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翠嵐   作者: 里梅紅弥
1~15 一章
9/18

九 「翠嵐~恐怖のオーディション~」


「さあっ、さっさと踊れ!」

 黒龍が、オレに向かって執拗に言ってきた。

(どうしてこんなことになってしまったのだろうか…)


 そう、あれは昨日のこと。

 仕事が終わったオレ達は、のんびりと、自分の部屋でテレビでも見てくつろいでいた。

《今大人気のさとうめマジカルランド! 連日、長蛇の列で……》

 テレビからそう聞こえてくるレポーターの声。

 オレはボッーとテレビを見ていたが、ふと横を見ると、黒龍が目をキラキラさせていた。

 オレは何か嫌な予感が頭をよぎった。

「おい、白龍! ここに行くぞ!」

 案の定、黒龍が嬉々としてオレの肩を掴み、体を揺さぶってきた。

「何でだよ! オレはそんな混むようなとこ、行きたくねぇ!」

「何でだ! 楽しそうではないか!」

「大体、男二人で行って、何が楽しいんだよ? お前の愛しの美幸さんとでも行けばいいじゃねえか…。まぁ、黒龍なんか相手にされるわけねえけど…」

 オレは、美幸さんには申し訳ないが、つい、黒龍にそう言ってしまった。

 だが、この言葉を発したことによって、後々(のちのち)後悔することになろうとは、この時は知る(よし)もなかった。

「みゆきさん…、フッフッフッフ…」

 黒龍は、何やら不気味な笑いをした。と思うと、すぐに立ち上がった。

「白龍。俺は少し出掛けて来るぞ」

「え? こんな時間に何処行くんだ? 美幸さんの家にでも行くのか? って、黒龍が知ってる訳ねぇし…」

「良いことを思い付いたのだっ」

 黒龍はそう言うと、何処かへと出掛けて行った。

 オレはこの後、すぐに眠りに入ってしまったので、黒龍がこの日、家に帰ってきたかどうかは、定かではない。







 今日の朝、オレは黒龍に起こされ、無理矢理と言うべきか、強引に何処かの広場へと連れてこられた。

 すると広場には、何かの特設会場のような物がある。

 良く見ると表の看板には、『オーディション会場』と書いてあった。

 オレは、何やら嫌な予感を背中に感じ、逃げようと(きびす)を返した。

 が、黒龍はその瞬間、オレの手をガッシリ掴み、しつこい笑みでニタニタ笑うと、オレを会場に、引きずり込むように連れて行った。

「何だよ? 黒龍? 痛てぇからひっぱんなっ。…あっ!」

 黒龍に強引に連れてこられ、中に入って見ると、そこは何やら、小劇場の様になっていた。

 舞台があり、パイプ椅子があり、照明や音響のような人までいる。

「おいっ黒龍! なんだこりゃ?」

「何って、オーディション会場だ」

「いや、それは何となく想像出来るんだけど、目的がわからねぇぜ。おめぇは一体何がしたいんだ? 大体なんで、昨日の今日でオーディションなんだよ? 美幸さんとの繋がりもわかんねぇし、訳わかんねぇぜっ」

