六 「翠嵐~インドでパニック!?~」
飛行機に揺られ数時間。黒龍と白龍の二人は、ようやくインドへと着いていた。
もう夕闇が迫っている時間だが、それでも構わずインドを観光していた。
「おっ、土産屋があるぞっ。入ろうぜっ」
「何言っている。土産は最後だろうっ」
「いいじゃねえかよ、見るぐらいよっ」
「駄目だっ。…はぁ…それにしても、このインド七日間の旅が、デタラメだったとはな…」
「全くだぜ」
黒龍と白龍は、同時に溜め息を吐いた。
二人がそう言うのも、実はこの旅行は、全くの偽物だったのである。
山澄が言っていた『インドまるごと七日間の旅』という企画はまるでなく、空港で待っているはずのガイドさんもいなかったのだ。ただ、チケットは本物でホテルも山澄の名前で、二名の予約がされていた。
「なあ、白龍。山澄の奴はこんなことをして、一体何の得があるというのだ? 何かを企んでいるのか…? もしくは…」
「まあ、悩んでもしょうがねえんじゃねえの? オレ達は探偵でも何でもねえんだ。考えたって無駄だぜ。それより、この場にいることをオレは楽しむがな」
白龍は楽観的に考えていた。白龍のこういう所を、黒龍は羨ましく思う。自分にもこんな考え方が出来れば。
「なあ黒龍。あの土産屋寄っていいか? どうしても見てみてえんだよ」
「…ちっ、勝手にしろっ」
「おうっ。じゃあ行こうぜっ」
白龍はそう言うと、黒龍の手を取った。
「んなっ。俺は関係ないっ。ひ、一人で行けっ」
「あ、わりぃ…つい子供と思っちまったぜ」
「なんだと!?」
「いいじゃねぇかよ。見るだけ見るだけ…」
二人は土産屋の中へ入っていった。土産屋の中は、置物やら何やらで溢れ返っている。
「おお~。すげえぜ。流石、宗教の国インドっ。おっ、象の像だ。なんちって…」
「くだらんっ!」
「…わりかったよ…。おっ、これ買おうかなぁ~」
「見るだけと言ったではないかっ」
「すいませ~ん、これ…」
黒龍を無視し、白龍が店員に話しかけると、店員はこちらを向いた。が、白龍の言っていることがわからないらしい。そりゃそうだ、白龍は日本語で話しかけたんだもの。
「おい白龍っ。貴様は日本語で通じると思っているのか?」
「おっ、いけねぇ。ここはインドだったぜ。インドは英語で大丈夫か?」
「いや、インドは全体を約30%をヒンディー語が占めている。ヒンディー語で言った方がいいだろう」
「なんでだよっ。英語でもいいじゃねえかよ。オレ、ヒンディー語なんて知らねえもんっ」
「確かに英語もヒンディー語と並んで、準公用語になる位、幅広く使われてはいるが、ここはインドだ。皆が皆、英語を喋れるとは限らん。ヒンディー語がわからなければ買うのはあきらめることだな」
「じゃあお前出来るのかよ?」
黒龍が偉そうに講釈を並べ立てる横で、白龍が口を尖らせた。
「当たり前だ」
「嘘つくなよっ。どうせ出来ないんだろ?」
「何を言っている! 俺は貴様のように馬鹿ではないっ! 世界中の言葉を喋れるぞ!」
「じゃあこれ下さい、って店員に言ってみろよっ」
「ああっ、言ってやるっ!」
黒龍は、まんまと白龍に騙され、品物を買ってしまった。
「どうだっ。ちゃんと買えたぞっ」
「おうっ。ご苦労ご苦労っ。オレこれ欲しかったんだよな~」
「ぬおっ! しまったっ! 白龍に騙されたっ!」
「二ヒヒヒ。馬鹿は黒龍の方だぜ。オレの挑発にまんまと乗ってくれてよ。わかり安いぜ」
「貴様っ、それは俺のだっ。よこせっ! 返してくるっ!」
「せっかく買ったんだからいいじゃねえかよっ!」
「駄目だっ! しかもそれは、俺の金で買った物だっ!」
黒龍がそう言い終わるか終わらないうちに、店の外で大きな爆発音が聞こえた。
「なんだっ!?」
黒龍と白龍、それに店員は、すぐさま店の外へと飛び出した。するとそこには、見るも無残な光景が、煙と共に広がり、バスが炎上し、人も数人倒れていた。
「…何が…、起こったんだっ?」
「大丈夫か?!」
黒龍が近くで倒れている男に駆け寄った。血を流している男性は朦朧とした意識の中、黒龍の方に目をやる。
「何があったんだ?」
「……うっ…ゴホゴホッ! …わ、私にもわからない…。ただ、バスが…バスが…」
そう言うと男は気絶してしまった。
「おいっ、黒龍。そいつ、なんて…」
「わからないんだそうだ。それより白龍。これを」
「何だ? …飴? おい黒龍っ! こんな時に飴なんてっ…」
「いいからなめろっ!」
「な、何だよ…。ったく、怖え顔しやがって…」
白龍は、仕方無く渡された飴をなめる。
すると、白龍の中で何かが起こった。
「おい黒龍っ…、これって…」
「ああ」
「すげえまじぃぞ?」
「違うだろ! 俺の魔力で作った飴だ。それをなめると、どこの国の言葉でもわかるようになる。但し、効果はおよそ七日間だがな」
その言葉に、白龍はちょっと渋い顔をした。
「…お前、ちょっと卑怯だな…」
「何?」
「だってそうじゃねえかっ! 世界中の言葉喋れる、って言っといて、結局こんなもんに頼ってるなんてよっ! 自分の魔力にばっか頼ってよっ!」
「違うぞっ! それはお前専用だっ!」
「へ? オレ専用って?」
「何を勘違いしてるんだ。俺はそんなモノがなくたって、世界中の言葉を喋れるっ。俺は貴様と違い、勉強したからな」
「へいへい…」
白龍は、人々の会話に耳を傾けた。この惨劇に、人々は大騒ぎをしていた。
「おいっ、救急車だっ! 早くっ!」
「何だっ?! 一体何が起きたんだっ?!」
「わからねえっ! ただ、一瞬何かが光ったような…」
「この国ももう終わりなのかっ?」
黒龍と白龍は、人々のその様子を見て、自分達も、怪我を負っている負傷者を救助しにかかった。
「おい、黒龍。まさかこれ」
「ああ、まさしく爆弾だな」
「爆弾? テロってことか?」
二人は救助をしながら今の出来事について話し合う。が、答えは出てこなかった。旅行に来てテロに遭うとは、何ともツイていない。
救急車も去り、疲れ果てた二人が地面に座り込んでヘタっている。すると、
「…お前さん達、日本人かね?」
白髪頭で眉毛も長く、顔がほとんど見えない、杖をついた非常に背の低い、髭も腹の下までボサボサに生やしたジイさんが話しかけてきた。
「へ? (なんだこのジイさん) …い、いや、そうと言えばそうだし、違うと言えば…」
「違うな。俺は闇の世界の黒龍様だ。敢えて言うなれば、闇人だな」
「闇人って何だよ? じゃあオレは天人か? お、何か黒龍のより格好いい響きだなっ」
「何だと?!」
「そこの二人、ちょっと私の話を聞いてくれぬか?」
「ああ、カンナ様!」
カンナと呼ばれた若い女性が、ジイさんの後ろから現れた。どうやら偉い人らしい。
その人はサリーと呼ばれる民族衣装を着ており、美しい茶色の長い髪に、赤い瞳と、額には青い印がついていた。
「カンナ?」
「可愛いお人だっ」
「これお前達っ」
黒龍が顔を赤く染め、鼻の下を伸ばしているところへ、すかさずジイさんはツッコミをいれる。
「ま、まあ良い。そこの二人に話したいことがあるのだ」
「話したいこと?」
二人は同時に聞いた。が、黒龍が素早くカンナの目の前に動く。
「カンナさんっ、話なら、俺が泊まっている宿屋に来ませんか? 美味しい紅茶をご馳走しますよっ」
「ちっ、またナンパかよ…。おい、黒龍っ。いくら何でもいきなりすぎじゃ…」
「じゃあ行きます」
「行くのかよっ?! まさか紅茶につられて…」
「カンナ様はそんな人ではありませぬっ」
黒龍と白龍は、二人を連れてホテルへと戻っていった。
ここは、黒龍と白龍が泊まっているホテルの一室。
黒龍は、部屋に備え付けてあるポットから紅茶の入っているティーポットにお湯を入れ、カップに紅茶を注いでいた。
「で、話しってのは何だよ?」
客用の椅子に座る二人に、白龍が話を切り出す。
「はい。まずは自己紹介を…。私は、カンナ・グレティス。十七歳。こっちは、ジイ様のクラジィだ」
「よろしくじゃけ」
「そんなことはどうでもいいっ。早く話の方を進めてくれよ」
「そんなこととは何ですかっ。カンナ様に対して失礼ですぞっ」
「そうだぞ、白龍。そちらが自己紹介をしたのならば、こちらも名乗らなければならぬのが礼儀ではないかっ」
黒龍は紅茶をお盆に乗せて持ってくると、それをテーブルに置く。
因みに御丁寧にエプロンまで着けている。
「俺は黒龍っ! 強くて格好いい黒龍様だ! 覚えておけ」
「お前はその自己紹介の仕方しかねぇのかよ…」
黒龍が親指を自分の方に向け、軽く決めポーズをすると、白龍は呆れた顔をした。
「あぁ、オレは白龍。よろしく。…で、話ってのは何だよ。カンナ」
「これ! カンナ様と呼びなされカンナ様とっ!」
「良いんだジイ。そうだな、時間もないし、話をさっさと進めよう…。実は話というのはだな」
黒龍と白龍の二人は、緊張し息を飲み込んだ。
