十一 「翠嵐~黒龍恋愛珍道中~」
冬のある日。天気は快晴だが、空気は冷たい。
そんな日に、駅に立つ三人の姿。
「何か、寒いな…」
「しょうがねぇじゃねぇか。みんな今日しか空いてないんだしよ」
黒龍と白龍、ついでによしおである。
待ち合わせの時間、十五分前。
気温は10度。マフラーは欠かせない。
「みんな、来るんでしょうかねぇ?」
よしおはコート、マフラー、手袋、それに帽子に耳当てまでしている。因みにお腹には腹巻き。
「…にっしても、よしお。そりゃ、いくらなんでも重装備過ぎねぇか?」
「寒がりなんですよ、俺」
「全く。修行が足らんからだ」
三人がそんな話をしている中、待ち合わせの時間になった。
しばらくして、向こうから、優子、梨花、真菜が歩いて来るのが見える。
「うふ。こんにちは白龍さん」
梨花はわざわざ、白龍にだけ声を掛け、白龍にだけウインクをした。
「今日はありがとうございます。お誘いいただいて」
優子は丁寧にお礼を言い、頭を下げた。
「いや、もとはと言えば、こちらのせいなのだ。モデルの話は無くなってしまったのだからな。もちろん、これで許してもらえるとは思っていないのだが…」
「はい。今日はお詫びに、たっぷり付き合ってもらいますから!」
優子はそう言って、二人にウインクをした。
「め、女神様!」
白龍は、優子のその行動に、女神様の面影を見て、つい口走ってしまった。
「は?」
「あ、い、いや…」
梨花に抱きつかれながらも、白龍は上の空で、女神様のことを考えていた。
(そういえば、女神様はウインクとか、そんなこと一度もしなかったな。それに性格も、どっちかというと、キツめだし…)
「ちょっと白龍さん! あたしをほっといて、何考えてんのよ!?」
「真菜さん、みゆきさんはどうしたのだ? 姿が見えないのだが…」
黒龍は、美幸の姿をキョロキョロと探した。
「も、もうそろそろ来ますよ…」
真菜のその挙動不審に、黒龍は首を傾げた。しかし、すぐにその理由が分かった。
「お、お待たせ~。黒龍さん。白龍さん…」
「………」
何と美幸の後ろには、やはりというべきか、結月がいた。
とにかく格好良いその姿は、周りにオーラを放っているようにも見える。
「んな!?」
「ああ…やっぱりか…」
白龍は二人の姿を見た後、苦笑しつつ黒龍に目をやった。
「取り敢えず行こうぜ…」
みんなは電車に乗り、“さとうめマジカルランド”へと向かった。
因みに電車に乗っている時、結月は美幸の肩に手を乗せ、いかにも黒龍に見せつけていた。
一行はマジカルランドについていた。
「…こ、これが、遊園地なるものなのか…」
「黒龍さんは、遊園地初めてなの?」
「あ、ああ。みゆきさん」
「ムッ。みゆ、あっちへ行こうっ!」
結月は美幸の手を引っ張り、さっさと中へ入っていった。
「あ、みゆきさん!」
「待てよ黒龍!」
「白龍さん!」
「ちょ、待って下さいみんなぁ!」
皆が皆、引きずられるようにして、中へと入って行った。
「…ハァ、ハァ…。あ、みゆきさん。一緒に観覧車に乗りませんか!」
黒龍が二人に追いついたのは、ちょうど観覧車の前だった。
黒龍は、美幸に手を差し出して、エスコートしようとした。
「みゆ、こんな奴と乗ることないぞ!」
「え? でも…」
「俺と乗ろう! みゆ!」
「え、ちょっと結月…」
結月は美幸と、強引に観覧車に乗った。
美幸の顔は満更でもなかったが。
結月は少し不機嫌そうな顔を、観覧車の中から黒龍に向ける。
「ああ! みゆきさん!」
「あきらめろ黒龍。あの二人はラブラブだ。邪魔すんなよ、黒龍」
いつの間にいたのか、白龍とよしおと梨花が後ろにいた。
「…優子さんと真菜さんはどうしたのだ?」
「それが…はぐれてしまったみたいで…」
「何!? しょうがない。俺は白龍と乗るか…」
「何でだよ!? オレだって嫌だよ!! ってか、男同士で乗って、何が楽しいんだよ!?」
「じゃあ、あたしと乗りましょ。白龍さん!」
「え、い、いや…」
梨花は強引に、嫌がる白龍の腕を引っ張り、観覧車へと乗せてしまった。
観覧車の中から白龍の悲痛な視線が投げられるが、もうどうしようもなかった。
取り残された黒龍とよしお。
しばし見つめ合う二人。
だが、次の瞬間には、何故か観覧車に乗る二人であった。
結月と美幸は、少し気まずい雰囲気に包まれていた。
「みゆ。何でいつもあいつの言うこと聞くんだ? 今回の遊園地だって、あいつに誘われたんだろ?」
「だって黒龍さん、しつこいし…。断りきれないよ…」
「あいつの名前は口にするな。まだ中学生の癖に、俺の美幸にちょっかい出して…」
「結月」
結月は美幸をそっと抱きよせると、そっと唇にキスをした。
「みゆは、俺だけのみゆだ」
「結月…」
何とも幸せそうな二人である。
一方変わって、こちらは異様な雰囲気に包まれていた。
向かい合って座る、白龍と梨花。
梨花は強引に白龍を乗せたにもかかわらず、手を膝の上でモジモジとさせていた。
「白龍さん…」
(何か、見合いみたいになってねぇ…?)