「待て待て白龍。そんなに一辺(いっぺん)に喋られては、いくら天才的な俺でも、こんがらがるぞ」

「こんがらがってんのはこっちだよっ」

 オレは言いながら、まだ寝ぐせの付いた髪を、クシャクシャっと掻いた。

 すると突然、後ろから声を掛けられた。

「あの~、オーディション会場というのは、こちらで(よろ)しいのでしょうか?」

「は?」

 オレは、声のする方を振り向いた。

 何が何だかさっぱり分からなかった。

 この可愛い、ポヤヤンとした女の子が、どうしてこんなオーディション会場にいるのかが。

 すると、黒龍がいきなり後ろから割り込んできた。

「ああ。横峰オーナー主催のオーディションは、ここで良いんだ。因みに俺は、審査員の黒龍だ」

「まあ、あなたが黒龍さん。初めまして、望月紗也(もちづきさや)です」

 そう言うと、紗也さんは、黒龍と握手を交わした。と、今度はオレの方を向いて言った。

「あ、それじゃあ、あなたが白龍さん?」

「え? あ、ああ…」

 紗也さんは、黒龍の時と同様に、オレと握手を交わした。

「では、あちらの志願者席でお待ち下さい」

「はい」

 紗也さんは、黒龍の言う志願者席へと座った。

「おい黒龍っ!? どういうことだ? 横峰オーナー主催のオーディションって?!」

「ム? 貴様知らなかったのか? 横峰オーナーに言われたのだ。俺達が歌の収録をした後にな。今日、オーディションを開くと。その為の手伝いをして欲しいとな」

「待てよ! オレちっとも聞いてねぇぞ?!」

「ええい! うるさいな貴様は! もう、モデルのオーディションの開催は決まっているのだ! 文句ばっかり言うな!」

「モデル?!」

 オレは、黒龍に一気に捲し立てられて、頭がこんがらがってきた。だが、オレは冷静に言った。

「…ちょ、ちょっと待てよ黒龍? それと美幸さんと、何の関係があるんだよ?」

「みゆきさんはこのオーディションの、特別審査員として迎え入れられる」

「お、おい黒龍?! 美幸さんはただのデパートの店員だぞ?! そんな勝手なことしていいのかよ?! 横峰オーナーが何て言うか…!」

「横峰オーナーには、既に話が通っている。みゆきさんは可愛いから、それだけでOKなのだ!! あと、梨花さんと真菜さんと優子さんをオーディションに入れさせた」

「勝手だな……つうか、お前の行動は意味わかんねぇぜ…」

 オレは、黒龍に付き合うのに疲れ果て、深く溜め息をついた。

「…あの………あの!」

「あ?」

 オレと黒龍は、声のする方を振り返った。

 どうやらさっきから呼ばれていたらしい。

 見ると後ろには、女の子達が集まっていた。

「さっきから呼んでるのに、気付きもしないなんて。やっぱり来るんじゃなかったわ。いくら徹君の知り合いだからって…ねぇ真菜?」

「そんな梨花さん、またこの格好いい人達に会えたんだからいいじゃないですか。それより、やっぱりモデルだったんですね~」

「もう、真菜ってば、ミーハーなんだからっ。そんなことよりアンタ、あたし達がわざわざこんな所に、足を運んでやったのに。さっさと席へ案内しなさいよ」

 梨花さんは強きな態度だ。それを、真菜さんがなだめる。

「フン、この審査員の黒龍に盾突くとは、度胸があるな」

「審査員?! あんたが?!」

「ああ、そして白龍もな」

 梨花さんは今度は、オレの方をジロッと見た。

「白龍さんは知ってるわ。ファンだもの。宜しくね。白龍さん?」

 梨花さんは今度は、オレの手を握り、上目遣いでオレを見てきた。

 真菜さんにミーハーって言っときながら、こいつも十分ミーハーだ。

 それにしても、顔と名前はミカとそっくりなのに、性格は、まるで正反対だな。

「うふっ」

「あ?! お、おい黒龍! 助けて…」

 助けを求めるオレをほっとき、黒龍はというと、次々来る女の子達に囲まれていた。

「可愛いですね。失礼ですが、お名前は?」

「あっ、私、井上(いのうえ)七海(ななみ)です! 七つの海で七海です!」

「素敵なお名前ですね。じゃあ、そちらの方は?」

「私は遠藤(えんどう)美穂(みほ)です!」

「美穂さんっ。素敵なお名前だっ」