「と、その前に、紅茶を一口飲んでも良いか?」
「ガクッ…。おいおい、紅茶何処じゃねえだろ。時間もないって言っといて」
「どうぞ。ググイッと飲んで下さいっ」
「おい、黒龍、お前も勧めんな。ってか、カンナも、やっぱり紅茶目当てじゃねえか…」
「カンナ様に何てことをっ」
「では、有り難くいただくぞ」
白龍を無視し、二人で話は進められた。カンナは紅茶の匂いを嬉しそうに嗅ぐ。穏やかな時間がそこにはあった。
「んん~、この香り。いいにおいだな」
「そんなことはどうでも良いから、オレとしては話を進めてもらいたいねっ」
白龍の言葉を聞かず、カンナは紅茶を一口飲んだ。
「これはうまいな。淹れるのが上手なのだな」
その言葉に気を良くしたのか黒龍は。
「カンナさん。どうぞっ、もっと飲んで下さいっ」
と、紅茶を勧めた。
「では、もう一口…」
カンナが紅茶を飲もうとしたその時。
「だああっ! 紅茶飲みながらでも何でも良いから、早く話を進めてくれ~~~!」
白龍が、その和やかな空気に溜まらず叫んだ。白龍はこのテロ騒ぎを、早く解決したいと願っているのだ。なのに、この和やかな空気は平和そのもの。
「…そ、そうだな。話しながら紅茶を飲むことにしようっ」
「い、いや、厳密には紅茶を飲むことが本題ではないんだけど…」
「白龍殿っ。カンナ様に何て無礼なっ」
「そうだぞ白龍っ。カンナさんが可哀想ではないかっ! 貴様には気遣う気持ちがないのかっ?!」
「いや、同じ気遣うなら、このテロ騒ぎの方を気遣ってくれよ」
白龍が呆れた顔でカンナの方を見やると、つられて二人もカンナを見つめた。少しの間の後、カンナが神妙な面持ちになる。
「…お前逹は人間ではないのだな?」
「えっ!?」
黒龍と白龍は驚いて思わず立ち上がる。何故、カンナが、自分達が人間ではないことを知っているのか。
カンナの赤色の瞳が妖しく輝く。
「驚かせてすまない。実はこの水晶球には人の気というものが見えるのでな」
カンナは、自分の提げていたポシェットの中から、水晶球を取り出し、二人に見せた。
「お前達のそれは人とは違うもの発していた。お前達は何だ?」
先程と一変したカンナの態度に、二人は気圧されしていた。
「オ、オレたちはその…えっと」
どう説明していいか分からない、いやそもそも自分達が龍神だと明かしても良いものなのか。それに話すにしても何処まで言えばいいのか、迷っていた。
「……白龍」
そんな白龍の様子を見ていた黒龍は、静かに口を開く。誤魔化せないと観念したのであろう。
「…俺は…俺たちは、龍神だ。天界の女神様の命により、この世界に来た」
「!」
今まで静かに事の次第を見守っていたジイが、長い眉毛を上げ、これでもかと目を見開く。
ちらりと見えた左の眼光が鋭く光った。
「そうか、人とは違う気だったのもその為か…」
カンナは落ち着いて、二人の顔を見ると、
「すまんっ」
と、いきなり頭を下げた。
「え?」
「カンナ様!」
「どうしたんですか? カンナさん!」
「実は二人を、この事件の犯人だと疑ってしまっていたのだ…」
「どういうことだよ?」
「この事件の犯人は、人間の仕業ではないのじゃ」
ジイが割って入ってくる。
「水晶球には、人外の所業と出ておる。それであの場にいたお主らに話かけたのじゃ」
「最近、こういった事件が多々起きていてな。私たちは街の治安維持のために、原因を調査していたのだ」
「それにしてもそんなすぐにオレらが犯人じゃないって分かんのか? 会ったばかりのオレらに?」
「私は前にも…幼少の頃に似た気を感じたことがあってな。まぁ違うと思ったが念の為に。それに紅茶も美味しかったし」
「ガクッ…。紅茶飲みたかっただけだろ」
「カンナ様に何てことをっ!」
白龍は呑気に紅茶を飲むカンナを見て気が抜けた。
「しかし、人外とは気になるな」
黒龍が思案顔をし、顎に手を置いて考え込む。
「ソレの正体はまだ分かっていないのか?」
「ああ、まだ人ではないということぐらいで、目的も不明なのだ。まあ、恐らく魔物ではあるとは思うが…」
少し虚ろ気味に目を伏せるカンナだったが、おもむろに手を前で組むと、二人の顔を見る。
「さてと、ここからが本題だ。お前達にも是非とも協力して欲しいのだが、その人外を突き止めこの事件の解決に助力して欲しい。……手伝ってはくれぬか?」
話の終わりの最後に、困った顔で小首を少しかしげる様を見せると、二人の顔が少し赤く染まった。
「カンナさん! 分かりました。この黒龍、必ず事件の犯人を突き止めてあなたの前に差し出しましょう!」
「ありがとう」
カンナの可愛らしい所作に、黒龍は意気揚々と高らかな宣言をすると、カンナの手を思わず握った。
「カンナ様に何てことを!」
その手をすかさず杖で叩くジイである。
「いた!」
「全く…お前は女のことになると、すぐ調子に乗るんだから」
黒龍は、叩かれた手を擦りながら、
「ではお前はどうするんだ?」
と、呆れている白龍に尋ねた。
「え?」
「お前ももちろん、カンナさんの手助けをするのだろう?」
白龍は、この話を受けようと思っていたが、改めてそう聞かれると少し悩んだ。相手は人外だというし、何も出来ない、魔力も使えない無力な自分が、助けることなど出来るのか。
助けて貰ってばかりの自分。救えなかった命もある。だからこそ怖い。白龍は逡巡していた。
「…ちょっと待ってくれねぇか?」
「何?」
「お前は強いかも知れねぇけど、オレは弱い。もしその人外って奴が襲ってきたらどうする?! バス丸ごと破壊する奴だぜ! 黒龍はともかく、オレなんか敵うはずねぇよ…」
俯き、自分の気持ちを吐露する白龍のその言葉に、一同は静まりかえった。静けさが広がる中、ふいに、カンナが沈黙を破る。
「まぁ、今はもう遅い。私達ももう帰らねばならないのでな。明日また聞こう」
カンナは帰ろうと席を立とうとした。
「と、その前に紅茶をもう一口…」
だが、またすぐに座ると、紅茶を口に持っていく。三人はカンナのその行動に、同時にコケた。
カンナとジイが帰って数時間後、黒龍と白龍の二人は、部屋に描かれている天井の絵を見ながら、ボーッとベッドに横になっていた。
二人は考えていた。今日の爆破事件のこと。カンナの人外の話。
結局あの後、カンナは紅茶を三杯も飲み、ジイに叱られていた。何とも濃い一日に、すっかり眠気を奪われている白龍は、独り言を呟く。
「カンナの話凄かったよな…」
「お前はそればかりだな」
さっきから、同じ言葉を何度か呟いている白龍に、いい加減辟易したのか、同じく眠れずにいる黒龍は、腕組みをしていた手を、頭の下にやる。黒龍のその言葉に、白龍は思わずベッドから上半身を起こした。
「だってよ! 人外事件のテロとか明らかにヤバいだろ。それって人間が関わって良いものなのか? しかも、カンナはまだ十七歳。すげぇよな、あの年でもう街のこと色々任されてるなんてよ」
「まあ、カンナさんほど美人ならな」
「いや、顔 関係ねぇし…」
呆れて溜め息を付く白龍。起こしていた上半身を、またベッドにダイブさせる。
「取り敢えず明日だな…」
「まあ、それは貴様次第だろう。無理強いはせん」
「…そう…だな…」
白龍は少し淋しくなった。黒龍なら、無理矢理にでも自分を引っ張って行ってくれると思ったから。
強制的に、自分の意思でないのなら、怖い時、誰かのせいにして逃げられるから。
だが、白龍の期待は見事に打ち砕かれた。
無論、黒龍の言いたいことも分かる。自分で覚悟を決めなければ、何も出来ない、強くもなれない。白龍はそう思いを巡らせていた。
(…オレはどうすればいいんだ? 目の前で誰かが傷付くのが、怖い。もうあの時のように、誰かの苦しむ姿は見たくないのに…)
白龍はそこまで考えると、静かに目をつむった。
一方、黒龍の方もずっと考えていた。先程のカンナとの会話に対しても、白龍ならすぐ決断し、カンナを助けると言うと思っていた。しかし、白龍が少し震えているのを感じた黒龍は、無理強いは出来なかった。
(何かを怖がっているのか? 人外の魔物に? それとも…)
二人それぞれの思いをのせて、インド一日目の夜は終わった。
インド二日目の朝。カンナとジイが、ホテルの玄関に二人を迎えに来ていた。
結局、黒龍と白龍の二人はあれから少ししか眠れず、眠い目を擦っている。反対にカンナとジイは、何とも爽やかに挨拶をした。
「おはよう」
「おはようござりまする」
「ああ。おはよう…」
「おはよう…」
「その様子だと、あまり寝てないみたいだな」
「もう、誰のせいで眠れなかったか…」
そう答えながら、白龍は、拳二つ分は入るほどの、大きなあくびをした。
「おい白龍っ。みっともないぞ」
「別に構わないよ。では、今から私の家に行こうか。話はそれからだ」
カンナとジイが歩きだすと、その後に、黒龍と白龍は足早についていった。