白龍は少し青ざめていた。
梨花はやがて焦れたように、顔を赤らめながら言ってきた。
「あ、あの、白龍さん」
「あ?」
「あたし、あたし! 白龍さんのこと、前から!」
白龍は、梨花の言いたいことが大体、いや、100%予想が付いた。
どうしようもなく、おどおどするしかない白龍である。
「アイラヴューン!! 白龍!!」
梨花は白龍の唇を奪おうと、身を乗り出してきた。
「ヒー! 助けて~!!」
観覧車が激しく揺れた。白龍あやうし。
黒龍とよしお。二人は意外にも真面目な話をしていた。
「黒龍さんは、どうして白龍さんと一緒に暮らしているんですか?」
「あぁ。それは女神様から俺たち龍神に、害のあるものを倒せという命令をされたからだ。だから、害あるものを見つけ倒せば、白龍は天界へ、俺は闇の世界へまた帰らねばならん。しかし、女神様は俺と白龍に、妙な繋がりがあると言っていたが、一体何なのだろうか…」
「だから、中二病は発動しなくていいですから…」
「だ・か・ら! 俺は千四百年生きている闇の…!」
「わかりましたよ、わかりました!」
「フン…全く」
これ以上何を言っても、頭の悪いよしおには、理解出来ないと思ったのであろう。
黒龍は、話題を変えた。
「それにしても、お前、あの梨花って奴が好きなのだろう?」
「えっ!? なな、何言ってるんですか!」
よしおは顔を赤らめ、激しく動揺した。
「わかるぞ。真菜さんと優子さんははぐれたのに、お前はついて来たし。梨花さんの裾を、こっそり掴んでいたからな」
「ば、ばれてる…」
「ん、あそこを行くは、優子さんと真菜さん! み、見失ってしまう! 降りねば…」
「や、やめて下さい黒龍さん! 大体、どうやって降りるんですか。窓も開きませんし…って、何してんスか!」
よしおは、窓を蹴破ろうとしている黒龍を、必死に後ろから羽交い締めにして止めた。
「こんな上から落ちたら死にますよ!」
「大丈夫だ! 俺は黒龍だからな!」
「いや、 そういう問題じゃ無く…」
「あっ! …ほら見たことか! 貴様が止めるから、二人を見失ってしまったではないか!」
黒龍は、よしおの手を払いのけ、苛立ちも隠さずに椅子にドカッと座った。
「フンッ!」
(…アァ、やだなぁ…。何で俺、こんなとこきちゃったんだろう…。梨花さんだって、白龍さんと乗っちゃったし…。大体なんで俺、黒龍さんなんかと…。下で待ってれば良かったのに…。そうか…きっと黒龍さんが怖かったんだ…。うん、それもあるけど、何で二人は中学生同士なのに、一緒に住んでるのか聞きたかったんだよな。なのに黒龍さんは、中二病の話ばっかりで、まともに聞いてもくれないし…)
よしおは、黒龍と乗ってしまったことを後悔しだした。だんだんと体が下に向いていくのが分かる。
そんな頃、白龍はというと、梨花の熱~いキスから、間一髪、難を逃れていた。
(あ、あぶねぇー…)
「チッ!」
梨花は、激しく舌打ちをした。
白龍は、梨花のその形相が怖かったので、聞かなかったことにした。
「あ、あのさー。一つ聞いていいかな?」
「うふ、なんですか?」
「何で、オレなの?」
「…だって、あの人ったら、全然…」
「あの人?」
「あ、何でもないわよっ…」
「もしかして、よしおのことが好きだったりして…」
「な、何で分かったの!?」
(図星かよ…)
「だって、健悟君ったら、全然あたしに告白してくれないし…」
白龍は心の中で呆れた。しかし、一つ疑問に思うことがある。
「じゃあなんで、さっきキスしようとしたんだよ!?」
「それは…白龍さんが格好良いから。あたし白龍さんのファンだし」
白龍は、うんざりした顔をした。