「あっ、わたしは吉田(よしだ)朋子(ともこ)です! 宜しくお願いします!」 

「ああ、よろし、く?!」

 黒龍の顔が、一瞬硬直した。

 何故って、それは吉田朋子なる人物が、どう見ても二十代後半はいっているだろうおばさん…、いや、失礼…どう見ても、この場にそぐわないような人だったからだ。

 それにしても黒龍の奴、女性に対して失礼だな。

「し、失礼ですが、吉田朋子さん。年はおいくつですか?」

「わたし? わたしは~、永遠の十七歳よ!!」 

 朋子さんがキラキラした、されど中は腹黒いような目をした。

「………、まあいいだろう…」

「いいのかよ!」

「なんだ白龍。その突っ込みは。貴様こそ三人はどうしたんだ?」

「梨花さんと真菜さんと優子さんには、何とか言って席に着いてもらったぜ」

「フッ、貴様もなかなかやるではないか」

「何がだよ!」

 オレ達が言い合いをしている中、三人は少し困りながら聞いてきた。

「あの~、それで私達はもう席についててよろしいのですか?」

 七海さんと美穂さんと朋子さん(!)がこちらを見ている。

「ああ、あっちの志願者席で待っていろ」

「はい」

 七海さんと美穂さんと朋子さんは、志願者席へ座った。

 と、黒龍が突然怒り出した。

「あっ、おい白龍! 貴様!」

「なっ、なんだよ急に!」

「梨花さんと真菜さんと優子さんが、何故、観覧席にいるのだ! 志願者席だろう!」

「え? そんな物まで用意してあったのか? 知らなかったんだから仕方ねぇだろっ。大体、誰が見に来るってんだよ?」

「誰って、家族や関係者や、後は、マスコミかな?」

「マスコミって、マスコミまで呼んだのかよ黒龍!?」

「いや、呼んではいないが、来ると思ってだなっ」

 オレは、黒龍のその言葉に呆れ返った。

「…あのな、黒龍。マスコミってのは、こういう場合は、こっちから呼ばなきゃ来ねぇもんなんだぞ?」

「なっ、何?! そうなのか? 知らなかった…」

「あのなぁ~。…馬鹿か?」

「なっ! なんだと!」

 黒龍が叫んだ瞬間、会場の電気が薄暗くなった。

 すると、ステージにはスポットライトが。

 誰かが幕から出てきたと思うと、それはよしおだった。

「何?! 黒龍、お前よしおまで呼んだのか?」

「ん? ああ、パシリとして使えそうだからな」

 オレは、その言葉には大いに納得した。

 よしおを見ると、手にはマイクを持っていた。

《開催十五分前で~す。オーディションを受ける皆様、頑張って下さい! では…》

 よしおはそう言うと、また幕に引っ込んだ。

 と、会場の電気が元に戻った。

 オレが横を見ると、入り口の方から、誰かが息を切らして入ってきた。

「…ま、間に合ったか?」

「ん? 誰だ? お前は?」

「あ…お、俺、光永龍之介みつながりゅうのすけっつうもんだけど、オーディションは、もう始まっちゃったのか?」

 龍之介さんは、走り疲れたのか、片手を膝に突いて、汗を拭っている。

 こんなオーディションを受ける為に、そこまでするのか。

 オレには理解出来なかった。

「いや、オーディションはまだだが…。ん? 光永龍之介? はっ! 俺と同じ龍が付いている! さては俺達の仲間か! よし、いいだろう。席に着け」

「やっぱ、黒龍は馬鹿だな…」

 オレは、黒龍に聞こえないように、ボソッと呟いた。

 ともかくも、オーディションは始まってしまった。







 オレは無理矢理、舞台の上にあがらされた。

 何故って、オレも審査員にされてしまっているから。

 黒龍が審査員席から立ち上がると、真ん中に立ち、マイクを持って声を張り上げた。

《では只今から、モデルオーディションを開催します!》

 黒龍がそう言うと、何故か拍手が巻き起こった。

 そしていつの間にいたのか、何故かマスコミが駆け付け、後ろの方ではカメラも回っていた。

 観覧席には人々の姿があり、その中に杉山の姿もあったが、オレは敢えて無視した。

《一番の望月紗也さん、二番の井上七海さん、三番の遠藤美穂さん、四番の吉田朋子さん、五番の光永龍之介さん、六番の佐原梨花さん、七番の田山真菜さん、そして八番の栗栖優子さん。舞台の上へどうぞ》