カンナの後ろについてホテルから歩くこと一時間。途中、薄汚れて所々ツタがはびこっている白い壁ばかりが続いたが、カンナはようやく立ち止まる。目的地へと着いたようだ。
「ここだ」
「…広れぇ~~!!」
カンナの家は平屋だが、敷地面積が普通の家の十個分はあった。
会話をしながら、客間への長い廊下を歩く四人。すれ違い様にメイドさんが何人かカンナにお辞儀をする。カンナはメイドさんに、客間に紅茶を頼んだ。
客間には、椅子が数個と、テーブルが一つあった。カンナに促されるままに、黒龍と白龍は椅子に座る。
「ここってカンナの家…なのか?」
「ああ。古くさいだけのただのボロ屋だがな」
「何を言いますカンナ様。グレティス家は代々、この土地の管理を任されて来た由緒ある家、古くさいなどと、ご先祖様に申し訳がたちませぬじゃ」
「すまん、ジイ…」
「へえ。そういや、ジジイも偉い人なのか? こいつは何なんだよ?」
「ジジイ!? こいつ!? 何て口の聞き方じゃ!! …コ、コホン…。わしは代々この家の主君を守るために仕えてきた、ぼでぃーがど、じゃて」
「ボディーガード?」
二人は耳を疑い、顔を見合わせた。驚きを隠せないまま、白龍は素っ頓狂な声を上げた。
「このジイさんがかぁ?」
「有り得んな。このジイさんがボディーガードなどと…」
「なんじゃと!?」
「ま、まあ二人共。言い忘れていたがジイはこう見えても、剣術に槍術、体術までもマスターし、若い頃はインド一強い男として選ばれたものだという。今もかなり腕が立つぞ」
「何だよ。そんなことならオレら必要ねぇじゃん。帰ろうぜ黒龍」
白龍はスッと立ち上がり、同意を求めようと黒龍の方を向いた。だが、黒龍は今の話しを聞き、目を子供のように輝かせ、すっかりジイに取り付いている。
「俺を弟子にしろ! 俺は強くなりたいんだ!」
「フォッフォッフォッ。いいぞいいぞ。若者はやる気がなくちゃいかん。わしについて来い!」
「お前らな…」
白龍が呆れ返っている中、黒龍とジイはドアの方まで行く。
すれ違いざまに入ってくる、紅茶を持ったメイドさんにぶつかりそうになるも、黒龍がまるでダンスのようにメイドさんの腰に手を当て、クルっと回り、何とか避けた。
「大丈夫か? すまんな、急いでいたもので」
「は…はい」
黒龍はメイドさんに謝り、紅茶の乗っているティートレイに、薔薇の花を一輪置いた。メイドさんの頬がポゥっと赤くなる。
「これ、何やっとるのじゃ黒龍くん!」
先に庭で待っていたジイが、大声で呼ぶと、黒龍は慌ててドアから飛び出した。
しばらく熱に浮かされていたメイドさんだったが、カンナの咳払いが聞こえると、急いでティートレイごと紅茶をテーブルに置き、もらった薔薇を持って足早に出ていった。
「全く…黒龍の奴…。インドに来ても相変わらずだな…」
白龍はいつも通り、黒龍の行動に呆れていた。
「…それで、白龍。お前はどうなんだ?」
「は? 何がだよ?」
白龍は自分が立ちっぱなしだったことに気付くと、再び椅子に座りながら、はてな顔で聞き返した。
「昨日言ったではないか。私の手助けをして欲しいと」
カンナは昨日のように、何とも十代らしくない落ち着いた雰囲気を醸し出している。無理強いはしないが…、と付け加えたカンナに、白龍はずっと考えていたことを静かに口にした。
「……オレは…正直怖えぇよ…」
「そうか」
「でも、怖えぇけどそれじゃダメだと思うんだ。オレは魔力ってのも正直わからねぇし、何にも役には立たねえかも知れねえけど。それでもみんなを見捨てて、自分だけ安全な所にいるのも、何か違うと思う。だからオレは黒龍と一緒に強くなりたい。同じ龍として同じ場所に立てるように」
「なるほど。…まあ、そう気負わなくても、あくまで手助けだ。魔物を捕らえるのは私とジイでやるよ」
「お、おう」
「しかし、魔力が使えないか…」
「?」
カンナはそう言うと、自分の首にかけてあった首飾りを外すと、白龍に見せた。
「では、白龍。お前にこれを貸してやろう」
「…首飾り…?」
白龍はそれを受け取ると、まじまじと見つめた。青色の球体が光に当たり、不思議に輝く。
「これは自身を守ってくれる球だ。これを首にかけておけ。少しは役に立つ。一つしかないから失くすなよ」
「そんな大事なもん、いいのかよ?」
「ああ。…それと、もう一つ聞きたいことが…」
「何だよ?」
「黒龍のことだが…。あいつは今までどんな修羅場をくぐってきたのだ?」
「え?」
「水晶球にうつされた気だ。何かとてつもない闇の部分を感じる」
「ああ、そりゃ黒龍は、闇の世界の龍だからな。確か、ずっと闇の争いを止める為に戦って来た、とか言ってたぜ。まあ、オレは良く知らねえけど」
その話しを聞き、カンナは少し考える素振りを見せる。
「…見たくはないか?」
「何を?」
「黒龍が闇の世界で戦っていた所を、だ」
「え?」
突然何を言われたのか、白龍には分からなかった。見るって闇の世界を? いや、そもそもどうやって…。それに見ても良いものなのか。
「そりゃ、見れるなら見たいけど。それで黒龍のこと、少しは知れるのかも知れないから。…でも、どうやって?」
「…ああ、この水晶球でわかるんだ」
そう言うと、カンナは水晶球を取り出し、白龍に見せた。
「いいか、白龍。良くこの水晶球を覗くんだ。見えてくるだろ? 闇の世界が…」
白龍とカンナはゆっくりと水晶球の光に飲み込まれていった。
いつの間にか二人は、見知らぬ場所にいた。
「何だ? ここは?」
「ここは、数百年前の闇の世界だ」
「カンナ! …ここがそうなのか? 何か、暗いとこだな。だけど、平和そうじゃねえか」
白龍は周りを見渡した。確かに薄暗く、木も草も生えていなくて、不気味に見えるが、黒龍の言っていた争いなんてものはまるで見られなかった。
ただ、そこには人の姿も見受けられなかったが。
白龍とカンナが周りを見回した直後、物凄い地響きが二人を襲った。と、同時に何かがこちらに近付いてきた。
そこには、地球では見たこともないような生物がいた。いうならば、ゴブリンのような者や、妖怪のような者、獣人のような者だ。
大勢の異形の者達のその足音で、地面が揺れていたのだ。
「何だ、ありゃあっ! やべ! 隠れなくていいのか?!」
慌てふためく白龍を尻目に、カンナはいたって冷静だった。
「大丈夫だ。これはただの過去の映像だからな。あちら側には私達の姿など、見えてはいない」
二つの勢力が目の前でぶつかり合い、睨み合いを利かせていた。
だが、すぐにどちら共譲らぬ剣幕が争いを巻き起こし、血は飛び散り、何匹もの生物が倒れていった。
「うげっ…」
白龍は、思わず目を逸らした。
すると、一匹の黒い、巨大な龍が姿を現わした。
「何をやっている貴様等っ! さっさと争いを止めないか!!」
「!!」
その黒龍の大きさと迫力に、白龍は驚きを隠せなかった。一方、カンナは、冷静に事のなりを見つめている。一匹の生物が黒龍を見て言った。
「おおっ、これはこれは…。黒龍じゃねえか。……生意気にも俺達の争いを止められるのか?」
「喋った!」
一匹の者が、黒龍に向かって突っ込んでいった。すると黒龍が、その一匹を、背中から真っ直ぐ伸びている尾で叩き殺した。
「今のうちに止めといた方が身の為だぞ。大人しく自分の住家に戻れ」
「ちっ! そんな簡単に済む問題じゃねえんだよっ! お前だってわかってんだろが!」
まるで口火を切るかのように、一匹の者が飛びかかると、それに合わせて、今度は全員で襲ってきた。この人数じゃ、黒龍も簡単には倒せない。
一匹が黒龍の腹に、何かを命中させた。
「ぐはっ!!」
「黒龍っ!!」
「大丈夫だ、白龍。先程も言ったが、これは昔の映像だ。もう終わっているんだ」
「でも…!」
白龍は、黒龍の身体がどんどん血に染まっていくのを見ていた。この光景を見ていることしか出来ないのは、とても歯痒い。でも、黙って見ているしかなかった。
「…くそっ…」
しばらくすると、あんなに激しかった戦いは、いつの間にか終わっていた。そこに残されていたのは、血の惨劇の後と転がる肉片。…黒龍の傷ついた身体。
「ハァッハァッハァッハァッハァッハァッ……」
黒龍は荒く息をしていた。傷ついた体を擦りながら、黒龍は、人間の姿になっていた。そして、そのまま地面に突っ伏した。
「!! 黒龍っ!!」
白龍は傷だらけの黒龍に近寄ろうとしたが、何故か黒龍の姿が遠退いて行く。
「黒龍~~~!!」
そのまま辺りは暗くなり、完全に闇の世界と、視界はシャットアウトされた。
「黒龍…! …?! 元の…場所?」
気が付くと、白龍とカンナは元の場所にいた。闇の世界での景色は影も形もなく、綺麗な明るい部屋に戻っていた。白龍は何が起きたのか、しばらく理解が出来なかった。
