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女帝の死神は玉座を喰らう〜最強の死神は、女帝を救うため帝国を喰い替える〜  作者: セルヴォア


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3/6

赤髪の副官

宮殿の裏回廊は、噂が走るのが早い。


セレナは石壁にもたれ、指先で短剣を弄びながら、その噂を聞いていた。


新任団長が初日で女帝を救った。


儀礼回廊で四人を潰した。


しかも最後の一人は生かして捕った。


くだらない尾ひれなら聞き流す。だが今回の噂には、妙な静けさが混じっていた。大げさに騒ぐ声より、実際に見た兵の息の詰まり方が本物だった。


セレナは壁から背を離す。


赤い髪が肩でさらりと揺れ、紫の瞳が細くなった。全身に沿う黒い任務服は薄いのに丈夫で、腰から腿へ流れる線を隠さない。細い体つきに見えて、動くたび刃のようなしなやかさが滲む。


影の死神団の副官として、何人もの新任を見てきた。


威張るだけの貴族上がり。


腕は立つが頭の足りない殺し屋。


女帝の威光を借りて長になったつもりの馬鹿。


どれも長生きしなかった。


今回もその類なら、早めに見切りをつけるだけだ。


だが、女帝が自分の執務室へ直に上げたと聞いて、さすがに眉が動いた。


重い扉の上の採光窓から、室内の灯りが漏れている。セレナは気配を殺し、その横へ滑った。


中では、低い女の声がしていた。


「単独護衛を命じる。今日から、私の回廊、執務室、寝所前の警備は、おまえが組み直せ」


エレノアの声だった。


朝の謁見用より少し軽い黒のドレスに替えているらしい。扉の隙間から見える横姿だけでも分かった。銀髪は結い直され、うなじの白さが細く覗く。胸元は朝よりもわずかにやわらかく開き、深い黒布の下で豊かな膨らみが静かに主張していた。


玉座の上では氷のような女が、執務机の前では別種の艶を帯びる。


それでも、目は冷たい。


向かいに立つ男だけを除けば。


零は地図台の上に広げられた宮殿図面へ視線を落としていた。


「恐れながら、三か所、致命的な穴があります」


「申せ」


「まず儀礼回廊の二階通路です。装飾幕の裏に一人伏せれば、下の列へ矢が通ります」


間を置かず、零の指が別の場所へ移る。


「次に西棟への接続階段。護衛は正面だけを見ます。踊り場の灯りを落とされれば、上から短剣が飛ぶ」


さらにもう一つ。


「最後に寝所前です。内鍵の前に立つ近衛は安心しすぎています。扉を破る必要がない」


セレナは無意識に短剣を握り直した。


そこまで読んだ新任は初めてだった。図面だけで言い当てていい場所ではない。実際に血を見てきた者の目だ。


エレノアが黙る。


沈黙のあと、低く問うた。


「なら、おまえならどう使う」


「使わせます」


零の返答は短い。


「今まで通り穴を塞げば、敵は別の穴を作ります。ですから一つだけ残し、そこへ誘導します」


「囮は」


「必要なら、私が立ちます」


声に見栄がない。


セレナはそこで、ようやく口の端を上げた。


面白い男だ。


死ぬ覚悟を売り物にする者はいくらでもいる。だが、死なずに相手だけ死なせる算段を、これほど冷静に言う男は少ない。


扉の内側で、エレノアが机を指先で一つ叩く。


「よかろう。今夜の動線はおまえに任せる」


「承知しました」


「ただし、人前では礼を崩すな」


零がわずかに目を上げる気配がした。


「分かっております」


セレナは気配を消したまま、その場を離れた。


試す価値はある。


もし本物なら、この男は死神団にとって当たりだ。


もし偽物なら、今夜の囮で死ぬ。


どちらにしても、退屈はしなさそうだった。

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