」
――――
歩き出す。
――――
「やることは、同じか」
――――
主役じゃない。
――――
でも、
選ばれた。
――――
その意味を、
まだ、誰も知らない。