「おい。多分よしおも梨花のこと、好きだと思うぞ」
「えっ?」
「あの態度を見りゃ分かる。それに梨花も、自分から告白すればいいのに…」
「だって、あたし、男の人に告白されるのが、夢だったんだもん」
「けど、よしおの奴、かなり奥手だぞ。自分からいかなきゃダメだと、オレは思う」
「そっか…。ありがとう白龍さん」
梨花は白龍の頬にキスをした。
白龍は、キスされた頬を触ると、梨花のいきなりの行動に驚きを隠せなかった。
「なっ! なな…」
「うふ、お礼よ。あたし、白龍さんのファンは止めないから」
梨花は白龍に、ウインクをした。白龍はまたもや、うんざりとした顔になった。
傍目にも分かるほど、よしおは落ち込んでいた。
そんなよしおを見兼ねて、黒龍は溜め息を付いた後、言った。
「そういえば…」
目だけ黒龍に向けるよしおである。
「今日、雪が降るかも知れないんだったな」
「え? 天気予報では何も…」
「何を言っているのだ。そのくらい、空を見れば分かる。俺は龍神だからな。元来龍は、雷、風と共に現れるというのだぞ。それに雲を呼び、雨を降らせることも出来る。白龍も、気付いているのではないか?」
黒龍は、窓の外に目をやった。
観覧車も、もう終盤に差し掛かっている。
結月と美幸は、もう既に降りて、下で待っていた。
別に待つ必要もない、と結月も思っていたが、一言黒龍に何か言わなければ、気が済まないでいた。
程なくして、白龍、梨花、そして黒龍、よしおが、観覧車を降りた。
「みゆきさん!」
黒龍が、わき目も振らずに、美幸の元へ走ってきたので、結月は、黒龍の前に立ちはだかった。
「お前、みゆに近付くなよ! 嫌がってるのが分からないのか!?」
「なっ!? …み、みゆきさん…、嫌、なのか…?」
美幸はしばしの間を置くと、コクッ、と小さく頷いた。
「ガーーーーン!!」
顔面蒼白の黒龍である。そんな黒龍を皆はほっとき、よしおが小声で白龍に言った。
「あの、白龍さん…、梨花さんと何かありました?」
「ああ、ヤバかったぜ。いきなり襲いかかってきてよ。危うく、オレの唇を、奪われそうだった…」
「え!?」
「そんなこと聞いてくるなんて、お前やっぱり、梨花のことが好きなんだな?」
「は、はい。中学・高校の時の先輩で…。でも未だに言い出せずにいるんですよ。黒龍さんにもばれて…」
「黒龍は、自分のことは鈍感なくせに、人のこととなると、何故か敏感だからな…」
白龍とよしおは、チラッと黒龍の方を見た。
「ハッハッハッハッハッハッ!」
「おい、黒龍…。まさか自暴自棄になってんじゃねえよな?」
「違うぞ白龍! 俺は決めたのだ! みゆきさんに好かれるまで、俺はあきらめんとな!」
(…美幸さんにとっては、迷惑な話だな…)
白龍は前言撤回した。
黒龍は人の気持ちにも鈍感だ。
そして白龍は、黒龍に対しての見方も変わらない。ただの我が儘、自己中、強欲、女好き、ナルシストであることを。
六人は、優子、真菜と合流でき、思いっきり遊んだ。
ジェットコースター・メリーゴーラウンド・空中ブランコ・コーヒーカップにミラーハウス。
しかし、どれを乗るにも、結月と美幸は二人一緒であった。
因みにその間に、よしおと梨花は、いつの間にかデキていた。真菜と優子は親友。結局この間、黒龍と白龍は二人で乗るしかなかったのだった。そして次は、お化け屋敷だ。
「お、お化け屋敷…ゴクッ」
白龍は息を呑んだ。ここのお化け屋敷は、とにかく怖いと有名なのである。そんな白龍の様子に、黒龍は、からかい甲斐があるとふんだのか。
「どうした白龍? 顔が青いぞ? まさか怖いのか?」
ギクッ!
