次に奪われるのは、市場の収入でした
朝の支払予定表を開き、セラフィーナは兵士の給与停止まであと十五日と確認した。
食料購入の期限は、あと二十三日。その二つの数字を見比べてから、彼女は昨日の台帳の頁を開いた。
担保処理の記号が付いた、名の伏せられた収入。
文書番号を領地収入の記録と照らすと、答えはほどなく見つかった。
「市場の使用料です」
向かいで写しを確認していたユリウスが、顔を上げた。
「荷を並べ、売買する商人が納めるあの使用料か」
「はい。通行料や木材搬出料と同じ系列の番号が使われています」
市場は、領民が食料を手に入れる場所でもある。外から運ばれた穀物や塩も、まずはそこで荷を下ろすことが多い。
その収入が領地の手を離れれば、金が減るだけでは済まない。
古い市場使用料台帳には、他の権利と同じ担保処理の記号が残っていた。
承認者欄は空白で、文書番号の末尾も書き換えられている。
さらに、正式な使用料とは別の欄に、受領証の番号がない支払いがいくつかあった。
「場所確認料、ですか」
セラフィーナは読める箇所を指でなぞった。
「どの場所を、誰が確認したのかも記されていません」
金額よりも、その曖昧さが問題だった。商人は荷を広げた後に別の金を求められ、紙も残らなければ、次に市場へ来ることをためらう。
支払う先が二つになれば、食料を運ぶ者は別の町を選ぶかもしれない。
市場の使用料は、領地収入である前に、暮らしへ品物を運び込む道でもあった。
◆◆◆
昼前、セラフィーナはユリウスと市場へ向かった。
荷車のそばで、食料を運んできた商人が古い控えを見せた。端の擦れた紙には、使用料の横に読めない書き込みがある。
「前は、荷を下ろしてから別の紙を渡されました。次にいくら要るか分からないから、持ち込む日を決めにくかった
のです」
「これからは、使用料の額と理由を先に掲げます」
セラフィーナは静かに答えた。
「支払いには二通の受領証をお渡しします。領地の控えと同じ番号です。紙のない追加負担を求められた場合は、支払う前に管理所へ知らせてください」
商人は受領証の見本を見た。
「それなら、荷を持ち込む日を決められる」
大げさな言葉ではなかった。だが、セラフィーナにはその重みが分かった。
商人が予定を立てられれば、領民も必要な品を待てる。数字を明らかにすることは、誰かの予定を守ることでもある。
商人は古い控えを折り畳み、新しい見本と重ねた。
「前の紙には、場所確認料の理由がありません。払ったことだけを示して、何に払ったのかは残らなかった」
「だからこそ、今回の受領証には理由を記します」
セラフィーナは答えた。
「市場を使う方が、支払いを確かめられることが必要です」
商人は頷き、荷車へ戻っていった。
その背中を見送りながら、セラフィーナは帳簿の数字の先に、明日の市場を思い描いた。
市場の管理者が持ってきた日ごとの荷の記録には、穀物、干し肉、塩といった品の名前が並んでいた。量は記されていても、使用料を納めた者ごとの記録は抜けている。
「合計だけでは、誰から受け取ったのか確かめられません」
セラフィーナは言った。
「市場を使う商人が自分の受領証を持ち、こちらにも控えが残れば、後から別の名目を足しても隠せなくなります」
管理者はすぐに頷いた。
「今日から、荷を下ろす前に額を示します」
その返事に、ユリウスは市場の入口を見た。掲示板を置く場所を確かめるような視線だった。
領地が商人へ一方的に命じるだけでは、品は集まらない。納める理由と額を明らかにして初めて、互いに次の取引を約束できる。
ユリウスは市場を管理する者へ、セラフィーナの提案を命じた。
市場の入口へ使用料と理由を掲げること。支払者へ二通の受領証を渡すこと。日ごとの記録を残すこと。台帳と担保台帳の写しを別に保管すること。
「受領証のない請求を受けた者は、支払う前に管理所へ来るように」
領主の声は市場のざわめきに沈まず、短く届いた。
その場で、セラフィーナは新しい受領証の控えに、使用料の理由を省かず記した。
被害が起きてから、消えた金を追うのでは遅い。払う前に確かめられる記録があれば、失わせないために帳簿を使える。
執務室へ戻る道で、ユリウスが言った。
「通行料、木材搬出料、市場使用料。別の収入に見えても、同じ流れで担保へ入れられていたのか」
「その可能性は高いと思います」
セラフィーナは抱えた写しを見下ろした。
「一つずつ守るだけでは足りません。この記号が付いた記録を、領内すべてで探すべきです」
「必要な台帳は開かせる」
ユリウスは迷わなかった。
「横断して照合してくれ。何を守るべきか、先に知りたい」
「承知しました」
夕方、セラフィーナは市場使用料台帳をもう一度開いた。
同じ系列の文書番号の脇には、次の処理へ続くことを思わせる小さな記号が添えられている。
次に何が狙われるのかは、まだ読めない。
だが、通行料でも、木材でも終わらない。誰かは領地の暮らしを支える収入を、一つずつ担保へ沈めようとしている。