 黒龍がそう促すと、みんなが舞台の上へ上がってきた。

《そして、今日の特別審査員! 神崎(かんざき)美幸さんです!》

 黒龍が、大袈裟に下手(しもて)の方を向くと、スポットライトに照らされて、美幸さんが姿を現した。

《今日は皆さん、頑張って下さい》

 美幸さんは、そう言ってお辞儀をすると、真ん中の席を一つ空けて、つまり、オレと椅子一個分あけて座った。

 何故なら真ん中の席は、黒龍、と名札がちゃんとあったからだ。

《ではまず、皆さんには、自己アピールをしてもらいます! 一番の望月紗也さんから、どうぞ!》

 黒龍は、よしおにマイクを持ってこさせ、紗也さんに渡した。

 そして自分は、審査員席の真ん中に座った。

《…えっと、一番の望月紗也ですっ。好きなことは歌うこと、と、ミミニーちゃん。後、ミミニーちゃんと寝ることです》

 紗也さんは、ここに来た時も、ずっと抱いていたぬいぐるみを、舞台の上でも大事そうに抱えていた。

《紗也さんは、そのぬいぐるみが大好きなんですね?》

《はいっ!!》

 紗也さんは黒龍に向かって、最上級の笑みで答えた。

《合格だ!!》

「へっ?」

《望月紗也さん! あなたは見事合格しました! 今後モデルとして、大いに活躍して下さい!》

 黒龍は、よしおから合格証をもらい、紗也さんに渡した。

 紗也さんはそれを受け取ると、

「ありがとうございますっ」

と、一言言い、観覧席の方に座った。

「ちょっ、黒龍…!」

 オレは、いきなりの黒龍の言動に、ついて行けなかった。行きたくもなかったが。

「何で合格なんだ?! ちゃんと説明しろよ!?」

「可愛いからだ!」

「へ?」

「可愛いからに決まってるだろう!」

 黒龍は、自信満々に言った。

「それじゃ説明になってねぇよ!」

「じゃあ黒龍だから」

「はぁ!?」

「だから、俺が黒龍だから合格させたんだ!」

「それじゃ余計説明になってねえぇぇ!!!!」

 オレは、黒龍の手前勝手な理由に、有らん限りの怒鳴り声を上げた。

「あっ…」

 ふと、我に返ったオレが、顔を上げてみると、周りは静まり返っていて、残ったのは、マイクの“キーン”という反響音だけだった。

「あ、あの。そろそろ次の方を始めませんか?」

 美幸さんが言うと黒龍は。

「はい! みゆきさん!」

と、嬉しそうに答えていた。

 オレはもう、どうでも良くなっていた。

《二番の井上七海さん》

《はい、井上七海です。七つの海で七海ですっ! ダンスも歌も大好きです》

《合格だ!》

 七海さんは、合格証を受け取り、席に戻っていった。

 オレはもう、どうでも良くなっていた。

《三番の遠藤美穂さん》

《はい! 遠藤美穂です。この美貌と、可愛い声を生かして、モデルのトップを目指します!》

《合格!》

 美穂さんは合格証を受け取り、席に戻っていった。

 オレはもうどうでも良くなっていた。

《よ…四番の吉田朋子さん…》

《はい! 吉田朋子ですっ。この美貌と、可愛い声を生かして、モデルのトップを目指します!》

《…それ、さっき美穂さんが言った言葉ですよね?》

《いいえいいえ。これは私の言葉ですよ?》

《…後がうるさそうだから、合格証渡しとくか…》

《やったっっ!》

 朋子さんは合格証を受け取り、席に戻っていった。

 オレはもうどうでも良くなってい…。

「おい白龍!」

「…ぁん?」

「お前、何さっきから、もうどうでも良い。ような顔をしているのだ! せっかく俺がボケたのだから、しっかりつっこめ!」

「は? お前ボケたの?」

「ボケたではないか! …後がうるさそうだから。ってとこで。普通なら“そんな簡単に合格証渡すなよ!”とか“うるさそうってなんだよ!”とか、言うではないか!」

「…お前の方がうるせぇよ…」

「何?」

 オレは、黒龍の横暴さに、さすがに怒りが頂点に達した。

「何だよ! 何でオーディションとかになってんだよ?! つうか結局、お前一人で全部やってんじゃねえか! オレらただ座ってるだけじゃねぇか! いなくても良いんじゃねえ? 大体なんでオーディションのこと、一言も相談しなかったんだよ?! 勝手に自分でバンバン決めやがってっ、一言くらい言えよ! そんなにオレって、頼り無いのかよ。…オレ達…コンビじゃなかったのかよ…?」

