↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「愛人に帳簿は読めますか?」十年間領地を支えた私を捨てた夫へ。あなたの領地が財政破綻しても、もう戻りません。  作者: 抑止旗ベル
第三章 燃えた帳簿と、死者の了承

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/42

消えた仮保管簿は、領地の外へ出ていませんでした

 朝の支払予定表で、セラフィーナは兵士の給与停止まであと七日と確認した。


 食料購入までは十五日。


 立替金の受領証、短期立替契約書、兵士給与の支払予定表を順に並べる。用途は兵士給与に限る。食料や別の支払いへ回す欄は、最初から作っていない。


 給与資金の道筋は守られた。だが、領地の資金不足まで消えたわけではない。セラフィーナは食料購入の日付を指先で押さえ、それから古い確認簿を開いた。


 昨日見つけた文書番号の末尾は、火事の後にも失われたはずの帳簿を確認した記録に残っていた。


 ユリウスが閲覧台帳へ文書名と時刻を書き、セラフィーナは確認簿の頁をめくる。


 そこには帳簿名の代わりに、別扱い帳簿束、仮保管分、とだけ記されていた。


「受領者も、送り先もありません」


 荷馬車の印も、外へ運び出す許可もなかった。


 記録は、帳簿束が確認されたことだけを示し、その後どこへ置かれたかを意図的に言わないように見えた。


 確認した印の横には、保管確認手数料の控えと似た小さな記号がある。


 数字の末尾も、北部へ送られた帳簿束の移送記録と同じ並びだった。


 帳簿そのものを指す名は残さず、番号だけで帳簿束を動かす。三年前に権利を担保へ入れた記録と、同じやり方だった。


 セラフィーナは火事の翌日から数日間の往来記録を机へ広げた。


 北門と南門を出た荷、使者、食料を運ぶ荷車。日付ごとに確認簿の記録と照らしていく。


 外へ出た荷には荷主か行き先が残っている。けれど別扱い帳簿束と重さや冊数が一致する荷は、一つも見つからなかった。


 さらに、館の外から帳簿を受け取った者がいれば残るはずの受領控えも確認した。そこにも、該当する番号はない。

 記録が完全であるとは限らない。火事を起こせる者なら、荷の記録まで隠すことはあり得る。


 それでも、正規の手順で帳簿束が領地を出た形跡は、どこにもなかった。


「領地の外へ出た記録は、見つかりません」


 ユリウスは記録を見たまま答えた。


「ならば、館にあるのか」

「そうとは断定できません。記録を残さず外へ出した可能性までは消せません」


 セラフィーナは慎重に続けた。


「ただ、北部から転送された後、領地内のどこかへ戻された、あるいは領地内で保管先を隠された可能性は高くなりました」


 火事で帳簿が燃えたなら、探す者は灰の中を見る。


 しかし火事の前に棚から外され、火事の後にも確認されていたなら、探すべきなのは失われた頁だけではない。


 今も誰かが触れられる場所に、帳簿束が残っているかもしれなかった。


 セラフィーナは、差出人のない要求書を取り出した。


 原本を確認のため仮保管に付すこと。そう書かれた紙には、北側の三段目、窓から二番目という、火事前の棚位置まで記されていた。


「この手紙を書いた者は、原本だけを欲していたのではないのかもしれません」

「帳簿束の場所を確かめるためか」

「はい。相手は帳簿を失ったと思っているのではなく、まだ見つかっていないことを恐れているのかもしれません」


 誰が手紙を置いたのかは分からない。


 元徴税官の記録と同じ言葉があっても、同じ人物が書いた証拠にはならない。けれど仮保管という名目が、帳簿と金の行き先を隠すために使われてきたことは、もう見過ごせなかった。


「館を探させるか」

「無差別にはできません。帳簿を探す者が増えれば、保管先を知る者へ知らせることになります」


 セラフィーナは別紙に順序を書いた。


 火事後に別扱い、仮保管と記された帳簿や箱、収納場所の記録。


 火事前後に館内で帳簿を運んだ者の受領控え。


 保管確認手数料と火事後の確認簿。


 そして、要求書が示した棚位置と旧帳簿庫に残る収納記録。


「記録から、探す場所を狭めます」

「二人確認と閲覧台帳は変えない」


 ユリウスは頷いた。


「必要な記録を開け。原本を見つけても、その場で動かさず私へ知らせろ」

「承知しました」


 管理所へは、怪しい担保処理の停止が続くことを改めて伝えた。正規の通行料、木材搬出料、市場使用料は、これまでどおり受領証を渡して徴収する。


 過去の帳簿を探すために、今日の収入を止めることはできない。兵士の給与も、食料の購入も、今入る正規の金を数えて初めて守れるからだった。


 午後、セラフィーナは市場使用料の日次帳簿を確認した。


 商人が示した受領証は、領地側の控えと金額も日付も一致している。立替金の契約書も、商人側と領地側に同じ文面が残る。


 今なら帳簿束を一冊消しても、支払った側の紙までは消せない。


 過去と同じ手口を、今日の収入へは使わせない。その小さな確かさが、探す手を支えた。


 夕方、旧帳簿庫の収納記録を照らしていたセラフィーナは、一行で指を止めた。


 帳簿名はない。ただ、返送済み・確認待ちとだけある。


 その末尾には、北部への移送記録と同じ系列の文書番号が付されていた。


 返送先も、受領者も書かれていない。


 彼女はその一行を、すぐに二通へ写し取った。


 それでも帳簿は北部で消えたのではない。誰かは領地へ戻した後、もう一度だけ、見つからない場所へ隠していた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。