二人とも荒い息をし、肩で呼吸をしている。あの後、黒龍はどうなったのか。今ここにいるので、死んではいないが、それでも白龍にとっては十分過ぎるほど衝撃的な映像だった。
白龍は先程の光景を見て、少し涙ぐんでいた。
「…お前、何て物見せんだよ。いくら何でもひでぇよ…」
カンナの方も少し動揺していた。白龍の問いには答えず、目を丸くし、ショックを受けている。
「おい、大丈夫か? カンナ?」
「あ、ああすまん。少し驚いてしまってな。お前も大丈夫か? 涙ぐんでいるようだが…」
「え、い、いや泣いてねえよ!」
白龍は咄嗟に涙を袖で拭った。
「それにしても何でこんなこと…」
「ああ、それは水晶球を通して過去を見れる私の力だ」
「違げぇよ。何でこんなことしたんだよ。それにカンナ、さっき、明らかに冷静だったよな」
白龍は唇をかみ締めた。先程の光景を思い起こすと辛くなる。最初に会った頃、黒龍に闇のことを聞いた時、苦しそうだった。きっと、あんな大変な思いを、日常的に味わっていたのだろう。
白龍は感情的になり、カンナに言い放った。
「過去の出来事だからって、目の前で黙って見てろってのがおかしいぜっ。黒龍の傷付く身体を見て、お前は何とも思わないのかっ!? …そりゃ、まだ会ったばかりで、黒龍のこと知らねえし、黒龍はあんな奴だから嫌いになるのは分かるけどよ…」
白龍は、言いにくそうに口ごもっていたが、これを言わなきゃ気が済まなかった。
「お前は…人間じゃねえ…」
「…フゥ…。確かに、私はよくそう言われる…」
「え?!」
「だが、私は人間だ。冷静に振る舞っているのは、相手になめられないこと、そして、判断力を失わないことを、私には求められているからだ。…正直に言うと、私だってさっきの映像は苦しかった。すぐにでも、黒龍を助けてやりたかった…。だが、あれは過去の出来事だ」
その言葉を聞き、白龍はムッとした。
「だから、それが冷たいんだよ…」
「違うっ! あれは過去の出来事だから、私達には何も出来ない!」
カンナは今までになく、声を荒らげた。
「私はっ…! 黒龍を助けてやりたかった…。でも、それは出来ない…。過去には触れられない。私達は本来、あの場にはいない者なのだから…」
カンナは何処か、哀しげな顔をした。白龍はその顔に、思わずドキッとした。
「そ、それにしてもよ~、大体過去見るってプライバシーの侵害じゃないのか? …まさかオレの過去も見るのか!?」
白龍は思わず自分の両腕を抱く。
「いや、白龍のは見ないよ。私が黒龍の過去を見たのは、ちょっと確認したかったからなんだ」
「確認?」
「ああ。何故かは分からないが、私は黒龍を見るたび、何故か動悸が走り、胸が苦しくなる。顔が火照ってしまう。何か、黒龍の闇の部分の気に原因があるのかと思ったのだが、原因は分からなかったな…すまない、こんなことに付き合わせてしまって」
「いや、いいんだけどよ。黒龍の過去も分かったし…でもそれって…」
「え? 白龍には分かるのか? この動悸の原因が?」
「それって…黒龍のこと好きってことなんじゃ…」
「好き…私が…? 黒龍を?」
カンナは少し考え込む様子をするが、すぐに大声で笑った。
「アッハハハ。そんなわけないだろ? この私が黒龍を好きって…。白龍も冗談を言うのだな」
「いや、冗談じゃないんだが…」
「何を笑っているのだ? カンナ?」
ドキーン!!
突然現れた黒龍に、カンナは驚き、心臓が跳び跳ねた。振り向くと、何と上半身裸で、汗だくの黒龍が二人の目の前に。カンナは思わず立ち上がった。
「イヤ~~!!」
その姿を見るや否や、黒龍の横を通り過ぎ、カンナはドアから走って出ていった。
「ど、どうしたのだ? いきなり…」
「お前の格好が気に食わなかったんだろ? ってか、何で上半身裸なんだよ?」
「体を鍛える時は上半身裸に決まっている」
「意味分かんねぇ…」
自慢気に鼻を鳴らす黒龍に対して、白龍は呆れた顔をした。
一方、カンナは広い家の廊下を何処の目的もなく歩いていた。
男の裸など、ジイ以外見たことのないカンナにとって、これは衝撃的なことだった。カンナはまだ高鳴っている胸を押さえている。
「全く、驚いたせいで鼓動がまだこんなに早い…」
胸を締め付ける思いに、先程の白龍の言葉が頭をよぎる。
((好きってことなんじゃ…))
「まさか…な…」
カンナは人知れずに呟いた。
「白龍っ、俺が修業している間、姿が見えなかったが、カンナさんと何を喋っていたんだ?」
「え?」
その言葉に白龍は、先程のことを思い返していた。
(…黒龍の過去を見てきた、何て言えねえし…。第一、カンナが黒龍のこと好きかもとか言ったら、黒龍の奴、調子に乗るに違いねえ…。調子に乗って、オレを散々馬鹿にするに違いねえ…。そして挙げ句の果てに、カンナと結婚…。でもオレには関係ねえか…)
「おい、白龍っ。何を喋ってたか言えんのか? まさかカンナさんに不埒なことをっ」
「だからそれはお前だっつうの。…カンナとは…あーほら…あっ! これこれっ、これ貰ってたんだよっ!」
白龍は先程貸してもらった、首飾りを見せた。
「何か、身を守ってくれるんだとよ?」
「…俺には、無いのかっ?」
「お前は強いから必要ねえだろ? それに、一個しかねえってカンナが言ってたぜ」
「そうか。俺は強いか…」
黒龍は、少し寂しげな表情を見せた。
「あ、強いって言ったのが気に触ったのか?」
「ん? そんなわけないだろうっ。俺は強いっ。誰よりも強いっ! 勿論、白龍よりも強いっ!」
「ヘイヘイ…」
白龍は呆れて溜め息をついた。
「黒龍君! 休憩は終わったかね?」
「ああ、今いく」
「ん? カンナ様は何処に行ったのじゃ?」
「ああ、黒龍の裸に驚いてどっか行っちまったよ」
「何と! すぐ探さねば!」
「何そんなに慌ててんだ? ジイ。カンナも子供じゃねえんだ。いくらなんでも家の中で迷子にはならねぇよ」
「何とぼけたこと言っておる! そう言えばまだ話してなかったが、実はカンナ様は…」
「私がどうかしたか? ジイ?」
「カンナ様!」
突然カンナが後ろに現れた。先程とはうって変わり冷静な顔をしていた。どうやら落ち着きを取り戻したらしい。
「カンナ、もう大丈夫なのか?」
「ん? ああ、大丈夫だ。それより水晶球を見なかったか? 慌てて出ていったので、忘れてしまってな」
カンナはテーブルの上にある水晶球を持っていくと、足早に出ていこうとした。
「カンナ様。何処に行かれるので?」
「ああ、私は疲れたから部屋で休んでいるよ」
「送って行きますじゃ」
「大丈夫だ、ジイ。家の中なのだから」
ジイは心配そうに見つめたが、カンナにそう言われると、ついていくわけにも行かない。
カンナは心配するジイを尻目に、自分の部屋の方角へと向かっていった。
「ところで白龍君、君も修業をやらんかね?」
「えっ? でもなぁ、オレ運動苦手だし…」
「そんなんじゃ弱いままだぞ白龍。まあ、そんなに修業が嫌なら、俺が守ってやってもいいがな」
黒龍が腕を組み、したり顔で言うと、白龍は顔をムッとさせる。
「大丈夫、誰でも簡単に出来ますじゃ。余程の運動音痴じゃない限りなっ! フォッフォッフォッ」
決定的な言葉をジイが吐くと、その挑発にまんまと乗った白龍は、いつになく燃えていた。
「んなっ! くそっ、やってやるぜっ! ウオオォ~!」
「では決まりじゃな」
ジイは、白龍を庭に連れて来た。関係ないが、カンナの屋敷にはこういった開けた場所が幾つもあるのだった。
庭には大木が一本立っており、それ以外は、草が所々生えている殺風景な土の地面。その真ん中に、一人の男性が立っていた。
「おいグィーノ!」
「はい」
上半身裸で、カンフーパンツのようなものをはいている青年が、ジイの呼び掛けに答えるとこちらに走ってきた。
「こいつはグィーノ。わしの199番目の弟子じゃ」
「よろしく」
「げっ。こいつも上半身裸かよ」
白龍はグィーノの格好を見るなり、渋面になった。
「あ、あぁ、これはさっき黒龍が私の服を無理矢理脱がして。修業をするのだから上半身裸は必須! とか言って…」
「全く…黒龍! 自分の趣味嗜好を人に押し付けてんじゃねぇよ、迷惑だろが!」
「何だと!?」
「まあまあ、これが脱いでみるとなかなか気持ち良くてね、クセになりそうだよ。白龍君だっけ? 良かったら君も脱がないかい?」
「ぜってぇ嫌だね!」
白龍は自分の服の裾をこれでもかと引っ張り、拒否のポーズを示した。
「では、早速修業をするかの。黒龍君とグィーノ、手本として先程と同じように、組み手を白龍君に見せるのじゃ」
「はい!」
グィーノと黒龍は構えると、息を合わせ、組み手をし始めた。
「何やってんのかよくわからねぇが…。見せてなんか意味あんのか?」
「何を言っておる。今から白龍君もやるんじゃよ」
「オ、オレが!?」