「そ、そんなわけねえだろ! お化け屋敷…最高だぜ、ハハッ…」
これ以上馬鹿にされては困る。と、白龍は負けじと言い張った。
「では、さっき、ギクッとしたように見えたのは、俺の気のせいか…」
「あ、当たりめえだよ…!」
白龍の意地っ張りの様子を面白がる黒龍は、優しくこう言ってみた。
「…そんなに怖いなら、手を握っててやろうか?」
「ああ、頼む…」
白龍もその優しい口調に、思わず本音が出るが、すぐに首を振る。
「じゃなかった、いらないね、そんなの。オレは一人で入れるぜ」
「さて、みゆきさん。俺と一緒に入りませんか?」
黒龍は白龍を軽く無視し、美幸に手を差し伸べた。
「え?」
「ちょ、黒龍! オレはどうなんだよ!」
「お前は一人で平気なのだろう?」
「うっ…」
白龍は自分の言葉に後悔した。
いざとなったら、この場から逃げようとさえ思った。しかし。
「黒龍さん、白龍さんと入ってあげて」
「え? 何故ですか? みゆきさん?」
「あんなに怖がってるんだもん。一人で行かせちゃ可哀いそうよ」
「おい、みゆ! 行こう!」
「あ、結月?!」
美幸と結月は、またしても二人で行ってしまった。
「ああ、みゆきさん…」
「な、なあ、オレ達は、休まねえか?」
白龍は何とか逃げ道を作ろうとした、が。
「追うぞっ白龍!」
「へっ?」
黒龍は白龍の腕を引っ張り、無理矢理にお化け屋敷へと入って行った。
黒龍と白龍の二人は、お化け屋敷の中を歩いていた。
「みゆきさん、みゆきさん、みゆきさん」
「お、い、黒龍。あの二人のことは…あきらめようぜ…。入り込む余地なんてねえよ…」
白龍は黒龍の後ろに、へっぴり腰でへばり付いていた。
「おい白龍…もうちょっと離れてくれないか? 歩きづらい…」
「そう言って、オレを置いて、走っていっちまう気だろ!」
「全く、疑り深い奴だ。そんなこと、俺がすると思うか?」
「黒龍の今までの言動から察するに、大いに有り得るね!」
白龍は、黒龍の服の裾を、掴んで放さない。
(……まあいいか…)
《キャーーー!!》
「!!」
遠くから悲鳴が聞こえ、 その声に、黒龍も白龍もびくついた。
「オレ、苦手なんだよ…。お化け屋敷の幽霊よりも、遠くから聞こえる人の悲鳴がよ…」
「何だ、やっぱり苦手なのではないか…」
「何言ってんだよ。黒龍だって、今びびってたじゃねえか」
「貴様こそ、何を言っている。そんなこと、あるわけなかろう。今のはただ、声に驚いただけだ」
ガシャーン!!
