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書き溜め分がこれで無くなってしまいました…
以降不定期更新となるかまた書きためるかはちょっと考え中です
また一口お茶を啜り、ティエラは思案する。
犠牲、そしてその犠牲に気づくこともなく今生きている人々・・・それはなんとなく、遺跡で壁画を見た時の感想を思わせる。
(これが、魔人を封じた魔道士への復讐のため!とかだったらなぁ・・・)
復讐が理由であるならば、今の世を生きる人間たちには関係無い、とばっさり切って捨てられそうなものなのだが、古代文明時代から今に至るまで、世界が本当に何かを犠牲にしているというのであれば、それを不公平と表現する魔人の言い分は決して間違ってるようには、ティエラには思えなかった。
だからといって人間に対して好き放題していいというわけではない。ただ、大義名分があるのか無いのか。それは大きな差であろう。
一方で、ガルクラウニーの言葉を反芻しながら目を伏せ考え込むティエラの姿は、かの魔人にとっても驚くべき光景であった。彼が人として生きていた時代から、魔物とは忌むべきものであり、討伐すべき対象であった。時代背景は違えど、この時代を生きる者たちにとってもそれが同様であることは既にガルクラウニーも知っている。にも関わらず、目の前の少女はそんな魔物の言葉に耳を傾け、そしてその意味について真剣に考えているらしかった。
「・・・おぞましい魔物の言葉の意味など、考えるに値するものか?」
思わずそんな疑問が浮かび、そして同時に声として漏れる。
無意識に口に出した疑問は、ティエラの耳にもしっかりと届いたようだった。その証拠に、彼女はきょとんとした目でまっすぐにガルクラウニーの方を見つめていた。
「魔物と魔人は・・・というか、きっと人間以外にもいるのでしょうね。
んー、いわば魔獣?とでも呼んでおきましょうか。
魔物と魔人、そして魔物と魔獣は、まぁ、別物だと思ってますよ」
「別物?」
「ええ。そもそも私が魔人という呼称を敢えて使ってまで魔物と区別しているのには理由がありまして」
静かにカップを置いて、ティエラは一呼吸置く。注がれている液体がゆらりと揺れて、表面に映る彼女の顔をぐにゃりと歪めた。
思い出されるのは幼い頃の忘れられないあの旅のことだ。
初めての旅であり、初めての戦いを経験した旅であり、そして思いがけず世界樹と縁を繋いだ旅だった。
「人間が魔物化する様子を、そしてそこからさらに魔人と化す様子を見たことがあります。
魔物であったとき、彼は言葉も話せず、ただ憎しみを果たそうとしていたように思います。
それがまるで本能であるかのように」
ひと呼吸置いて、ティエラは続ける。わずかに首をかしげて斜めに視線を送る様を見るに、どのように話したらいいのか考えているのだろう。
「理性を取り戻した彼は、再び憎しみに身を委ねました。
・・・今度は自分の意思で」
「理性の有無がそれほど重要か?
成したことは同じであろう?」
ガルクラウニーの疑問に明確な答えを出せるほどに明確な倫理観を、ティエラは持ち合わせていなかった。責任能力の有無。それは奏として日本で染み付いた慣習に過ぎない。
「うーん、そう言われると弱いんですけどね。
・・・なんといいますか、人は本当の欲望はどうあれ、法や良心によってそれを制御したりしますよね。
理性が無いというのはそれができない状況だと思うんです」
「制御できないのだから仕方がない、ということか?」
「できないからそこに責任がないとか、罪はないという気はありませんけど・・・
元々はその良心や制御する力を含めてその人を判断していたはずで、それができない場合の行動だけを見るのはその人の一部を評価しているだけといいますか。
まぁこれはあくまで私の個人的な考えです。
善悪の判断は基準が人それぞれですし、そこは魔物と魔人を区別している理由のわずかな一面に過ぎません」
魔物と魔人、そこに存在する差が理性の有無だけであると仮定したとしても、ティエラがここまでで語った”心情的”な部分だけでなく、結果その能力に大きな差が生じる。実際に戦ったティエラだからこそ、ティエラはその差を脅威であると感じた。それこそが彼女が魔物と魔人を区別する最大の理由である。
「私が遭遇した彼は、元々戦闘に長けた方ではありませんでした。
戦闘経験が少ないからと言うのもあると思うんですけど、理性がない状況では力任せに向かってくるだけでした。
けれど理性を取り戻してからは魔法を使ったんです。
それも、どう使うのが効果的か考慮された魔法を」
元々魔道士であったり剣士であったり、そういう戦闘経験がある相手であったならば抱いた感想は異なったのかもしれない。魔法を使い慣れた人間ならば、理性を失った状態でも体に染み付いた魔法による戦闘を仕掛けてきた可能性もあるのだ。
しかしタリムは違った。
魔法は恐らく付与魔法ばかりだったのだろう。それ故にそれなりの魔力は持っていたはずだが、攻撃魔法を使い慣れていたわけではない。結果、彼が魔法を使い始めたのは理性を取り戻した後であった。
「要は魔物と魔人で脅威度が違うというのが私の認識です」
ティエラはそう結論付けて、再び紅茶を啜った。




