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女帝の死神は玉座を喰らう〜最強の死神は、女帝を救うため帝国を喰い替える〜  作者: セルヴォア


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4/6

図面の中の死角

夜の宮殿は、昼より静かで、昼より多くを喋る。


零は西棟へ続く回廊の角で足を止めた。灯りは半分だけ落としてある。磨かれた石床が青白く光り、柱の影が細長く伸びていた。


昼のうちに、彼は警備を変えた。


変えすぎないように変えた。


露骨に固めれば敵は引く。普段通りに見せれば、必ず一度は覗いてくる。相手が宮廷の内側を知っているなら、なおさらだ。


西棟接続階段の踊り場。


儀礼回廊の二階通路。


そして女帝寝所へ続く最後の曲がり角。


零は三つの穴のうち、ひとつだけを残した。西棟の踊り場である。近衛は遠ざけ、代わりに気配を消せる二人を別角へ伏せた。誰を置いたかは、敵に知らせる必要がない。


足音がした。


軽い。


鎧ではない。


零は振り返らずに言う。


「いるなら出てこい」


柱の影から、赤い髪が現れた。


セレナだった。


暗闇の中でも、紫の瞳だけが猫のように光って見える。体へぴたりと沿う黒装束は、胸から腰、腿へ流れる線を鋭く見せていた。細いくびれの下に、殺しに特化した脚が伸びている。


「副官としては、上官が死ぬかもしれない夜は気になります」


「見届け役か」


「半分は」


セレナは肩をすくめた。


「もう半分は、団長が本当に見えているのか確かめたかったのです」


零は答えない。


説明しても信じない顔だったし、信じさせる必要もまだなかった。


その代わり、踊り場の上を見た。


来る。


死の像は昼より淡い。だが十分だった。灯りを落とす手、落ちた直後に首を狙う軌道、逃げ道まで見える。


「伏せろ」


セレナは問い返さず床へ沈んだ。


次の瞬間、頭上の灯りが砕ける。闇が落ちた。


同時に、踊り場の手すりの向こうから黒い影が飛ぶ。


零は半歩だけ前へ出た。斬るより先に、相手の落ちる位置へ体を入れる。短剣が肩を狙って来たが、軌道はもう見えている。


剣の鍔で刃を逸らし、返す一撃で手首を断った。


男が呻く。


二人目が柱裏から飛び出す。零はそちらを見ないまま肘を入れ、喉を潰す。体勢が崩れた相手の膝を払い、石床へ叩きつけた。


奥で、別の金属音が鳴る。


セレナが三人目とやり合っていた。低い姿勢のまま懐へ潜り、短剣を相手の脇腹へ滑らせる。赤髪が闇の中で一度だけ翻った。


静かになった。


血の匂いが、冷えた空気へゆっくり広がる。


零は生きている一人を引きずり起こし、懐を探った。出てきたのは、短弩用の特製矢と、細い金属札だった。


札の縁に刻まれた文様を見て、目が細くなる。


「何か分かったか」


セレナが横へ来る。


零は札を指先で示した。


「宮廷の備品庫です」


「外の刺客ではない」


「ええ」


零は倒れた男の顔を見下ろした。荒事に慣れた兵の顔だ。金で雇った盗賊ではない。配置も、待ち伏せ位置も、宮殿の中を知っている動きだった。


女帝を狙う刃は、外から入り込んだのではない。


最初から、ここに置かれていた。


セレナが笑う。


「少し訂正します」


「何をです」


「団長は、当たりかもしれません」


零は金属札を握り潰した。


遠くで鐘がひとつ鳴る。


夜はまだ深い。だが、敵が宮廷の内側にいるなら、朝までにもう一手くらい打ってくる。


「セレナ」


「はい」


「捕らえた一人を地下へ回せ。口を割らせる前に死なせるな」


セレナの紫の瞳が楽しげに細くなる。


「そういう命令は嫌いではありません」


零は踊り場の上を見た。


石と闇しかないはずの天井が、彼には別のものに見えていた。


まだ細い。


だが確かに、宮殿の奥には、この夜の暗殺騒ぎだけでは済まない死の流れがある。

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