 オレは、いつの間にか立ち上がっていた。

 自分が何を言ってるのか、少し…分からなかった。

「…白龍」

 黒龍がオレの方を向いた。

「そうかそうか! お前は寂しかったんだなっ?  コンビなのに、頼られない。何も相談されないっ! よしっ、お前が俺の一番だ! 一生大事にしてやるっ!」

 黒龍は、オレの頭をグリグリと、自分の胸に押しつけた。

「気色悪りぃことすんな!!」

 オレは思いっきり、黒龍をひっぱがした。

「そういう意味じゃねぇ!」

「何?! そういう意味にしか聞こえなかったぞ!?」

 オレと黒龍は、言い合っていたが、美幸さんがこっちを、白い目で見ているのに気付き、オレ達は言い合いをやめた。

《ご、ゴホンっ! では、オーディションの続きをする!》

 黒龍は、わざと咳払いをし、オーディション開始を告げた。

《五番の光永龍之介さん》

《…え? は、はいっ! 光永龍之介、十八歳。え、え~っと…。お、俺、翠嵐さんのモデル姿みて、憧れでこのオーディションに来たんですけど…》

《何?! そうなのか!?》

《…お二人って、仲悪かったんですね…》

《いや、これは単なるスキンシップだ》

「違げえよ!」

 オレは今度は、すんなりとツッコミをいれていた。

《スキン…シップ…ですか》

 龍之介さんは、呆れたような、愛想笑いを浮かべていた。

《光永龍之介さん。あなたは俺達と同じ、龍仲間だっ! 翠嵐のコンビには入れられないが、オーディションは合格だ!》

《ありがとうございます》

 龍之介さんは、

「龍仲間って…何だ?」

と、一人言を言った後、合格証を受け取り、階段を降りて、観覧席に座った。

《六番の佐原梨花さん》

《はい…佐原梨花です》

 梨花さんは、少しすねたような顔をして答えた。

 やはり、黒龍のことが気に食わないらしい。

《あたしは…白龍さんに質問されたいです》

「へっ?」

「だそうだ。良かったな白龍。ミカと似ているからやり易いぞ」

 黒龍は、オレにマイクを渡しながら言った。

(似てる、っても性格はまるで正反対なんですけど…)

 オレは取り敢えず、ミカ…、じゃなくて、梨花さんに質問を始めた。

《え、えっーと、趣味はなんですか?》

《趣味は…、白龍さんのおっかけ(ストーキング)と、白龍さんのグッズ集めと、白龍さんの写真集を一日中眺めるのと》

 オレは、聞いててうんざりしてきた。モテるのは悪い気はしねぇけど…。

《…後は、黒龍さんの写真を燃やすことと、黒龍さんに呪いをかけることかな?》

《待った! 最後の方待った!》

「どうしてだ? 白龍?」

「どうしてって、お前、聞いてなかったのかよ!? 今呪いとか言ったぞあいつ!」

「大丈夫だ。俺は簡単に呪われたりはしない。それに呪詛返しも出来るしな」

 黒龍は、自慢気に鼻を鳴らした。ってか、呪詛返しってなんだ?

「ともかく、梨花さんは合格だ。可愛いからな」

「え?」

 黒龍は、またも勝手に決めた。

 いいのかよ…。自分に、挑戦的な言葉かけた奴を合格にして…。でもこれ以上、梨花さんに何か言われたら怖いので、ここは素直に聞くことにした。

《じゃ、じゃあ~、合格っ!》

《やったあ! 白龍さんっ。だぁ~いすきっ!》

 梨花さんは、合格証を受け取った後、オレに抱きついてこようとした。オレは間一髪、席を離れ()けた。

 梨花さんは残念そうにしながらも、よしおに言われたので、席に戻った。

 よしおの奴、結構、役に立ってんじゃねえか。

《七番の田山真菜さん》

《はい。田山真菜です》

《合格だ!》

《あ、あの黒龍さん。まだ何も…》

 戸惑う真菜さんに黒龍は。

《真菜さんは有無を言わさず合格だ!》

《は、はあ…》

 真菜さんは、困惑した様子だったが、合格証を受け取り、席に戻った。

 黒龍もますます訳が分からねえ奴になってきてると思うのは、オレの気のせいだろうか…?

《八番の栗栖優子さん》

《栗栖優子です。ダンスとか、舞台とか、歌にも興味ありますが、この身長を生かしてモデルをしながら、演劇をやりたいと思います!》

《合格!》

 何か、一番まともな答えだな…。女神様に似てるからかな? 