「ギャーーー!!」
白龍は、突然目の前に現れた人形にびびり、思わず走り出した。
「おいっ、白龍! 一人だと危ないぞ!」
慌てて黒龍が、後ろから追いかける。
すると今度は、上から冷たい物が二人の首筋を撫でる。正体はコンニャクなのだが、今の白龍にとっては、それで十分だった。
「ギョエーーー!!」
「白龍、コンニャクだ…。っておい!」
まともや一目散に走り出す、白龍である。
走り疲れた二人は、息を切らして止まった。
「おい…な、なんだよ…。コンニャクならコンニャクって…、始めから言えよな…」
「いや、始めから予告していたら、何の意味もないだろ」
休んだのも束の間、いきなり異様な空気が流れ始める。
すると、後ろから突然、病院着を着た、顔のただれたゾンビがこっちへゆっくり、ゆっくりと歩いてきた。
「のわ~~~!!」
白龍は全速力で、走って、走って、走りまくる。黒龍もその後を慌てて追いかけていく。そうしていくうちに、いつの間か、お化け屋敷の外へと出ていた。
「ハァ、ハァ、ハァ…」
「だ、大丈夫? 二人共…?」
「みゆきさんっ?!」
何と外で待っていた、美幸に情けないところを見られてしまった。呆れた目で、結月はもちろんのこと、梨花もよしおも優子も真菜も、二人を見ていた。
「お、俺は違うぞ! 白龍があまりに怖がり、走って先に行ってしまうものだから、付き合って走っていただけだ!」
「しょうがねえだろ! マジで怖かったんだからよ!」
「…まあまあ、二人共。取り敢えず少し休みませんか? あのゲームセンターにでも入って…」
真菜がそう言って、遊園地内にある、小さなゲームセンターを指した。
「それって真菜が行きたいだけでしょ?」
「うんっ!」
優子が笑って言うと真菜は大きく頷いた。
真菜はゲームセンターが大好きなのである。
一同は、ここにいても仕方がないので、ゲームセンターに入った。
ゲームセンターに入るなり、真菜は物凄い勢いで、ゲームをやり始めた。
「おりゃおりゃおりゃー!」
その気迫に、黒龍と白龍の二人は、気圧されつつある。だが、他の五人は見慣れているらしく、気にもしていなかった。
そんなことはさておき、美幸がUFOキャッチャーを見て叫んだ。
「きゃー! これって今人気の『バイオレンスウサギ』じゃーん!」
美幸はUFOキャッチャーの中のぬいぐるみを見て、嬉しそうに叫んだ。
──バイオレンスウサギとは、今、巷で人気の、アニメキャラクターのことである。
ウサギ型のぬいぐるみなのだが、逆三角の目に、手には鉈。ヘそにはボタンで、しっぽはなく、『ぬいぐるみの街』に夜な夜な姿を現しては、自分のしっぽを切った相手を捜して、しっぽを取り戻そうとしているのである。
「格好良いんだよねー。特に、番組の最後に毎回呟く、『こいつも、おれのしっぽを持っていなかったか…』のセリフが、凄いシビれるんだよねぇ~」
美幸はそう言うと、結月の方を向いて、
「取って、結月っ」
と、可愛くお願いをした。黒龍は、その美幸の姿を見逃さなかった。
「こんなぬいぐるみの何処がいいんだよ、みゆ?」
結月は呆れ顔である。
と、言いつつも、結月はUFOキャッチャーに挑戦する。だが、ぬいぐるみはそう簡単に、取れはしなかった。
「残念~」
「次は俺がやってやる! 見てて下さい、みゆきさん!」
黒龍は、結月を押し退け、UFOキャッチャーの前に立ち、ぬいぐるみを取ろうとした。だが、やはりぬいぐるみは無情にも、滑り落ちる。
「何~~!? 結構難しいのだな」
黒龍は今度こそと思い、お金を入れた、だが。
「はい、美幸さん。二個取れたから、一個あげます」
何と黒龍の後ろでは、真菜がもう一台あったUFOキャッチャーから、バイオレンスウサギをGETしていたのであった。その様子を落胆の表情で見ていた黒龍の後ろで、無情にも、時間切れで自動的に動き出したUFOキャッチャーが、ぬいぐるみにかすりもしなかった。
「ありがとう、真菜」
「いえいえ。あたし、得意なんですよ。それにしても『バイオレンスウサギ』って、格好良くて、それでいて、可愛いですよね~」
「真菜、私にも取って~!」
「あたしにも!」
真菜は、優子と梨花にも、バイオレンスウサギを取ってあげた。
この真菜の行動により、男共のメンツは丸潰れであったのだが、そんなことは気にしない女性陣は満面の笑みを浮かべ、ゲームセンターを後にした。
「あ…!」
皆がゲームセンターから出た時、ふと、急に美幸はめまいを起こしたようで、結月の方へもたれかかってしまった。
結月はそっと、美幸を抱き留める。
「みゆ!」
「ど、どうしたのだ? みゆきさん!」
心配になった黒龍が美幸に触れようしたその瞬間、何と美幸が黒龍の手を思っきり払いのけた。黒龍は、その瞬間、何が起こったのか、理解が出来ないでいた。
「みゆきさん!?」
「触んじゃねえよ!」
美幸の口から驚くべき言葉が出た時、一同の空気は、一瞬にして凍ってしまう。
「どうしちゃったんだよ?! 美幸さんに、一体何が起こったんだ?!」
白龍と黒龍は、こちらを鋭い目で睨み付ける美幸に、慌てふためいていた。しかし、他の四人は事情を知っているのか、冷静に事の様を見ている。
「おい」
黒龍は、なかなか口を開こうとしない皆を一瞥し、最後に結月の方に向いてこう言った。
「みゆきさんは、一体どうしたというのだ。突然倒れたかと思えば、この変容ぶり…それに、皆は事情を知っているようだし…」
結月は黒龍と目を合わせなかった。
苦しそうに息をする美幸。黒龍はその美幸の様子を見て、苛立ちも押さえず結月の胸ぐらを掴んだ。
「貴様! 何を隠している!」
「ちょっ、待てよ黒龍! やめろよ! 人には色々事情ってもんがあんだろっ! 結月君も、言いたくないなら言わなくていいからな」
「しかしっ…」
白龍は、黒龍の腕を結月から離し、制した。結月はばつが悪そうな顔をし、美幸を見た。そして、静かに口を開いたのだった。
「…い、依存症だったんだ…」
「何?」
「みゆは…薬物依存症だったんだ、昔…。それは何とか克服出来たんだけど、その代わりに、タバコを吸うようになって…それで、しばらくの間タバコを吸わないと、人格が変貌してしまうんだ…」
黒龍と白龍の二人は、動揺を隠せず、美幸と結月をただ見ているしかなかった。
(…タバコを吸わないと人格が変貌…?)
