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「なんでこんな状況になってるんですかね・・・」
心底疲れたような表情から搾り出された彼女の声は、呆れとも諦めとも取れるため息と共に吐き出され、疑問を投げかけた相手への不満を表しているようにも思えた。
「心配せずとも毒など入ってはいないが?」
「わかってますともっ!!」
その相手であるガルクラウニーは、白いクロスの敷かれた丸テーブルに肘をつき、優雅に立派なティーセットで紅茶の香りを楽しんでいた。まるでもてなしをしたかのような発言ではあるが、このティーセットもテーブルも椅子も、ついでに言うならば茶葉も湯をわかしたその火種ですら彼女のーーティエラのマジックボックスから出てきた物である。
更に言うならば、お人好しにもしっかりと茶器を温める段階を踏んで紅茶を淹れたのもまたティエラであった。
「そうカリカリせず寛ぐがいい。
急ぐ旅でも無いのだろう?」
確かに急ぐ必要はない。第一の目標であったガルクラウニーを探すという目的は達成されたのだし、うっかり戦闘にでもならない限りはMPタンクの数にも未だ余裕がある。
だからといって魔人とお茶会をするために探し回ったわけではないし、ゆったりと寛げる程信用した相手でもない。それでも求めに応じてお茶を啜ってしまう辺り、ティエラの神経も相当に図太いように思われる。
そもそもは1時間ほど前のことだ。魔人の反応をティエラが見つけたのは、単独行動を開始した翌日のことで、あっさり現れそうだと感じたティエラの勘が正しかったとも言える。
場所はアイゼストの中心部、王都として栄華を誇った巨大な街の、その王城の内部。
まさか謁見の間でふんぞり返っているのではないかと顔を顰めたティエラの予想をここでは裏切り、魔人ガルクラウニーは王城内部に作られた室内型の庭園の中で、意外にも草木に水を与えているところだった。
王城にはすっかり人気がなくなって静まり返っていたが、装飾や家具類の多くはそのまま残されていて、なるほど拠点にするにはこれほど都合のいい場所もなさそうだ、とティエラには思えたし、実際にここを拠点とするガルクラウニーはまるで生活を楽しんでいるかのような態度で、庭園に現れたティエラを迎えたのだった。
「思いの外早い到着だが・・・ふむ、身軽になったものだ」
「・・・お陰様で、と言うべきかしら?」
元々マジックボックスのお陰で荷物らしい荷物など無かった。それをこのように評するのは、ガルクラウニーの皮肉なのかあるいはユーモアのつもりなのか、その判断をティエラは保留にすることにした。
「誰しも自分の物差しを持っているものだ。
そして他人の物差しを見ることなど誰にもできん」
単独行動の理由など、彼にはお見通しのようであった。そしてその慰めとも取れる言葉は、はからずもティエラの抱える他者への恐怖心を見事に言い当てていた。
「魔人に人間関係を諭されるとは、世も末だわ・・・」
「渦中にいる人間だからこそわからぬことも多かろうさ。
なにか一つを善であると信じ込めば、それ以外は見えなくなる。
そして自分や、自分のコミュニティに属するものこそ正しいと決めつけたがるのが人間だ」
「魔人は違うとでも?」
「人間の視点も全く忘れたわけではないさ。
我らの行為が生けるものにとって害悪であることくらい、承知の上だ」
「それでも成し遂げたい何かが、ある・・・?」
「そこまで強い思いでも無かろうが、な」
魔人の目的。それが魔人にとってだけの善であるならば、まさしく人間の敵と定義してもいいのかも知れない。しかし、たった3人。今存在する太古の時代から生きる魔人は、たった3人しかいないのだ。
(私なら、仲間が2人しかいないような状況ならば・・・)
自分以外の全てが魔物で、人間はたった3人。そんな状況で、自らの正義を振りかざそうとするだろうか?
(きっとただ声を潜めて、精一杯生き延びることだけ考える)
ティエラにとってはそもそも生き延びようとするかどうかすら疑問ではあったが、それでも仲間を生かすために自分が必要なのであれば、恐らく必死に生きようとするだろう。だが、それだけだ。自身の主張を世界に反映させようなどとは、きっと思わない。
「我らは・・・いや、我に限った理由か」
それは、彼女が待ち望んだ答えであり、核心であるはずの話。静かに、ティエラは言葉の続きを待った。
「公平でありたいのだ、我は」
ぼそりとつぶやかれた言葉は、確かに核心であるはずなのだが・・・その意味を理解できるような具体的なものでは無かった。
しかしただ一つ確かなことは、この魔人の物差しで見て不公平であると判断されるような何かがある、ということだ。
「世界中を混乱に導かなければ釣り合いが取れないほどの不公平って・・・
そんなの、逆に一体誰がそこまで得をしているっていうんです?」
「得をしている、というのとは違うがな。
・・・この世界の平穏が、ある犠牲によって保たれている。
それはあまりに不公平では無いかな?」
その言葉を最後に、ガルクラウニーは口を閉ざしてしまった。明確な解答を与えるつもりはそもそも無いらしい。そのヒントで答えにたどり着けるのかどうか。ティエラは、自分が試されているのかもしれないと、そう思った。