 優子さんは、合格証を受け取り、席に戻っていった。

 するとすぐに、よしおが袖から出てきた。

《以上で、オーディションを終了します。この後、翠嵐のお二人の写真撮影会があります。そちらの方も是非、御参加下さい》

「はあ? そんなのまで用意したのか?」

「いや、俺は知らんが、きっと横峰オーナーの計らいだろう」

《それでは、用意が出来るまで、三十分の休憩を取りたいと思います》

 よしおって、結構役に立つんだな。オレは、よしおを改めて、見直した。

 そう言えば、美幸さんに、聞きたいことがあったんだよな。

「なあ、美幸さん。何でわざわざ、こんなオーディションに参加したんだ? 断れば良かったのに」

「えっ、だって…」

 美幸さんが、何かを言いかけた時。

「美幸!」

 物凄く格好良い男が、ドアを押し破って入ってきた。

「こんな所で何してんだよ!」

 黒龍より百倍は格好良い男の人は、舞台の上に、ヅカヅカと上がってくると。

「お前なんでこんなことしてんだよ…?」

「だって、結月。黒龍さんが、どお~しても、って…。何回断っても、付きまとってくるし…、煩わしくって、しつっこくて、くどくて。断り切れなかったの…」

 オレはその言葉を聞いて、大いに納得した。

「とにかく帰るぞ!」

 結月と呼ばれた、格好良い男は、美幸さんの手を取り、(さら)うようにして、会場を出ていった。

 オレは見たけど、美幸さんは、満更でもない顔をしていた。

 美幸さんが嬉しそうにしていたこと、黒龍には黙ってた方が良いかな。

「ああっ! みゆきさんっ!!」

「あきらめろ黒龍。恋人登場じゃ、どう見てもお前の負けだ」

 オレは、黒龍がこれ以上暴れないよう、諭すつもりだったが、逆効果だった。

「き、貴様のせいだ!」

「何が?」

「貴様のせいで、みゆきさんは行ってしまったのだ! それに、貴様がみゆきさんを止めていれば、こんなことにはならなかったはずだ!」

「おめぇが止めれば良かったじゃねぇか!」

「俺は、この休憩時間を利用して、オーディションに合格した人達に、話を聞いていたのだ」

 黒龍は偉そうに、胸を張った。

 別にそんなこと聞いてないのに。

「それに、オーディションでのやり方も気に食わん!  貴様には一から、オーディションというものを教えてやらねばならんようだな!」

「今はそんなこと、関係ないだろ! それに、お前一人でやってたようなもんだろ!」

 黒龍は、無理矢理引きずるようにして、オレを真ん中に立たせると。

「まず、やはり歌からだな。オーディションをするためには、出場者の気持ちを分かっていないとな!」

「もうオーディション終わってんのに、やる必要ねぇだろ! それに、さっきは質問だけだったじゃねぇかっ。お前が勝手に、合格っ。とか言ってただけでよ。お前のワンマンオーディションだったじゃねぇか」

「不合格!!」

 黒龍は、いきなりオレに指を差して言った。

「は?」

「審査員に口答えは許さん!」

 オレはもう、さすがに疲れてきたので、逆らわずに従っとくことにした。

「へいへい…」

「へいじゃないっ。返事は、はい。だ」

「…ハイハイ…」

「はいは一回っ!」

「……ハイ」

 全く、黒龍に付き合うのも疲れるぜ。だから嫌だよっ、たく。

「まず審査は歌だ。今から歌を流すから、一回聴いた後に歌え」

 黒龍はそう言うと、歌詞を書いた紙を、こっちに渡した。

 黒龍がパチンと、指を鳴らすと、曲が流れた。



正義か悪か~。味方か敵か~。いつの間にやら、やって来る~。

戦う戦士、ハトウマン。マントのハの字が風になびくぜ!

迫るコッティーやっあ~つけ~ろ~!


「おいおい! これって、日曜日、朝九時からやってる、人気アニメの〈ハトウマンとぐみっぴー、~コッティーマンとその仲間達~〉って番組の、主題歌じゃねぇか!」

「お前が知っている歌にしただけだ。カラオケで歌っていたではないか」

 オレは、確かにカラオケで歌ったが、さすがに公衆の面前でこの歌は…。

 恥ずかしい…。

 黒龍のセンスも考え物だな。

 歌なら、一ヶ月前に録音した[翠風~青く吹く風~]でいいのに。

 あ、でもまだ発売されてねぇんだっけ。発売前にそれはマズイか。

「ほら、さっさと歌え!」

「い、いや…」

 黒龍は、オレに有無を言わせず、指をパチンと鳴らした。

 曲が強制的にかかり始める。

 オレは、少しノリノリで歌おうとした、が。

「や~めた!!」

 黒龍が、いきなり大声でそう言うと、曲はストップしてしまった。

「なっ、何で止めるんだよ!?」

「不合格!」

「はあ?!」

「口答えをしたから、不合格!」

「…じゃあ、どうやったら合格になんだよ…?」

 オレは、別にどうでも良いのだが、つい、不覚にも、そんなことを聞いてしまった。

「踊れ!」

「は?」

「上手に踊れたら合格だ!」

 いきなり何言い出すんだよ。てか、踊りって…。

「さっきのオーディションでは、そんなのなかったじゃねぇか!」

「良いから踊れ!」

「嫌だ! 踊るくらいなら、不合格で良いよ、もう!」

 というか、このオーディション自体、どうでも良いんだけどな。

 オレは、もう自分だけ、さっさと帰ろうとした。

 しかし、黒龍がオレの肩を掴んできた。

「さあっ、さっさと踊れ!」

 黒龍が、オレに向かって執拗に言ってきた。


(どうしてこんなことになってしまったのだろうか…そう、あれは昨日のこと…。)