「組み手のやり方で大体の性格は分かる。例えば黒龍君、彼の相手とのやり取りは強がり、意地っ張りで、全てのことに対して、何処か切なげに捉える傾向がある。それはやはり闇の龍としての宿命か…」
「よく、組み手を見ただけでそこまで分かるな」
「伊達に長いこと生きておらん」
「長いことって…。一体何歳なんだ?」
「………二…百歳…」
ジイはボソッと呟くように言った。
「何で今ためたんだよ? でもすげぇな二百年も生きてるのか」
「ま、まあ、そんなことより白龍君。次はそなたの番じゃ。誰とやりたい? 黒龍君か? グィーノか? それともわしと勝負するかね」
「え~? やんなきゃ駄目か?」
白龍は黒龍、グィーノ、そしてジイの顔を順番に見回した。
「じゃ、じゃあ、ジジイで…」
白龍は三人の中からジイを選んだ。ジイは二百歳。老いぼれたじいさんになら、何か勝てる気がした。しかし。
「フォッフォッフォッ。このジイに挑もうというのか。勝てる勝算でもあるのかな?」
「止めといた方がいいよ、白龍。おじいさんでも、ジイ様はかなり強いから」
心配したグィーノが止めに入る。が、もう取り消しは出来なかった。
「男が一度決めた勝負。さあ、かかって参れ」
ジイが何と上着を脱ぎ、上半身裸になった。そして、その下にあったのは、年齢にそぐわない筋骨隆々の肉体。白龍には、ジイの体が何故か大きくなっていくように見えた。
気が付くと白龍は、地面に転倒していた。
「フォッフォッフォッ。弱い弱い」
白龍は何が起こったか分からず、ただ仰向けの状態で、空を眺めるだけだった。いつの間に服を着たのか、ジイが元通りの小さい姿に見える。
「だから言ったのに…」
「ってか、オレいつの間に倒されたんだ? 全然気付かなかったぞ」
上半身を起こし、頭を打った所を手で押さえる。
「全く弱いのにジイとやるからだ」
黒龍は、白龍を起こすようにと、手を差し出すが、
「弱いのにってなんだよっ」
と、白龍は手をはねのけ、自分で立った。ついた土を落とすように、尻をパンパンと叩く。
「ジジイがチビで油断しただけだよ。あ、お前もチビだったな」
「何だと!?」
「だってオレより小さいだろ?」
白龍は身長を測るように、手を、自分の頭と交互に黒龍に合わせた。その不本意な行動に、黒龍は思わず目の前の白龍の手を払いのける。
「貴様! この体は自由自在に変えられることを分かっているのか! その気になれば身長180cmも夢ではない! だが俺は敢えてこの背にしている! 分かるか? このサイズが俺には一番しっくりくるからだ!」
「まあまあ黒龍君。落ち着くのじゃ。そうじゃ、ちとカンナ様の様子を見て来てはくれまいか?」
ジイがなだめるように、小さい両手を黒龍に向ける。黒龍は、地面においてあった服を着ながら言った。
「ちっ、しょうがない。ジイの頼みだ。しかし、何故そんなにも気にするのだ? 過保護にも程があるぞ」
「わしだってあまり、しつこくはしたくないのじゃが…。実は先程も言おうとしたのじゃが、カンナ様は狙われておるのじゃ」
「何!? そういうことは最初に言え!」
「でも、狙われてるって誰にだ?」
「それはカンナさんの純粋な思いを狙う不貞の輩が続々と…」
「それはお前だ」
「オッホン! カンナ様は魔物に狙われておるのじゃ。その魔物は恐らく10年前のあの日…」
ジイの言葉を最後まで聞かず、黒龍は急いでカンナの元へと走った。
「全く、まだ話の途中なのに…」
黒龍の背中を見送った後、ジイはショボくれた顔をした。
「それで? 10年前、何だよ?」
「10年前、魔物が現れたんじゃ。その魔物は街を破壊し、人々を襲っておった。先代…カンナ様の父君、母君は、その魔物に深手を負わせたが、致命傷にはなりえなんだ。そしてその魔物は言ったんじゃ。傷が回復した暁には、またやってくると。カンナ様の父君、母君は、その時受けたケガが元で、不治の病にかかり、治療の甲斐もなく死になさった。カンナ様はまだ幼かった故、わんわん泣きなされてな…。しかし、それ以来、わしはカンナ様の涙する姿など見ていない」
ジイは語っているうちに、目から涙が少しこぼれた。服の袖で涙を拭う。
「話しがそれてしまったが…その魔物が恐らく、今回の犯人だとわし達は睨んでおるのじゃ」
「そっか、カンナの父ちゃん、母ちゃんが…」
白龍はカンナにそんなつらい過去があるとは知らず、自分の言動を恥じた。
気丈に振る舞っているのは、そういった過去を乗り越え、いつかその魔物を退治するため。なのに、自分は冷たいとか、勝手なことばかりを言ってしまった。
白龍は決意した。怖いなどとは言ってられない。皆、それぞれ過去がある。勿論、自分にも。
「ジジイ…。オレ、修業頑張るよ」
「どうしたのじゃ? いつになくやる気じゃな。そんなお前に、我が流派に伝わる必殺技を教えてやろう!」
「ひ、必殺技!?」
「そう、その名も…シアロンじゃ!」
「へ?」
白龍は目が点になった。
ちょうど同じ頃、カンナは自分の部屋で考え事をしていた。
「何故こんなにも気になるんだ」
カンナはずっと白龍の言っていたことが気になり、悩んでいた。
「確かに、黒龍を見ると胸に違和感が走るが…」
先程のこともそうだ。黒龍がメイドさんに薔薇を渡しているのを見て、何故だか胸がざわめいてしまった。
カンナは恋をしたことがなかった。両親を幼い頃に亡くしたカンナは、グレティス家の当主として立派に責務を全うしなければならない。その思いだけで生きてきた。一応、許嫁はいるのだが、そいつに対しても恋愛感情はなく、むしろ好意が鬱陶しかった。
「はぁ~~…」
カンナは、深く溜め息を付いた。と、そこへ突然、ドアを叩く音が鳴り響いた。
「…誰だ…? ジイか…?」
開けようとして、ノブを触ろうとした瞬間、いきなりドアが開く。そこに立っていたのは。
「カンナ! 無事か!?」
と、ドアを壊さん勢いの黒龍は、カンナの無事な姿を見て、安堵の息を漏らした。
「凄い汗だな黒龍」
「先程、ジイに聞いた。何故今まで黙っていたのだ。魔物に狙われていると…」
「そうか、聞いたのか…」
カンナは何処か哀しそうにうつ向く、がすぐに顔をあげた。
「黒龍、折角来たのだ。紅茶を入れてはくれないか?」
「あ、ああ」
黒龍はカンナに紅茶を入れるため、備え付けてある電気ポットから、カップにお湯を入れ始めた。
白龍は、体術の修業をしていた。まず<シアロン>という術を教えるには、体力が足りないと言われ、ジイに扱かれ、グィーノには見込みがないと突き放され、それでも体術の修業をしていた。
「何やってるんじゃっ! それではいつまでたっても教えられんぞっ! 学習という言葉を知らんのかっ!」
「ジジイっ。おめえの教え方が悪りぃんじゃねえのか?」
「かっ! 人のせいにするとは何事じゃっ! もういいっ。貴様みたいな者に教えることは何もないっ! 早々に荷物をまとめて帰るがいいっ!」
ジイは怒って、白龍を杖でつついた。
「なんだよジジイ。オレ達を連れてきたのはそっちじゃねえかよっ」
「もともとは黒龍君だけでも良かったんじゃ。余計な貴様はいらんいらんっ」
「連れてきといてそれはねえだろ?」
「まあまあ、二人共。そんなにケンカをなさらずに」
「グイーノは引っ込んでおれっ」
ジイの両肩を腕で掴み、必死に止めるグィーノ。グィーノは、ふと、白龍の胸元を見る。
「あれ、白龍。その首飾り…。カンナさんの。何で白龍が持っているんだい?」
グィーノが、白龍の首から下がっている首飾りを見つめた。
「ああ、カンナに貸してもらったんだよ」
「盗んだ訳ではあるまいな?」
ジイは杖で白龍の足の先をつつく。
「人聞き悪りぃぞジジイ?」
「確かその球…。カンナさんが気を練ってやっと出来た一個だったよな? 何で白龍なんかに…?」
「何か、ってなんだよ。何か、って…」
「やはり白龍め…貴様、カンナ様のお部屋に忍び込み、下着を盗もうと…」
「だから何でオレを変態みたく言うんだよっ! だったら黒龍の方がよっぽど怪しいぜっ」
「黒龍君は大丈夫じゃ。このジイも認める、なかなかの好青年じゃて」
「黒龍が~~?」
ウンウンと頷くジイに対し、白龍はその言葉に、思わず吹き出しそうになった。横ではグィーノが何か考え込む様をしているが、すぐに口を開いた。
「そんなことより、白龍。この球を使えば、もしかしたらシアロンを成功させられるかも知れないよ」
「あ?」
白龍は、疑わしそうに顔を歪めた。
カンナと黒龍は、静かに椅子に座っていた。二人とも何も喋らず、黒龍のいれた紅茶を飲んでいる。
まるでお見合いでもしているかのように、カンナは黒龍を見つめては、顔をそらしを繰り返していた。
(…好きだな…)
顔を見つめると思わずそんなことを思ってしまうカンナ。しかし、慌てて自分の思考に突っ込みを入れた。
(え? 好きだなって何だ? やはり私は黒龍が好きなのか?!)
