表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/54

主役じゃないやつ

10話更新しました!

ここから少し、空気変わります

数日後。


別の現場。


スタジオの匂いが、少し違う。


広い。


人も多い。


声はあるのに、


どこか、薄い。


「今日から参加の白瀬です。よろしくお願いします」


軽く頭を下げる。


「よろしく」


「お願いします」


それだけ。


ここでは、まだ何も始まっていない。


ただの新人。


それでいい。


台本を受け取る。


脇役。


出番は少ない。


名前も、残らないかもしれない。


ページをめくる。


静かだ。


何も起きない。


でも——


余白がある。


置ける。


ほんの少しでも、


残せる。


収録が始まる。


主役の声。


正確。


安定。


崩れない。


“正しい”。


白瀬は、聞く。


否定しない。


でも——


どこかで、止まる。


綺麗すぎる。


そう思ってしまう。


「次、白瀬」


呼ばれる。


ブースに入る。


マイクの前。


息を吸う。


吐く。


考えない。


でも、


捨てない。


感情も、


技術も、


そのまま。


混ぜない。


「……了解です」


短い。


それだけ。


でも——


ほんのわずか、


揺れを残す。


消さない。


整えない。


そのまま、置く。


「カット」


すぐ。


「OKです」


あっさり。


誰も止めない。


何も起きない。


それで終わる。


白瀬は、出る。


誰も見ていない。


それでいい。


収録は続く。


主役のシーン。


強い。


完成している。


でも——


そのとき。


ほんの一瞬。


さっきの声が、


重なる。


見えないくらい、


わずかに。


空気が、ズレる。


呼吸が、変わる。


間が、伸びる。


「……今の、もう一回」


ディレクターの声。


少しだけ低い。


「ニュアンス、変えてみよう」


主役が頷く。


やり直す。


今度は、


少しだけ揺れる。


ほんの少し。


でも、


さっきより、生っぽい。


白瀬は、何も言わない。


収録が進む。


また、ズレる。


また、ほんの少し。


また——


誰も理由は言えない。


でも、


確かに変わっていく。


「……なんか今日、違うな」


小さな声。


拾われない声。


でも、


本音。


収録が終わる。


「お疲れ様でした」


普通の終わり。


誰も騒がない。


誰も気づかない。


ただ、終わる。


帰ろうとする。


「白瀬」


呼ばれる。


振り返る。


主役。


少しだけ、困っている。


「さっきのさ」


言葉を探す。


「なんか……やりやすかった」


曖昧。


でも、嘘じゃない。


「……そうですか」


短く返す。


「うん」


少し笑う。


「引っ張られた、感じ」


白瀬は何も言わない。


ただ、軽く頭を下げる。


外に出る。


夕方。


少し冷たい空気。


スマホが震える。


黒崎。


『聞いた』


短い。


『また変なことしてるな』


白瀬は、少しだけ笑う。


「……ほっとけ」


小さく、落とす。


選ばれてない。


主役でもない。


それでも——


何かは変わった。


誰にも見えないくらい、


ほんの少し。


でも、


確かに。


足は止まらない。


歩く。


「……これでいい」


今度は、少しだけ深く。


正解じゃない。


でも、


間違いでもない。


主役じゃないまま、


中心を、ずらす。


それが、自分だ。


空を見上げる。


まだ、途中。


でも——


流れは、動いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