「白龍! さっさと踊れ!」

 命令口調の怒鳴り声により、白龍は我に返った。

 目の前には、踊りを強要する、黒龍。

「さあっ、さっさと踊れ!」

「踊らねぇ!」

「踊れ!」

「踊らねぇ!」

 黒龍は必要以上に、白龍に踊りを強要して来た。

「じゃあ貴様が踊るかどうか、このねこ箱で決めてやる!」

「ねこ箱!?」

 黒龍は、どこから出したのか、口の所が手を入れるために開いている、微妙な表情の、猫の形の箱を取り出した。

 白龍はそれを、手にとってみる。

「おい、なんだよ、このオレンジ色の猫は。あ、色紙(いろがみ)張ってるのか。っつかよく見ると、牛乳パックで出来てるじゃねえか! しかも、何で裏面にまで顔あんだよ。これじゃ胴が繋った猫じゃねぇかっ。可哀そうだろ! 足まで付けやがって」

「俺の手作りの、可愛いねこ箱に、何か文句があるのか…?」

 黒龍は凄んだ声を白龍に向けた。

 しかし、そんなことより白龍は、手作りという言葉に驚いていた。

「手作りかよ! どおりでなんか、微妙に歪んでると思ったぜ」

「とにかく。その中に、紙が二枚入っている。踊れ、と書かれた方を引いたら踊れ」

「ったく、しょうがねえな~」

 白龍は嫌々ながら、ねこ箱の口に手を入れた。

(…何か、本当に不気味だよ。この箱…)

 白龍は、一枚の紙を取り出すと、開いて見た。

「ん? 残念…? ってことは…踊るのか!?」

「貴様は何を聞いていたんだ。残念は踊らない方で、俺の気持ちだ。まさしく残念だったな、白龍」

「紛らわしいことすんなよ! オレは踊りたくねぇんだよ! むしろオレは残念で嬉しいよ」

 白龍はそう言うと、ホッと、安堵の息を付いた。

 我に返った二人が周りを見ると、お客さん達が、失笑したり、冷ややかな目で見たりしていた。

 因みに梨花は、何故かハンカチを噛んでいる。

 黒龍と白龍は、取り敢えず、舞台から降りた。

「よっ。お二人さん!」

 舞台から降りた途端、いきなり小島が二人の肩をガシッと掴んだ。

「小島さん!」

「チッチッチッ。私のことは、コッティーと呼びたまえ」

「コッティー?」

 二人ははてな顔で聞き返す。が、その問いに答えない。

 小島は手に紙袋を持っていた。

「さあさあ、二人共。これから写真撮影会があるから、着替えてきて」

 小島は、新作の服が入った紙袋を二人に渡した。

「ってか、小島の奴、いつの間にいたんだ?」

「…最初からずっと。じゃないのか?」

 二人は服を着替える為、更衣室へ向かった。







 黒龍と白龍が着替えから戻ってくると、すでに写真撮影会の準備は整っていた。

「おっ、来たね。二人共」

「横峰オーナー!」

 小島と同様、いつの間にいたのか、横峰オーナーは徹と一緒にいた。

「横峰オーナー。聞きたかったんですけど、何でいきなり、オーディションなんですか? 黒龍も何も言わないし、オレ、びっくりしちまったよ」

「そうかそうか。…実は二人共、さっきのオーディションね。ちょっと、ふざけてみただけなんだよ。本当は、こっちの写真撮影会と、あともう一つのお楽しみの方なんだ」

「は?」

 黒龍と白龍は、意味が分からずポカンとした。

「だから、さっきのオーディションは、おふざけなんだ。実は全部、私が仕掛けたことなんだよ。こっちで用意した仕掛け人、全員ね」

「何!? じゃあ、さっき、光永龍之介さんが、走ってきたのはなんだったんだよ? オーディションに遅刻しそうだったからだろ?」

「龍之介君はちゃんとしたモデルで、今日は仕事で来てもらったんだよ。仕事に遅刻しちゃいけないだろ?」

 横峰オーナーは、あっけらかんとしていた。

「じゃあ、あの吉田朋子さんは!?」

「彼女も仕掛け人だよ。一人くらいああいう人がいたら、面白そうだからね」

「なに~~!?」

 黒龍が突然、大声を上げた。

「じゃあ、俺達は騙されていたのか?!」

「黒龍も知らなかったのか?」

「ああ。全く、見事に横峰オーナーに振り回されてしまったな。まあ、俺は楽しかったから、別に良いがな」

「楽しかったろ? 黒龍君。白龍君も」

「オレは全然楽しくなかった! 黒龍に振り回されてうんざりだぜ!」

 白龍は思いっきり、膨れっ面をした。

(こういうのを、金持ちの道楽って言うのかな?)