一人で赤面したり、慌てたりと、百面相を繰り返していた。
そんなカンナの様子を見、しばらくして黒龍は口を開いた。
「…カンナ」
「なっ、何だ? 黒龍っ? っていうか、呼び捨てに変わったのか」
「…あ、すまん。先程慌ててて、ついな…嫌だったか?」
「い、いやではないが」
カンナは顔を赤くしながら、
(呼び捨ては何故か照れくさい…)
と、照れを隠すように紅茶をがぶ飲みした。黒龍はカンナの飲み干したカップに、また紅茶を継ぎ足しながら言った。
「魔物の正体は、依然として掴めんのか?」
「…何だ、そのことか…。それならこの水晶球に…」
カンナは自分のぶら下げていたポシェットから水晶球を取り出そうとした。しかし。
「な、ない!? 水晶球が!」
「? 何言ってるのだ? カンナ? 先程客間に忘れたとか言い、自分でそこにいれてたではないか」
先程、カンナは確かに客間に来て、テーブルの上に置いてあった水晶球を持っていった。けれども、黒龍も中を確認したが、確かに水晶球は入っていなかった。
「何のことだ? 私は取りになど行っていないぞ?」
はてな顔のカンナに、黒龍はさっきのことを思い返すと、何を思ったのか、上半身の服を脱ぎ出す。
「な、何をするのだ黒龍!」
カンナは慌てて自分の手で目を覆い隠した。だが、薬指と中指の間はあき、少し目が見えている。
「…やはりな…急いで逃げて行ったわりには冷静だと思ったのだ」
黒龍はそう言い、また服を着ると、カンナの肩に手をやった。
「?」
「カンナ、よく聞け。この家に魔物が隠れている」
「ま、魔物!?」
「ああ、しかも奴は狡猾なことに、水晶球を盗み出し、自分の正体がバレないようにしている。さらに、奴は人に変身できる能力まであるらしい…カンナ!」
「な、なに?!」
「お前は本当にカンナなのか?」
「な、何を言っているのだ黒龍! 私は本物に決まって…」
「では、先程俺をジロジロ見ては、目を反らしを繰り返していたのは何故だ? 俺に正体を見破られるのを恐れて、ではないのか?」
「そ、それは…。その…」
「答えられないのか?」
黒龍の顔が、カンナの数センチ近くまで近寄ってきた。カンナの顔が赤面するとともに、少し涙目になり口を結ぶ。その顔をじっーと見つめる黒龍。カンナは思わず目をつむった。
「…まあ、冗談だ。だからこそ服を脱ぎ、確認したのだからな…」
黒龍はカンナの顔から遠ざき、肩から手を離すと、腕を組んだ。
「あ、あはは…」
「取り敢えず、このことをジイに報告せねばならんな。行くぞ、カンナ」
「あ、ああ…」
もっと他に確認のしようがあったのでは…と思うカンナであった。
黒龍とカンナが庭についた頃には、既に白龍の体術の修業は終わっていた。今まさに、実戦さながらに、白龍が術を使おうとしている。黒龍はグィーノに尋ねた。
「何やってるんだ?」
「黒龍っ。それに、カンナ様。今、白龍に、代々伝わる秘術をジイ様が教えたとこなんだ。今からやるから、見てて御覧」
グィーノは白龍の方を指差した。白龍は精神を集中させていて、黒龍とカンナが来たことに気付いていないらしい。
「ハァァァァ…」
「そうじゃ白龍君っ。もう少しじゃっ! もう少しで出来るっ! 今まさに修業の成果を見せるんじゃ白龍君っ! 頑張れ白龍っ! 負けるな白龍っ! 修業の成果を今ここでっ…」
「うるさくて集中できねえだろジジイっ!」
「これ、手を休ませてはならんっ! わしゃ白龍君の為を思って応援しとるんじゃっ!」
「こっちは迷惑なんだよっ!」
白龍がそう言った瞬間、手から何かが微かに出た。ポスッ、とすかしっ屁のような音を出したそれは、一応衝撃波らしき物らしい。
「ほ、ほらみやがれっ! ジジイが余計に騒ぐから失敗しちまったじゃねえかよっ!」
「わしのせいにする気かっ! 失敗したのはお前さんの力が弱いということじゃてっ。まだまだ修業が足りんということじゃ! それにわしは騒いでるつもりは毛頭ないっ!」
「こんのジジイっ、言わせておけば…」
白龍は思わず握り拳を握った。
「いい加減にそこまでにしたらどうだっ?」
黒龍が騒いでいる白龍の後ろから現れた。
「黒龍っ!」
「ほう、遅かったの。わしはてっきり、ここへすぐ戻ってくるものと思ったが…」
「ちょっとカンナと話をな…」
「黒龍っ、カンナに手ぇ出してないだろうなっ?」
「黒龍君はしっかりした人じゃ。そんなことあるわけなかろうっ」
「何でオレの時と態度が違うんだよっ」
「やれやれ…。ま、とにかく。白龍も修業が足りんな。そんなことでは俺の相応しきパートナーにはなれないぞっ!」
「なりたくねえよっ!」
白龍が叫んだ所で、黒龍は真剣にジイに向き直った。
「ジイ…実はカンナの水晶球が盗まれたんだ」
「何と! 誰にじゃ?!」
「ああ、変身能力を持った魔物にだ」
黒龍とジイが話しあっている中、カンナはその様子を見ていた。愛しそうな、それでいて何処か切なげな瞳で。その瞳に映るのは、たった一人の人物。
ジイに報告も終わった所で、カンナが割って入った。
「ところでジイ。そいつは誰だ? 見ない顔だが…」
「ん? そう言えばまだカンナ様には紹介しておりませんでしたな。こいつは一ヶ月前に入ったわしの199番目の弟子、グィーノじゃ」
「カンナ様。お目にかかれて光栄です」
グィーノはそう言うと、片手を胸につけ、うやうやしくお辞儀をした。
グィーノは顔を上げると、カンナの方をじっと見つめる。グィーノの紫色の瞳が怪しく光った。
「あ、ああ」
背筋に何故か冷たい物を感じたカンナは、慌ててジイの方に向き直る。
「…さて、ジイっ。今日は黒龍と白龍の歓迎会だ。用意は進んでいるのか?」
「もうすぐでございますじゃ、カンナ様。では、ちと様子を見てきますじゃ」
「頼むぞ」
ジイは足早に奥にある中庭へと駆けていった。二百歳のくせに足は素早かった。
「あっ、私も行きますジイ様っ」
その後をグィーノが慌てて追いかけていった。
「歓迎会?」
「あっ、言い忘れていたが、今日お前達の歓迎会をやることになってるんだ。街の殆どの人がここへ来るぞ」
「何呑気なことをやっている。水晶球が盗まれ、魔物が隠れているのだぞ!」
「しかし、昨日決まったことだしな…」
「お、俺は出んからなっ。白龍で十分だろうっ」
「何言ってんだよ黒龍! せっかくの歓迎会なんだぜっ。出なきゃ損じゃねえかよ」
「俺は別に、歓迎して欲しいからこの国に来たのではないぞ!」
「まあそう言うな黒龍。みんな楽しみにしているのだ。それに、カラオケ大会もあるのだぞ。私も歌うのだ」
「…カラ、オケ…」
「そう、カラオケ」
カンナがそう言うと、次第に黒龍の顔が、夏の太陽の如く晴れ渡っていった。
「…よしっ俺は歌うぞっ! 俺の歌声は甘いぞ~」
「何言ってんだか、黒龍の奴…。カラオケにつられたのかよ?」
黒龍がその問いに答える間もなく、ジイが突然現れた。
「…カンナ様。用意は出来ておりますじゃ。ささ、ジイに付いて来なされっ」
「グィーノはどうしたんだ? ジイ?」
「グィーノは懐かしの友人を見つけたとかで話しておりますじゃ」
ジイとカンナと白龍が歩こうとした時、黒龍はまだ突っ立ったままだった。
「どうしたのじゃ黒龍君。これは黒龍君と白龍君の歓迎会じゃぞ? カラオケ大会もあるのじゃぞ?」
「仕方がない…そんなに俺の甘い歌声を聞きたいのならば、行くか…」
「なんだよ黒龍? カラオケ大会が楽しみなくせにっ」
「う、うるさいぞ白龍! 歌が下手な奴は黙っておけっ」
「なっ! どうせオレは歌が下手だよっ」
頬を膨らませ、そっぽ向く白龍。二人のケンカを横で見ていたカンナは、静かに笑った。
しばらく歩くと、賑やかな中庭に着いた。大勢の人が集まり、既に酒を飲んだりしてワイワイやっている。
「ああっ、カンナ様っ。ご無沙汰しております」
「カンナ様っ。お久しぶりです」
「カンナ様」
「カンナ様っ」
カンナが中庭に着くと、今まで騒いでいた周りの人達が、すぐにカンナを取り巻いた。
「皆、待たせてすまない」
「さすがカンナ。お嬢様だな~」
「…そういう風に人をからかうのは止めてくれないか?」
カンナは、不機嫌そうに溜め息をついた。
「白龍っ。カンナに失礼ではないかっ」
「わりかったよ。処で黒龍、お前いつの間にカンナって呼ぶようになったんだ? さんづけじゃなかったっけ?」
「今頃気付いたのか馬鹿者め。そんなこと、貴様に教えるわけ無かろう」
「別にオレも知りたくて聞いてるわけじゃねえよ」
「何? じゃあ何故聞くっ?!」
「これ、二人共。静かにしなされ。カンナ様が挨拶するのですぞっ」
「フンッ」
ジイが二人の尻を杖で叩いた。