黒龍と白龍は病気については何も知らない。しかし、現に美幸の様子は、明らかにおかしくなっている。結月は美幸を喫煙所へと連れ出し、タバコを吸わせた。
「みゆ、大丈夫か?」
「あ、ありがとう、結月…」
「そんな…みゆきさん…」
黒龍はショックを受けていた。清純そうな美幸の裏に、そんな事情があり、しかも結月はそんな裏の顔を知っていても、それでも美幸を好きだと言う。黒龍は負けた気がした。
「…結月とやら…。どうやら…俺の負けのようだな…」
「…お前ははじめから負けてんだよ…」
白龍は、黒龍に聞こえないように呟いた。その言葉に、周りの四人は頷く。しかし、結月は静かに言った。
「…勝ち負けなんて関係ない。大切なのは美幸の気持ちだけだ」
「結月…」
結月の顔は真剣そのもので、一段と輝いていた。その結月の顔に、美幸は改めて惚れ直したのだった。
もう夕日が沈みかけようとしている中、最後にもう一度だけ、今度はみんなで観覧車に乗ろうということになって、皆は観覧車に向かう。
歩きながら、白龍は隣を歩くよしおに聞く。
「おい、よしお。さっきの『バイオレンスウサギ』って、何なんだよ? そんなに人気なのか?」
「そうですよ! まあ、俺も良く分からないんですが…、何故か女子の間で流行ってるんですよね。俺も梨花のために取ろうとしたんだけど」
「ふーん」
白龍は、理解できない、というような顔をした。白龍は少し、寒気がして、腕の辺りをこすった。その様子に、よしおが思い出したような顔をする。
「あ、そういえば、今日雪が降るそうですよ。黒龍さんが言ってました。…あれ?」
よしおは、頬に何か、冷たい感触を感じた。
上を見上げると、見事に空から雪が降ってきていた。
「あ、雪だ! みなさん、雪ですよ!」
「えっ…」
白龍は、よしおの言葉に驚いた様子で、慌てて上を見上げた。揃って一同も、上を見上げ、声を漏らした。
「まさか黒龍さんの予言が当たるなんて…」
「まさかとはなんだ! それに予言ではなく、単なる、予報だ。もちろん白龍も、当然気付いていたよな? 龍神なのだから」
黒龍はからかおうと、白龍の方を向いた。
白龍の様子はというと、上を見上げたまま硬直している。
微かに震えてもいるようだ。
「白龍…?」
「…あ、ご、ごめん! オレ、用事思い出したから帰るよ!」
「え? 観覧車は?」
そう言うみんなの声を聞かず、白龍は、一目散に出口の方へと走って行ってしまった。
「おい、白龍!?」
怪訝な顔をしていた黒龍は、不安な声で、白龍の名前を呼んだが、白龍は立ち止まることはなく、姿は小さくなっていくばかりである。
そして白龍は、とうとう遊園地の外へと、出て行ってしまった。
その様子を見ていた黒龍は、怪訝な顔を不安な顔へと変えていた。
「…すまん! 俺も抜ける!」
「黒龍さん…」
美幸が心配そうに、黒龍を見つめた。
「白龍… (あいつのあんな顔…今までに、一度だって見たことない…) すまぬな…!」
黒龍は、白龍を慌てて追いかけた。