「でも、それじゃ、梨花さんと真菜さんと優子さんと、それにみゆきさんまで騙したことになるではないかっ。なんてお詫びをすれば!」

「いや~、それについては、ごめんごめん! (でも君がどうしてもって言うからオーディションに参加させたんだけどね…) これで許してくれるかな?」

 横峰オーナーはそう言うと、ポケットから何やら紙を取り出して、黒龍に渡した。

「ん? これは! 今人気の、“さとうめマジカルランド”のフリーパス券!」

 黒龍は、そのチケットを見るなり、目を輝かせた。

「こ、こんなんじゃ騙されねぇぞ! なあ、こくりゅ…」

「仕方無い、許してやるか」

「いいのかよ!」

 白龍はそう言いながらも、少し、嬉しそうな顔をした。

 結局は白龍も、行きたかったのである。

「さあさ、写真撮影会を始めるよ!」

 横峰オーナーがそう言うと、二人はまた舞台に立たされた。

 横には、徹や、仕掛け人の紗也、七海、美穂、朋子、龍之介、そして何故か、よしおまでもがいた。

 梨花は、マイカメラで、白龍ばかりを撮り続けていた。

 そして最後は、ここにいる人全員で、写真を撮った。

 写真撮影会が済むと、横峰オーナーが衝撃的なことを口にする。

「次は、来週発売される、君達のシングルを発表するから」

「何~!? そう言うことは早く言えよ!」

「全く、いつもいきなりだな。横峰オーナーは。お楽しみって、それのことだったのか…」

 舞台の上にはすでに、二人が歌う準備が進められている。

 二人は立ち位置に立つと、マイクを渡された。

 準備が整ったところで、よしおが袖から出てきた。

《さて、本日のメインイベント! 来週発売の[翠嵐~青く吹く風~]翠嵐のお二人の、初のシングルです! では、どうぞ!》

 この様子だと、よしおは最初から知ってたらしい。

 曲がかかり始め、黒龍と白龍が、前奏で踊り始める。







 数十分後、 黒龍と白龍は、部屋に帰ってきていた。

「あ~あ。今日は疲れたな~」

「全くだな。まさか横峰オーナーに、(もてあそ)ばれていたとは」

「お前のせいだぞ、お前がまんまと、横峰オーナーの策略にはまるから!」

「まあ、楽しかったから良いではないか」

「オレはちっとも楽しくなかったぞ!」

 そう言う白龍に、黒龍は横峰オーナーからもらったチケットを見せた。

「ではお前は行かないのか?」

「い、行くけどよ!」

「早速、みんなを誘わないとなっ。ついでによしおも誘うか」

「ああ、今日は何か、頑張ってくれたからな」

 白龍は、よしおの働き振りを、偉く感心していた。

「いつ行くか、みんなで決めないと行けないな…。また、みゆきさんにでも会いに行くか」

「黒龍。今日、美幸さんかっさらってった、凄く格好良い人だけどよ」

「あいつがどうかしたのか?」

「いや、美幸さんが行くなら、あいつも行くんじゃねぇのかと思って」

「別に俺は構わんっ。こういうのは、 正々堂々、勝負すべきだからな。ハッハッハッハッハッ」

 黒龍は自信満々にそう言った。

(何で勝つ気満々なんだよ…。美幸さんと結月って人は、好き同士だから付き合ってるってのに…。この自信はどこから来るんだか…)

 白龍は黒龍を、呆れた目で見つめていた。







 こちらは山澄の部屋。

 いつも騒がしい山澄の部屋だったが、今は一人だ。

 しかし、電話をしている様で、会話が聞こえてくる。

《おい、やまさん。ちゃんと渡したよ。あのチケット》

「そうですか。ありがとうございますね。横峰さん」

《でもやまさん。何でわざわざ、こんな遠回りにチケット渡すんだい? 直接渡しゃ良いのに。まあ、こっちは助かったけどね》

「直接じゃ駄目なんですよ。…インドでは少し、やり過ぎましたからね…」

《ん? 何だい?》

「いいえ、こちらのことですよ」

 山澄はそう言うと、ニコッと笑った。

「二人の出かける日が待ち遠しいですよ…」

 その横顔の意味を知る者は、誰もいない…。



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