カンナが演壇の上に立ちスタンドマイクから話し始める。
「皆、今日ここに集まってくれたことに感謝する。今日は実は大事な知らせがあるんだ。近来、魔物が現れるという話を聞かないか? その魔物は10年前、この街を襲った奴と私は見ている。私はその魔物を倒したいと思っているのだ。この祭りは、嵐の前の宴だと思ってくれ」
「カンナ…」
カンナがそう言い終わると、人々は声を上げた。カンナは演壇から降りると、ジイ、黒龍、白龍の元へと歩み寄った。
「素晴らしきカンナ様っ。良きお言葉ですじゃ」
「ありがとう、ジイ」
「ん? 10年前だと? 俺は聞いていないぞ?」
「そりゃ黒龍がジジイの話し聞く前にカンナの元に走ってたのが悪りぃんだろ?」
「当たり前だ! カンナが心配だったのだから。むしろ貴様はカンナを心配する心がないのか?」
「心配っちゃ心配だけど…。オレはちゃんとジジイの話しを聞いてから行こうと思っただけで、オメエが勝手に突っ走っただけだろ?」
「そんなことより、二人とも。今は祭りの席じゃ。話は後にしてまずは楽しもうではないか」
ジイはそう促すと、白龍と一緒に周りの皆に溶け込んで騒ぎ始めた。
黒龍はというと、いまいち騒ぎに溶け込めずにいるのか、テーブルからジュースをとって、塀に寄り掛かるようにして立っていた。
しばらくそのままの状態で宴を眺めていたが、やがてカンナが話しかけてきた。
「つまらなそうだな」
と、黒龍に言うと、そのまま隣に立つ。
「フンッ」
「どうしてお前はいつも不機嫌そうなんだ?」
「こんな下らんことには付き合ってられんっ。何故皆は、これが嵐の前の宴だということをわかっていながら、あんなに呑気に騒いでいられるのか。むしろ楽しんでいる気さえする」
「ハハッ、みんな祭り好きなだけだ」
カンナは笑って黒龍を見つめた。黒龍はやはり不機嫌そうに皆を見つめている。
「…俺は、騒がしいのは嫌いだ」
「どうして?」
「…フン…」
黒龍は少し言うのに戸惑いを見せたが、また祭りを眺めると、呟くように話し出した。
「…騒がしい所にいると、自分は一人だと、疎外感を感じる時がある。見えない線が一本、されど、越えられない線がそこにはある。それは俺が闇の者だからなのか。やはり俺は、ここにいてはいけない気がする。楽しんではいけないんだ」
「ここにいていいよ」
カンナは自然と言葉が出た。騒いでいる皆を一瞥すると、優しい笑顔を黒龍に向ける。
「ここにいていいよ。闇にいたからといって、楽しんではいけないと誰がいった? 喜んではいけないと誰がいった? それは関係ないんだ。見えない線などありはしない。それは自分で作り上げた、ただの幻。誰一人として、お前が何者であるかなど気にはしない。私もジイも、白龍も」
黒龍はその言葉を聞き、目頭がじんわりと熱くなる。だが、すぐにはその言葉を受け入れられない。何百年もの積み重ねが、黒龍の思いを、気持ちを歪ませていた。
「…俺自身が気にするのだ! 俺は思い知らされる。俺は一人で、辛い思いをしてきたんだと。俺は人と関わりを持てないんだと。結局俺は、闇の者なのだということがな。人を傷つけ、人に傷つけられるのが怖い、本心には決して踏み込まない。この思いは誰にも理解など出来ない。理解されない気持ちなら、始めから馴れ合わない。闇の者ということが俺の全ての行動を抑制する」
「気付いてよ」
カンナが静かに、けれど少し悲しそうに呟いた。カンナは黒龍の方を真っ直ぐに向いた。
「気付いてよ、闇の者だからじゃない。分からないの? それは黒龍自身の気持ちだよ。…確かに、黒龍は闇の者だ。それは否定できない。でも、何で、そう思うことが義務みたいな言い方をする」
「お、おい、カンナ…」
カンナは少し興奮していた。拙い言葉でやっと喋っている感じだ。けれど、しっかりとした口調だった。
「…なのに、何で、そんな考え方しか出来ない。辛い考えしか持てない。自分ばかりが傷付いているような言い方をして、周りが何も感じてないと思っているのか?」
「おいカンナっ」
黒龍が肩に手を置き、制止するも、カンナは喋り続けていた。
「黒龍は人と関わりを持てないんじゃない。何処かしら、傷付けるのが怖くて、自ら距離を置いて持とうとしないんだ。でも、それは間違ってるっ。だって…」
喋りながらカンナは泣いていた。頬を伝う涙に、黒龍は目を見張った。
「だって、人は傷付いたり、傷付けられたりしながら成長していくものだから。闇の者というだけで、自らを縛り付けたりしないでくれっ」
「カ、カンナっ」
「はじめから…自分のことを」
「カンナッ!」
黒龍はカンナの言葉を止めるかのように、カンナを抱き締めていた。黒龍の思いもよらない行動に、カンナは驚きを隠せないでいた。
「黒龍…?」
「…カンナ、すまん…。悪かった。だから泣くな…」
黒龍は、意地になって素直になれない自分を恥じた。カンナはこんな自分を受け入れてくれているのに。
「黒龍…。…私、黒龍に言いたいことが…あるのだ」
「な、何だ?」
真っ直ぐ見つめるカンナの赤い、宝石のような瞳。カンナの泣き顔が黒龍の目に映る。
(今はっきり分かった…私は黒龍が…好き、なのだな…)
黒龍は、抱き締めていた手を離すと、カンナの肩に手をやった。
「おいっ。黒龍っ! カンナ! もうそろそろ、カラオケ…が…」
と、突然、白龍はそう言いながらこっちに近寄って来た。そして、泣き顔のカンナを見つけた。
「…お、おいっ、カンナっ! どうした? 黒龍に何か変なことでもされたのかっ?」
「何て人聞きの悪いことを言うんだ白龍っ」
「じゃあ何でカンナが泣いてんだよっ?! 黒龍が何かしたに決まってるだろうがっ」
「ち、違うんだ、白龍っ。私は、その…」
「カンナ様っ、もうそろそろ、カラオケ…たいか…。カンナ様っ!」
今度はジイがカンナに近寄ってきた。騒ぎを聞きつけ、ぞくぞくと周りに人が集まってくる。
「どうしたのじゃ? まさか、白龍君に何かされて…」
「いや、違うんだジイ…」
「…は! ではまさか黒龍君に…!」
「い、いや、ジイ…。そういうわけじゃな…」
「黒龍君っ。カンナ様に何をしたのじゃっ!?」
ジイはカンナの言葉が耳に入っておらず、黒龍の方を向いていた。
「………」
「何か言ったらどうなんじゃ? 黒龍君?」
「……カンナは、俺が泣かしたんだ。すまん、ジイ…」
「黒龍、何言ってるんだっ。これは私が勝手に…」
カンナの言葉も耳に入らない程に、錯乱しているジイが叫んだ。
「何とっ! 白龍君はともかく、黒龍君までもがっ。白龍君はともかく黒龍君はいい子であると信じていたのにっ…!」
「オレはともかくってなんだよっ!」
「カンナ様禁止命令! 今日はもうカンナ様に会ってはならんっ! 地下牢での反省を命ずる!」
ジイがそう叫ぶと、何人かの警護兵がいきなりやってくる。黒龍と白龍の両腕を引っ張りながら、無理やり地下牢へと連れていく。
「おいジジイっ! 何でオレまで連れてかれなきゃなんねえんだよっ。オレは関係ねえだろが!」
「お前はついでじゃ」
「意味わかんねぇ!」
白龍はそう叫びながら大暴れした。白龍が暴れるので、警護兵は二人掛かりで白龍の腕を持って引きずっていった。黒龍の方は何も言わず、黙って警護兵の後ろを歩くだけだった。
「黒龍…」
カンナはその後ろ姿を見ながら、悲しそうな顔をしていた。
薄暗くて寒い。そんな地下牢に、黒龍と白龍は閉じ込められていた。
「まるで囚人扱いだぜ」
「………」
「黙ってないで何とか言えよ? そもそもお前がカンナを泣かしたなんて言ったから、こんなとこに入れられちまったんだぞ? ちっとは責任とれよ」
「………」
「あーぁ。オレ達はこの街を救うためにここに連れてこられたんだぜ? なのにこの扱いはひどくねえか?」
白龍が何を言っても、黒龍は黙りこくったままだった。
「な? 本当はよ。カンナを泣かしてなんかないんだろ? 黒龍?」
「………」
「何とか言えよ?」
「……俺はカンナを泣かした」
「本当か? …原因はなんだよ?」
「…フンッ、貴様には関係ないことだっ」
「…チッ。そもそもカンナと何話してたんだ? 塀のすみにいたの見たけどよ」
「………」
黒龍はまた黙りこくった。それからいくら話しかけても、黒龍は返事をしなかった。
ジイはひとまず、カンナを部屋へと連れてきた。カンナをベッドに座らせてから、ジイは深く溜め息をついた。
「全く。カンナ様を泣かせるとは…。一体何があったんですじゃ?」
「……何もない。私が勝手に泣いただけだ」
「カンナ様っ」
「私は黒龍と話しているうちに、何故か悲しくなって泣いてしまっただけだ…」
「フゥ…。ま、しばらく部屋で休みなされ。二人は明日の朝にでも牢から出しましょう。それまでゆっくり休むことじゃ」
ジイは、もう何を言っても無駄と思ったのか、そう言うと、部屋から出て行った。
カンナは自分のベッドに横になり、しばらく天井を見つめていたが、自らの腕で視界を遮断した。
暗い、何もない、そんな印象がここにはあった。ただ、闇に落ちるような感覚。
「お前はいない方がいいんだよ」
誰かがそう言った。暗くてはっきりとはわからない。
「お前はいらないんだよ。お前が生きてるせいで他の誰かが傷付くんだ」
「…何で、そんなことを言うんだ…」
黒龍はそう呟いていた。その者はその問いには答えなかった。
「一生、お前は一人で生きていくんだ。闇の者として、受け入れられることなく…」
「わかってるよっ。今更、何でそんなことを言うんだっ」
「…わかってないからさ。自分は一人でいいと言っておきながら、心の中では本当は一人になるのを怖がっている。誰かを求めている。でも、周りは受け入れないよ。そんなお前を。闇のお前を、誰が受け入れてくれると思う?」
その者は続ける。黒龍を痛め付けるように。
「このまま生きてても、お前は辛いだけだよ? ならいっそのこと、死んだ方がいいんじゃない?」
「なにっ?」
「…僕が殺してあげるよ…」
最後にその者は、何処からかナイフを取り出し、黒龍の方へと向ける。刺されるかと思い、目を閉じた次の瞬間。
「大丈夫だ、心配するな」
誰かの声が頭に響いた。優しく包み込むような声に手が届きそうな瞬間、黒龍は目が覚めた。
黒龍は、自分の頬に伝う涙に気付くと、自分の心が少し暖かくなるのを感じた。
地下牢の天井近くには、窓が一つある。そこから入ってくる外の光が、朝なのだということを示していた。黒龍は、いつの間にか寝ていたことに気が付いた。隣では毛布にくるまって寝ている白龍がいた。
「おいっ、白龍っ、朝だぞっ。起きないかっ」
「…う~ん…。…そうだよ…オレは、白龍だよ…。白いよ…」
「…何言ってるんだこいつは?」
黒龍は取り敢えず、白龍をほっとくことにし、この狭い地下牢の中で運動をし始めた。
「う~ん、黒龍の…アホ~」
「んなっ。何だとっ!」
「ガァァ~…」
「ちっ、寝言か…。しかし白龍の奴、寝起きが悪いな。しかも良くこんなとこで寝ていられるな。こんな薄暗く寒い所で。尊敬すらするぞっ」
白龍を横目で見ながら、黒龍は腹筋やら、背筋やら、 腕立てやら片足スクワットやら、壁と壁をつたって、登ったり降りたりやらをしていた。
黒龍が壁と壁を登った所の四隅に、まるでクモの巣のようにいると、白龍が静かに目を覚まし、まだ眠そうな声を出す。
「…何…変なことやってんだよ? …黒龍? しかも、お前そんなとこ、どうやって登ったんだよ? つうか、落ちねぇ?」
「俺は体を鍛えているんだ。体力のない貴様には、到底理解は出来んがな」
「……まあ、いいや…。寝よ…」
白龍はそう言って毛布にくるまると、また横になった。黒龍は壁から降り、白龍の毛布を思いっきり引っ張る。
「寝るなっ! 貴様、今何時だと思っている!」
「…え? 何時だ…?」
「今は…。えっ~と…何時…だ?」
「わかんねえのに言うなよ」
「ええいっ! 時計がないのだから仕方が無いではないか!」
「じゃ、おやすみ」
白龍はそう言い、目を瞑る。だが。
「白龍! …修業に付き合え」
「はぁ?」
寝ようとした白龍の肩をがしっと掴むと、黒龍は、真っ直ぐに白龍の顔を見つめる。
「貴様も強くなりたいのだろう? だから修業しろ」
「えぇっ? オレは今のままでも十分…」
「衝撃波…出せなかったくせに…」
「うっ」
黒龍は白龍の痛い所を突いてきた。
「俺はあんなの簡単に出来るぞっ。むしろ、新しい術をあいつらに与えてやっても良いくらいだ。あんな秘術より、強力な奴をな」
「…うっ…あ、新しい術って、どんな術だよ?」
「知りたいのか?」
「い、いや…別に…」
白龍は少し嫌そうな顔をした。
「そうかっ。そんなに知りたいのならば、今日の修業の時にでも教えてやろうっ」
「だから別に良いって…」
「強くなりたいのだろ? 白龍?」
「あ、あぁ…」
白龍は断り切れずに小さく頷いた。
所変わってここは食堂の間。カンナとジイはここで、ちょっと早い朝食を取っていた。
「ジイ。本当に今日二人を牢から出してくれるんだろうな?」
「勿の論ですじゃ。カンナ様を泣かしたことは許せませぬが、カンナ様がそこまであの二人を大切に思っているならば致し方のないこと」
「ジイ。だから私は…」
「それに、黒龍君と白龍君をもっと鍛えなければなりませぬからなっ」
ジイはウキウキとした表情をした。
「……フッ。まるで、新たに孫が出来たような喜びようだな…」
カンナが皮肉か呆れかを言葉の端に混ぜ込む。だが、ジイは気付かない。
「ちっちっち。惜しいですが孫ではないですじゃ。黒龍君と白龍君は新たに出来たわしの弟子。つまりは下僕、つまりは家来、つまりはわしの子供じゃ」
「そ、そうか…。さてと、では黒龍と白龍を迎えに行くか」
カンナは、半ばジイを避けるようにしながら立ち上がる。
「お待ちなされカンナ様。カンナ様は部屋で待っていて下され。あの二人はジイが迎えに行きます故」
そう言うとジイは、素早く立ち上がり、食堂の間から出ていった。相変わらず足だけは早い。カンナはジイを見送るように見ると、自分も部屋へと戻っていった。
カンナが部屋に戻ってから、しばらくしてジイはやってきた。だが、二人の姿は見えなかった。
「ジイ。二人はどうしたんだ? まだ連れてきてないのか?」
「それがですじゃカンナ様。黒龍君はカンナ様には会いたくないとのこと。白龍君は会いたいそうじゃが、黒龍君に付き合っている」
カンナは一瞬驚き、言葉に詰まった。
「なんで…? …ジイ、黒龍に会わせてはくれぬか?」
「今は庭にいますじゃ。修業中の故、見るだけでよろしいかな?」
「…わかった」
カンナはジイに連れられ、黒龍と白龍の居る庭まで歩いて行った。庭まで来ると、黒龍と白龍の二人は、汗だくになって体を鍛えていた。二人共、いつになく真剣な様子である。ジイはその二人を見つめながら言った。
「どういう訳か、黒龍君は、カンナ様に会っている暇があるなら、少しでも体を鍛えたいと言ったのじゃ。白龍君はそれに付き合ってる感じじゃな。二人共この短期間で随分強くなっていますじゃ。特に黒龍君の方は、何かに吹っ切れたみたいで動きが断然良くなっておりますじゃ。どうじゃ? 満足かな?」
ジイは少々得意気に言った。が、カンナの様子を見て、そんな自分を少し恥じた。
「………」
「…カンナ様。カンナ様はもう部屋へお戻りなされ。それに今日は相談の日じゃろ? ここで二人を見ていても、仕方の無いことですじゃ」
カンナは何も言わず、自分の部屋の方向へと歩いて行った。
「おい、どうしたんだよ黒龍? カンナには会わないって」
白龍が腹筋をするのをやめ、同じく腹筋をしている黒龍に話しかけた。
「貴様には関係のないことだろう。こっちには、大人の事情ってやつがあるんだ」
「大人の事情? なに大人ぶってんだよ?」
「大人ぶってない!」
「あ、さてはお前、カンナの気持ち聞いたんだな? だから大人の事情とか、そんなこと言ってんだな?」
「ん? そういえば、カンナの奴、俺に言いたいことがあると言っていたが…。はっ! あの時貴様が邪魔したせいで聞けなかったではないかっ! 貴様がカラオケ大会などと言って、無駄に騒ぐからっ!」
「何だと!? お前がカラオケ大会楽しみにしてると思って、わざわざ教えてやったんじゃねえか!」
「…くそっ、結局カラオケ、出来なかったではないか…」
黒龍は心底悔しそうに肩を落とした。
「あっ、やっぱ歌いたかったんだな?」
「当たり前だ」
「これっ! 修業をサボってなに言い争ってるんじゃ!」
ジイが横から現れた。そして二人の怒りの方向は、ジイへと向けられた。
「元はと言えば貴様が悪い!」
「元はと言えばお前が悪い!」
二人は同時に言った。しかし、ジイには何のことかわからず、きょとんとしている。
「…オホン。何を言い争ってるかは知らぬが、修業の続きをするぞ。まだまだ強くなりたいのじゃろ?」
ジイがそう言うと、黒龍は急に真剣な顔付きになった。
「当たり前だっ」
「うげぇ。まだやんのかよ…」
「…フンッ。体力のない貴様はせいぜい休んでいるがいいっ」
「なっ! オレだってまだやれるぜっ!」
「フンッ」
「これっ! さっさと始めるぞっ!」
黒龍と白龍は修業を続けた。インド三日目の朝である。




